葉山、また怒られる。

 ――サキチ曰く、「こんばぁたぁ」とは、魔石を変換する装置らしい。


 たとえば、パワー的に100の、雷の魔法の魔石がひとつあるとする。


 「こんばぁたぁ」を使うと、それをパワー50の雷の魔石×2に変換したり、パワー100の炎の魔石に変換することができる……そうじゃ。


「――すげぇ! なにそのチート道具! それあれば好きな魔石作りたい放題じゃん!」


「だからお前に取ってこいっていってんの。お前が拾った『世界を滅亡させる魔石』のパワーがあれば、『こんばぁたぁ』を使って、ほぼどんな魔石にでも変換できる。あれのパワーは絶大じゃからな」


 さすがストーカーサキチ。俺の所持魔石もしっかり押さえてやがる。


「お前……そんな魔石を持っていたのか?」


 ブリュノさんが驚き仰け反った。

 レーナさんがひょいとポケットからそれを取り出した。


「……これです。確かに、世界を滅ぼすほどの力なら、一人を成仏?させる魔石への変換もできそうね……」


「そうじゃろ? 変換してもパワーは余裕で余るだろう。だから景吾、ついでにお前を元の世界に戻す魔石も作っちゃおう」


「ついでにそんなの作れんの??」


「余裕じゃよ」


「おおっ……!!」


 ――つまり。化学反応式みたいに書くと。


世界を滅ぼす魔石→サキチを成仏させる魔石+俺を異世界へ戻す魔石


 ということですな?


「こんばぁたぁすげぇ!! で、それ、どこにある?!」


「お前はどこまで馬鹿なんじゃ。そのくらい頭を使え」


「ひどい!」


「あのなぁ、ドーツがなぜベルガを攻め込んだのか。ちゃんと考えろ」


「え、なんでそんな話……普通にフランを攻めこむためにベルガを通ったんじゃないの?」


「ちがぁああう!!」


 サキチがシャウトする。

 え、だって、アルベルト王がそう言ってたけど……


 レーナさんもブリュノさんも、頭上にはてなマークを浮かべている。


「……まったく。お前は本当に考えが足りんな。仕方ない、頭の訓練をしてやろう。ヒント①。『世界を滅す魔石』を道端にポロッと落としたのはドーツ軍。その魔石は、ドーツが保管していた『特級呪術魔石』だったのじゃ」


「色々大丈夫かよ……」


「その②。ドーツ軍がベルガをただの道と見なしておるなら、王や王女を捕らえる必要はないじゃろ。さっさと通過すればええ話じゃ」


「それは……たしかに」


「捕える必要があったから、捕えたんじゃ。ここまで言えばさすがにわかるじゃろ?」


 サキチが目を細めた。


 ――俺は頭をフル回転させる。

 

 そして、脳裏にある考えが、浮かぶ。


「…………ま、まさか」


 レーナさん、ブリュノさんと目を見合わせる。二人とも、俺と同じ結論に至ったようだ。


 ブリュノさんが口を開く。


「……ドーツは世界を滅ぼす魔石を持っていた。しかしそんなもの使えない。だが『こんばぁたぁ』で魔石を変換すれば、非常に強力な、別の魔石に変えられる。そんなドーツが、ベルガの王族を捕えた。即ちこれが意味するところは……」


 ブリュノさんの言葉を、レーナさんが引き継ぐ。


「……ドーツは『こんばぁたぁ』を求めている。そしてアルベルト陛下とツエル姫は、『こんばぁたぁ』のありかを知っていたんだわ。だからドーツに捕らわれた」


 サキチが満足気に頷いた。


 ――「こんばぁたぁ」を求めるドーツ軍。

 

 その所在を知っていて、捕えられたベルガ王アルベルト、そしてツエル姫。

 

 アルベルト王は処刑される寸前だった。

 

 一方ツエル姫は――

 

 高い塔の上に閉じ込められていた。


 ――頭の中で、バラバラだったパズルが、ひとつになっていく。


 こんばぁたぁ。

 変換。

 かたちを変えること。


 かたちを変えた……王子。

 女装した、王子。


 そこから導き出される答え――

 

 それは――――


「……つまり、『こんばぁたぁ』の正体は……ツエル姫――?!」


「お前はどんな思考回路をしとるんじゃ……??」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る