エピローグ①誰かの慟哭
私は事務所をクビになってから引きこもりになった。ファンと恋愛関係になっての解雇、あれから私に向けられた視線はもう好意的な物はない。友達だった子達も私を腫れ物のように扱う。ナオくんとの関係も終わった。綺麗な言葉で振られたけど、要約するとアイドルを辞めた私にはもう興味がないっぽい。ママとパパは優しいけど、それが返って心が痛くなるから放っておいて欲しいのが本音。
「続いてのニュースです。」
部屋でぼーっとテレビをみる。ただ時間を潰すことだけが今の私の生きがいだから。
「人気地下アイドルを殺害、熱狂的なファンの男を現行犯逮捕。はい、人気地下アイドルグループのBLUE ECHOでルリの名前で活動していたフタバアオイさん二十歳が都内にある所属事務所フルカワ芸能事務所の入り口付近で、ファンの男に刃物で刺され死亡するニュースがありました。」
ゴト、と麦茶の入ったコップを倒す。麦茶が床に広がるも私はそれどころじゃないとニュースに釘付けになる。
「殺人の疑いで現行犯逮捕されたのは東京都内に住む会社員のアキナリョウ二十五歳です。警察が駆けつけた時にはアキナ容疑者は事務所のスタッフ二人に押さえ付けられており、近くに血のついた刃物が落ちていたそうです。フタバアオイさんは事件の後すぐに救急車で運ばれましたが、その後死亡したそうです。」
容疑者として出てきた男の顔は見覚えのある顔だった。私をホテルに連れ込んだキモいルリオタクだ。
「警視庁によると、容疑者は取り調べに対し「ルリに頼まれてカナを殺そうとしたら、偽物のルリが庇った。」などと供述しており、一部に妄想的な言動が見られるところから精神鑑定も視野に捜査が勧められます。」
私はテレビを消す。近くにあったバスタオルで床にこぼれた麦茶を拭いた。
BLUE ECHO、もう懐かしいな。私が経験した最初で最後のアイドル。ルリは私に無関心で嫌な女ではあった。でも彼女の死に私はかなりショックを受けた。え、あの子居なくなっちゃったの、みたいな感情がずっと頭をグルグルしている。
それから全てが早かった。カナとレンが引退してBLUE ECHOも解散。新体制として復活させることも絶対にないと公式が発表した。カナもレンも何も言わないままSNSのアカウントを消した。運営がルリのアカウントも消した。そして動画投稿サイトに挙げられた私達のミュージックビデオもライブ映像も消えていた。それらはファンに無断転載されたが、公式からは完全にBLUE ECHOはなかった物として扱われた。二年間私がそこで生きていた証は跡形もなく無くなっていた。
あの男の初公判の日に私は気になって久しぶりに家を出た。裁判所に着くとそこにはたくさんの人がいた、何人いるかは数えられない。でもそこにいる人種的に、アイドルオタクが集まっているように見えた。全員あの男の裁判を見にきたんだ。それにしても多い。傍聴席って三十とかしか無いんじゃなかったっけ、これじゃあ入れないから帰ろうと踵を返す。
「あー、じょーるり君も来たの?」
「そりゃ来ますよ、最悪乗り込んでアキナ殺しますんで。」
「こわ!やめとけやめとけ!て言うかさぁ……。」
「なによ。」
「これブルエコ史上最大の動員じゃね?」
「うわ、本当のこと言うなよ!」
私は振り返り再び烏合の衆を見る。それは確かに私がステージの上で見てきた観客より遥かに数が多い。
「あはっ……あはは……。」
私は膝をついて泣いた。カナとレンとルリと駆け抜けてきた二年間を思い出す。私達は仲は良くなかったけど、苦しくて辛くて嫉妬して全力で走っていたあの日々は宝物のはずだった。それ結果得られた動員数は、私はあんまり貢献出来てなかったかもしれないけど、誇りでもあった。それを遥かに超える数の人々が、仲間を殺したキモいファン見たさに集まっている。
「なんだったの……私達……。BLUE ECHOってなんだったのよ……。」
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