閑話 円卓

 バネロたちは円卓の部屋に残っていた。


「本当に、いいのか?」

「決議後に言うのはどうかと思うよ、

チップ。」


 心配そうなチップ。

それをたしなめるトリス。


「口から出任せじゃない。

計算もされた案だったように思えるね。

あそこまで考えられる人間が今何人いる?」


 トリスは解放軍で認知能力が低い壁の外の住人と関わることが多い。

彼女たちはいわば、

かんしゃく持ちの子どもだ。

 あの男の言う通り、

彼女たちは損得より感情を優先する。

おかげでどんなに計画の佳境に差し掛かっていたとしても、

カッとなって台無しにしてしまう。

下手をすれば、

損得の計算すらできない者までいる。


 それすら計算にいれている恐ろしさ。


 チップは国の医療と保健に関する部門の長だ。

裏では男の保護施設の管理もしている。

なので、

保護施設にいる男の教育と実情をその目で見ている。


「あんなのが男な訳がない。

アレは、悪魔だ!」

「彼の談だが、

認知能力に男女差はないと言うぞ。

単純に教育の差だと。

 どんな記憶が埋め込まれたら、

ああなるんだろうな。

その辺りを詳しく知りたい。」


 バネロは舌なめずりしそうな顔で笑う。

バネロは最古参と言うこともあり、

軍部と交通機関の部門の長だ。


「それはそうと、

アレをうちであずかるんですか?」


 時間がないと言った女性が自信なさげに言う。

彼女はレオ。

製造、食料に関する部門の長だ。

彼女は続ける。


「ロボットを作る要求、でしたね。

理由をつけて後回しにしますか?」

「むしろ、先にやらせても良いんじゃないか?

どんなロボットを作るか見たい。

 搾精のロボットと言うことだが、

我々を脅せるほどの兵器を作るのかも知れん。」

「バネロ様、脅かさないでください。

それは冗談でも危険すぎます。」


 レオはおどおどと狼狽えはするものの、

しっかり物は言う。


「私も危険なものにおもえました。

アレを監禁しているホテルを襲って拘束しますか?

今なら二十分もあれば完了します。」

「そんなに急くな、リンキー。

今逃げられても困る。

また軍部のロボット兵が減ってしまうぞ。」


 バネロにたしなめられたリンキーは、

経済と気象、

特に『オメガ』の動向を監視する部門の長だ。


「私としてはあの遺伝子をたどって、

近い者の認知能力を計りたいですね。

 もし、アレ血縁者も優秀なら、

是非DNAサンプルを保存しておきたい。」


 腕を組み、そう言う女性の名はライト。

彼女はライフラインを管理している部門の長だ。

彼女自身は開発に携わりたかったと言う程、

化学に傾倒している。


「彼の案がなければ、

私は壁の外の住人を男と同じように保護施設に入れて管理する案を提案するつもりだった。

それよりあれの方が良い案だ。

 あの頭脳はもう少し利用できる。

処理は後でも良い。

ただ、監視は続けろ。

何かあったら頭は守れ。

記憶データが欲しいしな。」


 バネロはそう言いながら席を立った。


「今日は解散だ。

明日から皆、

寝る間も惜しんで働いて貰うぞ。

 まったく、

身体を改造して無理矢理に長生きした甲斐があった。

今日ほど笑ったのはいつぶりだろうか。」


 この国の平均寿命は、約三十八歳。

七十二歳のバネロの身体改造は大部分に及ぶ。

彼女自身が無理矢理と言うほど、

無茶な施術も多数していた。

 彼女自身が正常な遺伝子を持った少ない人材だからだ。

遺伝子的多様性を少しでも保つため、

正常な遺伝子を持った女性には長くたくさん出産してもらう必要がある。

 彼女は自分から進んで、

少しでも良くなれば、と言い。

卵子を数十個提供し、

自身でも八人の子どもを産んでいる。

 閉経後もこうして国政に力を注ぎ、

世界の危機を救うため人生を賭してきた人物だ。


「もう絶望を眺め続けるのはうんざりなんだ。

この希望に私は余生も後生も賭けたい。」


 バネロはそう呟いて部屋を出た。

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