句読点を度外視した文章に出会って悔しかった話
前回、句読点の話を書きながら思い出したことがあります。
或る人気ブロガーさんと懇意にしていたころのことです。
彼は本当に人気がありました。皆が彼に惹きつけられた理由はただひとつ、それは彼の話(文)が面白かったから、この一言に尽きます。
彼の誠実な人柄や聡明さはよく知っていたし、それが話の内容にも表れていたので人気者になるのもやむなしです。これほどリスペクトできる友人と関われた時間は得難い宝物であり、この出会いにはいまだ感謝しかありません。
そんな彼の話は本当に面白いんです。自分もその魅力に惹きつけられた一人でした。
し か し 、 自分にはどうしても我慢できないことが一つだけあった。
そ れ は 、 句読点の位置や改行が滅茶苦茶なこと。
ああ、つい熱くなってしまいました。言い直しますね。
彼の話は面白いが、文章の法則は完全無視。そういうことです。
彼の文章は、当時拙作を上梓したばかりの自分には衝撃的かつ物書きとしてのプライドを粉々に打ち砕くものでした。驚天動地とはまさにこのこと。
しかし裏を返せば、こんな句読点や改行をガン無視した文章でも文脈から内容を理解でき、且つ面白さが伝わるってある意味こいつ天才なんじゃないか、と愕然としたこともたしか。だって句読点の位置で内容が180度変わってしまうこともあるのですから。
例A:母は弟と、北京ダックを食べた。
例B:母は、弟と北京ダックを食べた。
文章に親しむ皆様なら両者の違いは一目瞭然でしょう。読点の位置を変えるだけで微笑ましい日常がホラーに変貌するのです。改行もしかり。段落ごとにまとめることの意味は言わずもがな。
それなのに、ああそれなのに、句読点や改行を度外視した文章から繰り出される彼の話はバカウケではありませんか。一歩間違えば血を見る大惨事になりかねないのにちゃんと伝わっているという摩訶不思議。ご多分に漏れず自分も抱腹絶倒、のけぞりすぎて椅子が壊れました(実話)。
おそらく彼はパソコンの向こう側で、勢いのまましゃべるように文章を書き連ねている。句読点の不自然な位置は彼の息継ぎだ。彼は頭のいい男だから脳内でプロットを瞬時に組み立て、同時にアウトプットすることなど屁でもない。そうやって自分の言いたいことを言い切った後は、校正も推敲もせずにEnterキーを押しているのだろう。うん、誤字脱字は多かった。だがそれすらも爆笑をかっさらってしまう。人柄ゆえか。そして読者は彼の息継ぎに否応なしに引きずられてゆく……。
そんな彼に対する羨望の意識が芽生えたことは否めませんでした。自分もド文系としてのプライドが邪魔しなければこんな文章書いてみたい、ちきしょー、と。
ところが、です。近年、彼のような文章を目にする機会が多くなりました。彼ではありません。「異世界ファンタジー」と呼ばれるジャンルをお書きになる作家様方です。文章云々は千差万別で個性的。国語の授業で習った文章の書き方などそれこそ度外視なのに、素晴らしき面白人気作品がweb上でずらりと肩を並べています。
それらを拝読し、思い出したのが彼のこと。彼と関わったのは10年以上も昔のことなのに、その個性はいまだ強烈に焼き付いております。あのとき彼の真似をして型にはまらない文章を書いていたら今頃は文芸界のパイオニアに……などと思わないでもありません。しかし、だからといってその文体は天性のものであり、真似しようと思ってできるものではないのです。
それでも、たまに彼を思い出し、真似してみたくなるときがある。だけど自分の文体を忘れたら戻る場所がなくなってしまう。自分の文体は自分だけのもの。胸を張れ。そして死守しろ。と言い聞かせ——。
悔しいけど、自分は自分の文体を貫くしかない、との結論に至りました。
悔しいけどね。
【むすび】
迷ったとき、悩んだとき、突然思い出した人は、ヒントをくれるために心の中に現れてくれた。そう思うことにしよ。
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