第15話 犯人はおまえ『たち』だ!
城戸は8人の情報をしばらくの間、見続けていた。
「どう? 城戸くん」
「この8人のメールの履歴を調べてみてくれないか?」
「わかったわ、今日のでいいわよね?」
「ああ、内容はともかく、メールの送受信の履歴、それとメール自体を消したりしていないかを特に調べてほしい」
8人のうち何人かが力を合わせれば、パンツを盗むことはできそうだ。
だがそんなパズルみたいな理由で犯人扱いするわけにいかない。
何人かが結託してやったのは間違いない。
だとしたら、犯人たちは必ず連絡を取り合っていたはず。
同じクラスにおれと本読がいるのはわかっているのだから、その能力を警戒して連絡した内容は消しているだろう。
だが内容は消せても、通信履歴は残る。
この8人のなかに、今日送ったり受け取ったりしたメールの内容を消していて、通信履歴だけが残っている人物がいたら、かなり怪しい。
「いるわね、メールを消してるひと。この3人よ」
「意外な組み合わせだな。この3人は交流はあるのか?」
「えっとね、ちょっと待って……そうね、猩目さんと狛沢さんは一年のとき同じクラスだったみたい。過去にもメールのやり取りがあるわ。奇慈花さんと狛沢さんは同じ部活に入っていて、先輩後輩の関係ね」
関係性があるのはわかった。
しかも5限のときのアリバイが、3人のうち2人、校舎にはおらず寮に帰っている。
これは、まさか寮の一室を犯行に使ったか?
直接本人たちに会いに行くべきだろうか。
だがメールの内容は消されている。
追求しても、しらばっくれるだけだろう。
「待てよ、たしか消されたメールは、まだ実際のデータが消されてなければ復元できると聞いたことがある。ということは、どこかにデータがまだ残っている可能性がある……? それって本読の能力で探せるか?」
「うん、いけると思う。やってみるわね」
手にした文庫本からまた青い光がけぶる。
本読紗夜子はアーカイブに記録された情報ならなんでも読むことができる。
母国語で記されたものでも、外国語で記されたものでも、異界の見知らぬ言語であっても、そしてそれが、普通ならアクセスできないメールサーバーのデータ保存領域であっても。
「あったわ……! うん、読める。ところどころ欠けてるけど、鬼吻さんのパンツを盗る作戦をねっていたことは、はっきりわかるわ。これなら証拠になるわね」
「ありがとう、すごいな」
「どーいたしまして」
本読は指でVの字を作ってみせた。
ぶいっ。
「ちなみにね、城戸くん。その3人と今日連絡を取り合って、メールを消したのはあと2人いるわよ。ひとりは摩雲さんが、もうひとりはカサンドラの登呂井さんが候補に挙げてる」
「ほう……、それは共犯の疑いが強いな」
その2人の情報は次のようであった。
⑨舟波電磁(ふねなみ・でんじ)
一年C組。公称十五才、男性。
機械いじりが得意。特に電気工作。
押しに弱い性格。
人間より機械のほうが好き。
自作の機械人形を恋人にしている。
異能は【機械廻し】。
電気で動く機械を、触れずに遠くから意思だけで動かす。
効果範囲は10メートルほど。
自分が電気工作やハッキングでできることしかできない。
コントローラーなしで電化製品を操作したり、壊れたPCからデータをサルベージしたりできる。
動かす対象の仕組みや場所がわかっていなければ能力をおよぼすことは不可能。
5限のときは授業をサボって寮にいた。
⑩吉備野糸絲(きびの・いとみゃく)
一年D組。公称十六才、男性。
手品や人形繰りが好きで得意。
手先は器用。
ニックネームはクモ男子、もしくはドフラ。
異能は【糸傀儡】。
非常に微細で軽い繊維を五指から発して、ひとの脳髄に差し込む。
そして差し込まれたひとを、操り人形のように動かす。
物体も動かせる。
精密な動きが可能だが、力は強くない。
射程距離は短い。2メートルほど。
もっと長くすることもできるが、操作性は格段に落ちる。
5限のときは授業をサボって以下同文。
城戸は声を出さずにうなった。
2人とも寮に帰っている。
やはりこれは、寮の部屋を使ったと見るべきだろう。
奇慈花だけ授業を受けているのが、いかにもアリバイ工作くさい。
おそらくなんらかの方法で身代わりでも置いたと思われる。
さて、この3人プラス2人でパンツを盗むなら、どうしたらいいだろう?
まず狛沢が【空間交換】で一年A組の教室を結界ごと交換する。
いや、その前に
空間交換する先は、おそらく寮の一室だ。
そのあと奇慈花が【新生命誕生光線】を
カバンの外側だけ小生物に変えて、あえて動かさない。
変えるのはカバンと色や模様の似た生き物、それでいてピタリと張り付くような、例えばカエルとかヤモリとか小さな甲虫だ。
カバンを小生物に変えたら今度はパンツだ。鬼吻のパンツも光線を当てて小生物に変える。
変える生き物は……。
「待てよ、このひとたちは寮の自分の部屋から出てないな。これでは協力できない」
「狛沢さんの能力で誰かひとりの部屋にみんなで集まったんじゃないかしら」
「なるほど、だけどそのためには全員分の部屋を、実際に目で見て確認する必要がある。やろうと思えばできないことじゃないが、よほど仲良くないと部屋なんか見せないと思うが」
「たぶん、やったのよ。その、パンツをゲットするために!」
「その目的、はたして犯人グループのモチベーションを上げることにつながるかな……」
奇慈花がパンツを小生物、例えばきのこの胞子やカビなんかに変えたあと、窓際まで移動させる。さすがに胞子くらい小さいものだとルール②には引っかからない。
そして窓際でゆっくり元のパンツへ戻す。
窓に張り付かせる形でパンツへ戻せば、おそらく窓の外の動きと誤認されるだろう。
窓の外の動きは結界のルール②に引っかからずスルーされる。
そして
鬼吻の結界は物体は素通りだ。
だが少しでも結界から外に出たら、重さが変わってルール③に引っかかる。
吉備野の糸はおそらく一円玉よりはるかに軽いので、中に数本入ってもアラームはならないはずだ。
そこで猩目の出番となる。
常に【なんでも数値化】で、結界の外に出たパンツの重さを測り続け、それと同じ重さの何か……例えば水滴や砂粒のような気づきにくいものを別の場所から結界内に入れていく。
わずか1グラムでも変わればアラームが鳴るのだ、最新の注意を払っただろう。
そうしてようやくパンツを結界の外に出すことができる。
これでパンツゲットだ。👍
あとは奇慈花が小生物に変えた物を元に戻し、狛沢が空間交換を解除して、舟波が監視カメラへの干渉をやめれば終わりとなる。
パンツひとつのために何人もの生徒が作戦を立てて、真剣に取り組んでいるところを想像すると思わず笑ってしまいそうになる。
特に最後の、同質量のものとパンツを少しづつ入れ替えるところなんか、実際に目の当たりにしたら吹き出すだろう。
ひょっとしたら、同質量のものとパンツを一気に、瞬時に、入れ替えたかもしれないが、それだとタイミングがちょっとでもずれたらアラームが鳴る可能性がある。
やはり慎重に入れ替えたのだろうと思う。
「だけど釈然としない点もある。今の方法を実行するには、個人の能力を少し限界を超えて使う必要がある。つまり、無理しなくてはいけない。全員が少しだけ自分のキャパシティを超えたことをやらないと成功しないんだ」
本読はうんうんとうなずいた。
「聞いてて、わたしもそう思った。できるかもしれないけど、そんなにうまくいくかしら……って」
狛沢は寮の部屋を含めて何度も空間交換を行わなければならないし、舟波は監視カメラに見つからないように射程距離ギリギリ(もしくはその外から)から能力を使わなくてはならない。
猩目と吉備野は集中力を要する正確な作業を要求される。
奇慈花の能力の限界がどの程度かはわからないが、同時にふたつ以上のものを小生物に変えて操る必要がある。しかも戻すときは結界のルール②に引っかからないように、ゆっくりと行わなければいけない。
城戸はあらためて占いで候補に挙げられた生徒たちの情報を読んだ。
何度か目を通すうち、気づくことがあった。
「そうか……それでこの生徒が挙がってたのか。ひとりだけ浮いてて変だと思ってた」
「え?」
「『
「わ、わかったわ」
はたして——。
桃谷すももと奇慈花榛那の所属する三年A組の監視カメラの映像には、その場でテキパキとサンドイッチを作って奇慈花に渡す桃谷の姿が映っていた。
さらにサンドイッチを複数入れた紙袋を奇慈花が教室外に持っていくことが確認された。
その後戻ってきた奇慈花は、特に桃谷に礼を言う様子もなく、席に着いて授業を受けている。
だがエネルギー映像で、体の一部がわずかに異様な反応を見せており、おそらくは誰かの異能で作ったダミーであろうと思われた。
城戸はフリーザーバッグに詰めたパンツを鬼吻に投げて渡した。
「ほら、取り返してやったよ」
「うわァッ、すげェぞ、城戸ォ。ありがとなァ。これ、誰が持ってたんだァ?」
「三年の桃谷ってひとだ」
「っ! あのひとかァ、なんか嫌われてんなって思ってたんだヨ。去年の文化祭で男に媚びすぎて笑えるとか言ったからかなァ」
「そんなこと言ったのかよ、まあでもそんな怒ってる感じじゃなかったぞ。ちょっと、とっちめてやる、みたいな可愛らしい言い方だった」
パンツ窃盗集団のリーダーは、桃谷すももだった。
奇慈花をはじめ、ほかのメンバーを集めて作戦を練り、役割を決めて命令をくだしていた(しかもメールを使わず口頭で)。
やり取りしたメールを消すように徹底させたのも、捜査撹乱のため奇慈花だけダミーを置くことを提案したのも彼女である。
ちなみにダミーを作った異能持ちの生徒は、先生たちには内緒で授業の代返などを請け負う小遣い稼ぎをしていて、パンツ窃盗とは無関係であった(奇慈花は対面で依頼しており、記録として残されていなかった)。
鬼吻はフリーザーバッグを開いてパンツを取り出した。
しげしげと見て、少し悲しそうな顔になった。
「城戸のパンツ、汚れちまったなァ」
「だからおれのじゃない。しつこいな」
「あらためて、このパンツ、いるかァ?」
「いらない」
「……今、新しいのはいてんだけどヨォ、そっちをやろうかァ?」
「い、いらないって言ってるだろ」
「礼だよォ〜、れ・い! それ、かぶって寮まで帰ってくんないかなァ?」
言ってまたスカートの内側に手を入れようとした。
「やめろ! いらねえし、かぶらねえ!」
「けけけけけェッ!!」
本読がはぁーっとため息をついた。
「城戸くん、もうパンツかぶってあげたら?」
「断固、拒否する!」
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