第10章ーそれぞれの"本音"ー

翌日──


部屋に戻っても

全然眠れなかった


何度も何度も

あの夜の飛悠の表情と言葉が浮かんでくる


 


──今は、ここまでだ


 


優しかった

でも

突き放されるようで、苦しかった


胸の奥がずっとギュウって締め付けられてるみたいだった


 


スマホを握りしめたまま

何度も名前だけを眺めては、送れないメッセージを書いて消す


【お客さんとしてじゃなく、私を見てほしい】


何度も指がその文字を打っては消してを繰り返してた


 


だって──

私はもう、“客”じゃないつもりだった


お店で会ってるときの優しさも

店を出たあとのあの夜の距離も

全部、私だけに向けられてるような気がしてた


だから余計に苦しくなる


私は”特別”だって信じたいのに

でも、まだ”線”を越えさせてもらえない現実


 


「……っ」


溢れそうになった涙を

枕に顔を埋めて誤魔化した





***


その頃──


飛悠の部屋では

静かにタバコの煙が揺れていた


 


──まずいな


 


自分で呟いて苦笑する


 


玲那の気持ちなんて

とっくにわかってた


わかってた上で

「客としての距離」を保ってきたつもりだった


でも──


あの夜の、あの距離感

あの涙混じりの声

震えた手


全部が

今も頭から離れなくなってた


 


──まだ未成年

──俺が線を越えたら、絶対ダメだ


 


何度もそう言い聞かせる


でも胸の奥は

正直なところ

もう揺れ始めてる


 


玲那は”客”としてじゃなく

ちゃんと”一人の女”として

自分を求めてきてるのがわかる


それを受け止めるのが

怖いくらいだった


 


ゆっくりと煙を吐き出しながら

深く息をつく


「高校生に振り回されるとか……ほんと、厄介だよな…」


低く呟いた声が

部屋の静けさに溶けていった

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