反撃!




「ルティの傍にいられるなら、地位も名誉も、何にもいらない」


 すがるように抱きしめてくれるトトの腕のなかで、ルティはうっとり目を閉じる。



「トト、だいすき」


 ぎゅっと抱きついた、次の瞬間、ルティは、カッと目を見開いた。



 そう、お話ならここでハッピーエンド、後のことなんて知りません、はいお終い。



 だけど現実は続くのです!



「トト、言うのは簡単だけど、するのは大変だよ。どうしよう!」


 あわあわトトを見あげたら、夕焼けに染まるトトの髪が揺れた。



「ぽこる?」



 …………………………。



 そうでした。

 トト、めちゃくちゃ強かった!


 ふつうなら。

 ふつうってどこにあるのか今ひとつわからないけど、トロテ王国へ逃げて、カティとクヒヤ殿下に保護してもらって、ココ王国の強権に対抗するのが、もっとも苦難と軋轢の少なそうな道だ。と思う。


『カティたすけて!』


 弟ルティがおすがりしたら、きっとお兄ちゃんはたすけてくれる。やさしいから!


 でも、それはちょっと、情けない。

 お兄ちゃんにお尻をふいてもらうのではなく、自分で拭きたいと思うのです!


 それにルティは、ちょっと、おこだ。


 いつも穏やかなトトが解決策として『ぽこる』を1番に出してくるくらい、トトも、おこだ。



 ぴんくの髪の主人公チートで、ハーレムを造ろうとしたカティも、よくなかったと思う。


 でも夢だよね?

 それはわかるよ。わかるんだけど、現実で王侯貴族相手にやっちゃうと、ほら、ね?


 カティに次々陥落させられた攻略対象の皆が、切なくなってしまった気持ちも、よくわかる。



 でも、だからってカティの身代わりとして、おんなじ顔をしてるからというだけの理由で『ルティを伴侶に』は、ないだろう!



 平民のルティが、ひとりで叫んだって首が飛んでゆくだけだけれど。

 ココ王国最強のトトが一緒にいてくれたら。


 それもトトにお尻をふいてもらっているのかもしれないけれど、でもでも、伴侶(予定)だから、そこはおまけしてほしいのです。


 ひとりだと、死んじゃうから!



「一緒に、闘ってくれる?」


 見あげたら、トトの瞳が輝いた。



「もちろん!」


 いつものやさしい顔で、笑ってくれた。







 ぴんくの髪とぴんくの目に戻したルティと、将軍の軍服を脱いで職を辞したトトは、一緒にココ王宮へと向かった。


 がたんごとん馬車に揺られるのも、トトと一緒なら、とびきり楽しい。


 お尻が割れそうになったら、決戦だ。




「たのもー!」


 手をあげるルティに、王宮警護の衛士たちが飛びあがる。



「ルティさまがお戻りに!」


「コタ殿下、ルティさまがいらっしゃいました!」


 呼ばれて駆けつけたコタは、ルティに目を輝かせ、トトに細い眉をしかめた。



「おかえり、ルティ。急にいなくなるから、心配したよ」


 うっとりした顔で抱きしめられそうになったルティは、すさかず避けた。


 しゃ──っ!


 音がしそうなほど、華麗に!



 避けられたコタ殿下が真っ赤になって


「ぷ」


 トトが笑ってる。楽しい。


 コタの口元が、ヒクヒクしてる。楽しい。



「隣の平民はどうしたのかな。国境警備の将に、国境を離れられては困るのだけれど」


 いつもやさしいトトの目が、細くなる。



 それだけで気迫が大気を揺らした。







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