葉山、王と会う。

「……はよ。おはよう。ハヤマ、起きて」


 肩を叩かれて、優しい声に目が覚めた。


 この声は……

 奈美……じゃない。


 目を開けると、ベッドでうつ伏せになる俺の隣に、レーナさんが腰掛けていた。昨日あんなに撃たれていたというのに、相変わらず綺麗な顔をしていらっしゃる。軍服も替えたのかな。キリッと決まっていて麗しい。


 というか。

 やっぱり、異世界に来ちまったこと、夢じゃなかったのか……。


 まだぼやけた視線を動かすと、窓の外には青空が広がっていた。すっかり昼間のようだ。室内には姫もジョンソンもすでにいない。


「おはよう……ございます。レーナさん、ご無事でよかったです」


 むにゃむにゃ答えると、レーナさんがクスクス笑った。


「私に『ご無事でよかった』なんていう人、久々に見た。私、怪我する方が難しいから」


 体を起こし、眠い目を擦る。


「たとえ不死身でも……レーナさん、女の子でしょ。心配ですよ」


「女の子って……」


 レーナさんは少し照れくさそうに微笑んだ。


「……ま、悪い気はしないわね。ありがとう」


 そう言って肩をすくめるレーナさんが、妙に可愛く見えて、寝ぼけていた頭が一気に覚めた。


 ……いや、いやいやいや。

 悪いけど、俺は奈美一筋だから!


 首をブンブン、横に振る。

 

「? ……そうだハヤマ、一緒に来て。あなたを国王に紹介したいの」

 

「国王……」


 ベルガ国の王。さっき処刑されかけていた、あのおっさん……いや、おじさまか。そしてツエル姫のお父さん。


 王様に会うとか初めてなんですけど。やべ、緊張してきた。と◯やの羊羹とか、なんも持ってないけど大丈夫かな。


◇◇◇◇◇◇


 すぐにレーナさんに連れられ宿を出た。こじんまりとした村の中、一番大きな建物に入ると、マリアちゃんに姫、それにジョンソンが一人の背の高い男を取り囲んでいた。


「ハヤマさん!」

「よく寝てたな」

「ハヤマさん〜! おはようございます〜!」


 3人がニコニコ手を振ってくれた。すっかり仲間って感じだ。俺も手を振り返す。


 そして、見知らぬ真ん中の男。こちらに背を向けていて顔はわからないが、きっとこの人が――


「アルベルト陛下、ハヤマを連れて参りました」


 その男が、ゆっくり振り返った。

 

 ――金髪碧眼、品のいい口髭、優しそうな顔立ち。40代くらいだろうか。ザ・ダンディ。今度はきちんと、いかにも近代ヨーロッパの国王といった服に身を包んでいる。

 

 ベルガ国王・アルベルト。


 王は後ろで手を組みながら、穏やかな表情を俺に向けてきた。


「ハヤマさん、レーナからあなたのことは聞きました。ツエルを救ってくれて、どうもありがとう」


 国王の声は優しく、だがどこか威厳があった。


 背筋がシャンとした。


 寝起きそのまま、髪も整えずに来てしまった(だってレーナさんがせっかちだから)ことを後悔した。


「いえ、とんでも、ないです。初めまして、国王陛下」


 声が裏返りそうになった。


 マリアちゃんとジョンソンが、ニヤニヤしているのが視界に入る。笑ってやがるな!


「早速ですがハヤマさん、あなたは漢字をスラスラ読めるそうですね」


 アルベルト王が和やかに話し出す。


「あ、はい。簡単なものなら……」


「その力、ぜひ我々に貸してくれませんか。ハヤマさん、我が国の漢字解読官になっていただけはないでしょうか」


「えっ!?」

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