第2話 KADOKAWAで顔合わせをしてきた話
2023年秋某日、僕はスケジュールを合わせてKADOKAWA本社へ来ていた。
件のライトノベルに関する打ち合わせである。
この時点で流石に自分が執筆するとは思ってなかった。きっと作者先生と担当さんと顔合わせをして一緒に協力して作品を作っていきましょうみたいな話だと思っていた。
でもワンチャン、もしかしたら設定とかキャラ位は採用してくれるかもしれないとこっそり考えてノートにメモしていたのだ。話の流れで切り出そうと認めていたノートを忍ばせてKADOKAWA本社へ。
待合ロビーに陳列してある見本誌を眺めて待っていると編集さんが登場。
良かった。優しそうな人だ。勝手に同族の匂いも感じていた。編集さんは怖い人もいるかと思っていたのでまず一安心。
早速社内の会議室へ通され早速打ち合わせという流れに。
あれ、作者先生はいないのかな? とキョロキョロしていると編集O氏が口を開いた。
「実は吉好さんにライトノベルを執筆していただきたく……」
「は……?」
「ですから吉好さんに落語がテーマのライトノベルを書いていただきたく……」
「えっと……監修とかじゃなくて……?」
「できれば原作、執筆をしていただきたく……」
「……」
あまりの事態に思考が停止してしまった。
そりゃ最初は自分が書くのかな? なんて淡い期待もしたが流石にそれはないと現実に立ち返っていた。
それがまさかまさかの執筆という話。
「ちょ、ちょっと失礼します!」
僕はトイレへ行き即座に嫁にLINEした。
『僕が書くんだって!』
『えぇぇぇ! 大丈夫? 荷が重くない?』
『だ、だよね。どうしよう?』
『他の人と一緒にとかじゃダメなの?』
『あ、それだ!』
こんなやりとりをしたと思う。
学生時代からの友人でライトノベル作家がいたので彼女と共作って方向に持っていけないかと思案した。
僕はスッキリしたふりをして会議室へ帰り相手の出方を見る事にした。
「えっと、これって僕が一人……で書く感じですかね……?」
「そうですね、できれば。吉好師匠の存在を知って、この人ならって思ったんですよ」
おおう……。とりあえずそういう方向らしい。
光栄なお話である。学生の頃は小中高とずっと演劇の脚本を書いてきた。大学生の頃は二次創作の小説を書いていた。そして今は新作落語を書いている。
創作する事に費やしてきた人生でまさかファンタジア文庫でライトノベル作家デビューという天にも昇る気分なありがたいお話。
すぐにでも飛びつきたい……が、憧れの舞台だからこそ、ファンタジア文庫作品の素晴らしさを知ってるからこそそこで戦っていく自信はまだなかった。
出すからには記念で出しましたという作品にはしたくない。キチンと評価してもらえる作品を世に出したいと思う。
プロとしてのプライドと、ファン目線、現実、色々な感情に挟まれ葛藤をしていた。
この後どんな方向性の話を書きましょうかというプレゼンがあった。
ライトノベルなので主人公は10代がいい、美少女要素とかあるといいetc……
しかしこの時点でもまだ自信がなく「やります!」と即決できずにいた。
そんな内心を知ってか知らずか担当さんが
「まぁ今日は顔合わせという事で飲みにでも行きましょうか」
と誘ってくれた。
正直なところ内心では断る……までいかなくても何か別の形で関われないかと考え始めていた。
とはいえなんて切り出したらいいかわからなかったところで飲みの誘いはありがたい。せっかくなので美味しいお酒を飲んで気持ちよくなればどういう形で関わるか思いつくかもしれない。担当さんに連れられ美味しい中華屋へと行くのだった。
そして…
「美少女の魔王が召喚されて前座修行するってどうですかねぇ?」
「お、いいですねそれ」
「それでそれで、〇〇が〇〇とか」
「面白いですね。なんか吉好さん書けそうですね」
「えー! 本当ですか?」
そう、僕は酒が入ると調子に乗るのだった。
担当さんとの話にこっそり考えていた設定ノートからおり混ぜアイディアをポンポン出していった。
お酒を飲みながら話しているうちにだんだん楽しくなってきて本気でいけるかもって気分になってきたのだ。
もちろんここで出たアイディアがそのまま使われたわけではないが雛形の雛形位になったのは間違いない。
「それでは書いていただけるという事で……」
「わかりました、やりましょう!」
先程まで内心ビビっていたとは思えない引き受けっぷりだ。
お酒の勢いだけで決めたわけではないが、このお酒の席がなかったらライトノベル作家デビューはまた違う形だったかもしれない。その辺やっぱり芸人だなぁと思う。
帰りの電車で嫁にLINE。
『僕が書くことになった(・ω<) テヘペロ 』
『えぇぇ、大丈夫?』
『大丈夫、大丈夫!』
翌朝冷静になってまたガクブルするわけだが……
そんなこんなでライトノベル作家デビューが(仮)決定するのだった。
続く
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