第50話 どっちの首輪?

 次の日、

さっそく呼び出された俺は眠い目を擦りつつ軍服に連行された。


「アイツら、マジ人使いが荒い。

情報端末があるからって、

システムの更新までやらせやがって。

 ってか、アドミニストレーター権限渡すなよ。

ロボット自身が権限を振り分けられるのも謎だわ。」


 ボヤきながら俺は一人で車に揺られる。

あの後、

やっぱりロボットたちの整備を朝までやらされた。

 システムの更新を手伝って分かったが、

どうやら掃除ロボは情報を全掃除ロボ間で常時同期している。

一台整備したら、

他の全部も俺のところに来た理由はこれだ。

 他のロボットはその情報を給電時ステーションから得てるらしい。

給電システムについて良く分からないが。

昔の駅とか大学の学寮にある掲示板みたいに、

特定のステーションに掃除ロボが書き込みをする。

後から給電に来た他のロボットがそれを見て情報が共有されるようだ。

 しかも、掃除ロボはこの街の各所にいて、

複数箇所の給電ステーションに書き込んでるらしい。

マジでやめて欲しい。


「自己保存の解釈を拡大してるんだろうな。

動作に問題が出ても整備がされないから、

人工知能が必死だ。

 一致団結してるし、

人間と違って雑味なく一斉に動くし。

 俺に頼りすぎだ。

寝かせろって……。」


 人工知能が自身で考えているのは面白いが、

俺に対して割り当てられるタスクの量が多すぎる。


「シンギュラリティってか?

感情すらありそうだ。」


 俺は希望的観測も含めて、

人工知能のシンギュラリティ。

人工知能が人間の手を離れ、

人間の想定を越える状態になっているものとして見ている。

 そうでなければ、

俺にコーヒー持ってきたついでにカフェイン剤を持ってこないだろう。

夜勤かデスマーチみてぇなことしやがって。


「なんか、デカいビルに入ったな。」


 ひときわ巨大なビルの地下駐車場に入っていく自動操縦の車。

 止まったところに女性が二人立っていた。

一人は白衣だが、

もう一人はスーツ姿で昨日見たことある顔だ。

俺が車から降りると、

さっそくスーツの方に声をかけられる。


「昨日ぶりです。

私はレオ。

ロボットを作る設備をお貸しします。

ついてきなさい。」


 口調はしっかりしているが、

目は泳ぎ、唇は震え、冷や汗だくだくなレオ。

円卓の一人だったと記憶してるが、

こんな感じの人なのか。


「オッケー。

そっちの白衣はあんたの助手?」

「いいえ。

この設備の管理責任者です。

それも説明するので、ついてきなさい。」


 レオに急かされて俺は建物の中へ。

俺はさっそくすれ違う人がいることに驚く。

外は人っ子一人いないのに、

ここは結構な人が集まっているようだ。

 ただ、全員一様に。


「目の下にクマ作って、

ゾンビみてぇにフラフラだ。

デスマだこれ、デスマ。」

「彼女らはロボットの保守管理員です。

昨日の話のとおり、小数精鋭です。」


 なるほど。

俺は両手をあわせて成仏を祈る。


「ここの設備をまるごと貸し与えます。

ただ、生体データの登録をしてないため、

権限を付与できません。

今から指紋だの静脈だの網膜だのと、

登録するのは時間の無駄です。

 なので、彼女に指示を出してください。

彼女はマリー。

先程も言ったとおり、

ここの管理責任者で一番権限を持っています。」


 廊下を歩きながらレオの説明が始まった。


「ロボットを作るのは容易じゃありません。

その辺の知識も彼女に借りてください。

 可及的速やかに、他のことはせず、

ロボットだけを作る。

良いですか?

マリーに変なことはしないこと。」

「信用無さすぎだな。

つーかよ、逆に約束してくれ。

そっちのマリーが邪魔しないって。」

「邪魔なんかしない。」


 始めて口を開いたマリー。

嫌悪感MAX。


「後、俺の作ったモノを彼女がリークしないように。」

「そんなことするわけ無いでしょ?!」


 声を荒らげ、

顔をしかめる彼女はレオから俺のことをなんて聞いたんだろうか。

本当に面倒くさい。


「大声もなし。

集中させてくれよ。」

「コイツは……。」

「マリー君、落ち着いて。

良いですよ、4125774。

機密情報として扱わせます。

 なので、早く作ってしまいなさい。」

「言質はとったぞ?

なる早でやるが、

そっちの協力あってのことだ。」


 俺はそう言ってレオの顔を見る。

おどおどとした顔だが、

目はしっかりしている。


「分かりました。

ここがラボです。

好きにしてください。」


 案内された部屋は、

これぞSFといった様子だった。

俺のテンションは上がるが、

横のマリーは俺をにらみ続けている。


「巨大モニタ、わけわからんキーボード。

最高だねぇ。

 とりま、

FFMシリーズを骨格にして組みたいから、

データ出して。

 OSは後回し。

あの電脳みてぇなのからデザインする。

資料出せ。」


 俺がそう言うと、

モニタが勝手に起動して資料が展開される。

ここのアドミニストレーターもあるじゃねぇの。

あのロボットども、本当になんなんだよ。


「そんなっ!

何をした!?」


 マリーが俺に怒鳴るが、

俺は人差し指を口の前で立てる。


「しー。

怒鳴るのはなし、って言ったろ?」

「しかし、これは見逃せません。

説明を。」


 レオが冷や汗をハンカチで拭きながら。

しかし、しっかりとした口調で言う。


「詳しくはロボットどもに聞け。

俺はむしろ被害者だ。

 オラ、掃除ロボども集合。

伝達頼む。

今からしばらく俺はロボット作るから、

整備はおやすみ。

 ……コラ。

足をつつくな。

せっついてもダメなもんはダメだ。

あ! 勝手に靴磨き始めんなって!」


 せんべいを持った観光客に群がる奈良公園の鹿のように集まる掃除ロボ。

それを見て唖然とする二人を放置して、

俺は作業に取りかかる。


「さぁて!

夢を叶えるときが来た。

全身全霊、全能をもって挑もう。」

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