第11章

あの夜から

私は何度もスマホを握っては

画面を眺めるだけの日が続いた


 


──送れない


どんな言葉を書いても

送信ボタンを押す指が止まる


「…会いたい」


小さく呟くだけだった


 


でももし私から連絡したら

飛悠くんに”重い”って思われるんじゃないかって

それが怖くて送れなかった


だって

あの夜

私が壊れかけたの、絶対わかってたはずだから


 


“迷惑かけた”

“またあんなふうに思われたら嫌われる”


そんな考えがぐるぐるして

余計に身動き取れなくなった


 


…でも本当は

ほんの少しでも期待してた


──あっちから連絡が来ないかなって


 


通知が鳴るたびにスマホを見た

でも全部、友達からの他愛ないメッセージばかりで

胸の奥がまた冷えていく


 


何日も、何日も

そんなのを繰り返してた


 


その夜だった


画面に、たった一通だけ

違う名前の通知が光った


 


【今日、少しだけ時間ある】


 


心臓が跳ねた


息が止まったみたいになって

震えた指で何度も画面を見直した


──ほんとに、飛悠くん…?


 


たったそれだけのメッセージなのに

涙が出そうになった


返事を打つ指も震えたまま、ようやく文字を返した


 


【会いたい】


 


送信ボタンを押したあと

胸の奥がズクズクと痛くなった


だけど

ずっと苦しかったこの何日間より

今は少しだけ温かかった



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