おこです
「なんだ、その目は。無礼だぞ!」
コタ殿下の叫びに、ルティは眉をつりあげる。
「おんなじ顔だからって、俺の中身を無視して、伴侶(予定)と引き裂いて、無理やり伴侶になろうとする人は、無礼じゃないのか?」
低く低く凍てつく声に、コタが目を剥いた。
「な──! ぼ、僕はコタ王国第二王子だぞ! 口を慎め!」
いつもはきゅるきゅるなのだろうルティの目が据わる。
「振りかざす身分がなくなったら、あなたには何が残る?」
コタの顔が、歪んだ。
「カティと同じ顔で、何を言うんだ──! カティは……!」
「カティが選んだのは、クヒヤ殿下だ。あなたじゃない。カティは強権を振りかざして言うことを聞かせるような人、大きらいだよ」
真実を告げてやった!
「な……! そ、そんなわけない、カティは……カティは──!」
コタの眼球が揺れる。
「選ばれなかったのが苦しいのはわかるけど。それで俺の顔だけ見て伴侶にとか、俺と伴侶(予定)を引き裂くとか、やめてくれる?」
追い打ちをかけるのは、かわいそうだ。思っても、口は止まらなかった。
「そんなことをする人だから、カティはあなたを選ばなかった」
「……っ!」
ぐしゃぐしゃになった顔で、コタが叫ぶ。
「不敬罪で、投獄せよ──!」
コタの命令に衛士が駆けつけるより速く、トトは剣を抜いた。
「死ぬ?」
コタが、ぽかんと口を開ける。
「……な、何、を……」
「俺、王宮にいる人、皆殺しにできるよ」
穏やかなトトから、ゆうらり立ちのぼるのは、闘気だ。
いつもやさしいトトの瞳が、冴え凍る。
「王族がいなくなったら、ルティが自由になるなら、殺す」
「……っ そ、んな、こと、が……」
トトが、剣を振り下ろす。
ドガァアアオォオオン──!
ただそれだけで、王宮の門が真っ二つに割れて、崩れ落ちてゆく。
「死ぬ?」
首をかしげながらトトが構える剣の刃が、冷たい光を放った。
「ひ、ィイ……!」
後退るコタを回収したのは、コタをよりきらきらに頭よさげにしたみたいな人だった。
よく似ている。
優秀だと評判の王太子殿下らしい。
「弟がひどい真似をしたようで、申しわけない」
頭をさげた王太子に、目を剥いたのは、コタだ。
「兄上! 平民に頭をさげるだなんて、なんてことを──!」
「ルティくんもトト殿も喜んでいると聞いて、本人に確認しなかった俺が愚かだった。
トト殿の伴侶(予定)に手を出すなど、お前は国を滅ぼしたいのか」
王太子の言葉に愕然と目を見開いたコタが、トトを見て泣きそうになってる。
──トト、すごい。
ぽかんとしていたルティは、ぱちぱち拍手した。
照れたように笑うトトは、いつものトトなのに、王宮の門は瓦礫になってる。
「俺たちは王族として生まれた。貴族として生まれたから、平民として生まれたから。そうして人間を分けて、こうして軋轢を生んで、いいことがあると思うか?」
王太子の言葉に、コタは声をあげる。
「お、王が統治するから、国は正常に機能するのです!」
「王でなくともよい。次々新しい国が生まれてる。身分制なんて、きっとすぐ古くなる」
弟とよく似た瞳が、コタを見おろした
「お前が愚かだと言われるのは、自分のことしか見えず、強権を振りかざし、民をかえりみないからだ。
いつもいつもお前のせいで、頭をさげる羽目になる俺の身にもなれ! 反省しろ!」
叱られたコタが、しょんぼりしてる。
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