魂を描く女
キョウは、異才、という言葉では生ぬるいほどの、才能の塊だった。
娼婦の母から生まれ、父親は誰とも知れぬ。幼くして街に捨てられ、人買いに売り飛ばされ、そこから自力で逃げ出した後、各地を転々とする「歩き巫女」として、その日暮らしをしていたという。
彼女には、天賦の画才があった。
彼女が描く絵は、ただ上手いだけではない。まるで、魂が宿っているかのように、紙の上で動き、呼吸しているように見えた。風の絵を描けば、涼やかな風が吹き、炎の絵を描けば、身を焦がすような熱気さえ感じられる。
「あんたの絵も、同じだ」
初めて二人きりで画について語り合った夜、キョウは、私の絵を指して言った。
「あんたの絵には、『時』が流れている。千年の風が、その松の枝を揺らしている。常人には、決して描けぬ画だ」
見抜かれていた。レムがそうであったように、この女もまた、私の正体の一端を、その鋭敏すぎる感性で見抜いていたのだ。
私たちは、恋に落ちた。
絵師同士の、互いの才能への嫉妬と、尊敬。そして、孤独な魂同士が、互いを求め合うような、激しい恋だった。私たちは、画材の匂いに満ちたアトリエで、互いの肌に墨で模様を描きながら、夜通し体を重ねることもあった。
彼女は、私のこの人ならざる美貌を、ただの一つの「画題」として、ありのままに受け入れた。
「ああ、美しい。この世のどんな美しい風景よりも、あんたは美しい。ラン、動かないでくれ。今、あんたの、その永遠の貌(かお)を、写し取る」
彼女は、寝食を忘れ、私をモデルに絵を描き続けた。
彼女の筆は、私の外見の美しさだけではない。その奥にある、千年の孤独、エリーの怨念、レムとの別れ、その全てを、一枚の絵の中に封じ込めていくようだった。
だが、彼女の才能は、彼女自身の命を、蝋燭のように燃やし、削っていた。
あまりに純粋で、あまりに激しすぎる創作への情熱。それは、人の身には、過ぎた代物だった。
私と出会って、わずか数年。
キョウは、血を吐いて倒れた。その短い生涯の、最後の情熱を、全て使い果たしたかのように。
彼女が死んだのは、三十一歳の若さだった。
その手には、最後まで筆が握られており、枕元には、私を描いた、未完の最高傑作が、遺されていた。
私は、また、独りになった。
彼女の亡骸を弔いながら、私は、もう、人間と深く関わるのはやめよう、と、心に誓った。
あまりにも、哀しすぎる。老い、病み、死んでいく定めの人間を愛することは、この不老の身には、あまりにも、酷だ。
べていた。
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