――第2章 王と姫を救え!――
葉山、放置プレイ。
そうしてるうちに、城の上にきた。
深夜にも関わらず、下の広場には人の姿が沢山みえる。突然ドラゴンが現れて、みんな混乱しているようだ。そりゃそうだ。
そこにいる人の大半は、レーナさんたちの黒い軍服とは違う、青い軍服を着ていた。あれが攻め込んできたドーツ軍か。
「ところで作戦は? 王様はどこにいるんです?」
声を張り上げて尋ねると、レーナさんが広場の中央を指差した。
「あそこ! 城の前の広場のところで引っ立てられてるおじさんが王。見える?」
王のことおじさんって言ったなこの人。
たしかに広場らしき場所、青い軍勢の中に、ひとり両手に手錠をかけられた男が見えた。みすぼらしい服ーーというより、布を着せられて、両側を兵士に挟まれ立っている。
表情までは見えないが、こちらを見あげているようだ。
地上を見ている間にも、バンバンと何かが飛んできた。だがジェラールは巨体を巧みに動かしてそれをかわす。その度に振り落とされそうになり、命の危機を感じるけど、かっけぇ。ドラゴンかっけぇ。
すると、隣のレーナさんが、こちらを見て声を上げた。
「じゃあ私は王のところに行くね。ジョンソン、アレよろしく! ハヤマは姫をよろしく!」
「え? レーナさん、王のところって、ここからどうやって行くんですか?」
「降りる!」
そうニッコリ笑って、レーナさんは両手を浮かせた。
華奢な体が一瞬、ふわりと浮かび上がって――遥か上空から――落ちていく!
「ちょ……レーナさーーーん!!」
レーナさん……!
俺のこと守るって言ったじゃ――ん!
俺を置いていくな――!
思わず片手を伸ばしたが、ジョンソンに止められた。
「大丈夫だ。こんくらいでレーナは死なねぇよ」
「こんくらいって!」
いや……レーナさん!
いくら不死身だからって、この高さで落ちたら! しかも敵兵のいるド真ん中に! 流石に無理がある。集中砲火を受けてしまう!
なのに、どんどん遠のくレーナさん。だがやがて広場のすみっこに、華麗に着地したのが見えた。
周りのドーツ兵がすぐに銃を構えるが、レーナさんは素早く敵を踏み倒しながら、王の元へ走りだす。明らかに撃たれているが、気にせず前に進んでいる。
……うん。
なんか大丈夫そう。
ほっと一息ついたその時、ジェラールが月に向かって咆哮をあげた。
振動が腹に響く。それからジェラールはくるりと旋回して、城の中でも一番高い塔の、とがった円錐形の屋根に止まった。
ジョンソンが俺の肩を叩いた。
「じゃ、お前は姫様呼んでここで待っててくれ」
「えっ……いや、さっきから姫、姫って、なに、どういうこと?」
混乱する俺の問いには答えず、ジョンソンは俺をひょひょいと持ち上げ、屋根に置いた。
「ちょっ……!」
急勾配な屋根の上、足元の遥か下は暗闇。
一歩踏み違えたら――即死。
「じゃあ俺は俺でやることがあるから。ハヤマ、頼んだぜ!」
ニッと笑って、ジョンソンはまたジェラールの背に戻ってしまった。
ジェラールはすぐに翼を大きくはためかせる。その風にあおられ、よろめいてしまった。
「……うおおおおい!!」
慌てて屋根の頂上にしがみついた。心臓がバクバクいっている。
「ハヤマさん〜! よろしくです〜!」
マリアちゃんとジョンソンをのせたジェラールは、あっという間に城を離れ、市街地の方へ飛んでいってしまった。人々の叫び声が遠くから聞こえた。
そして俺は――城の一番高い塔の屋根の上、ひとりぼっちになってしまった。
「……ま……まじでなんなんだよ……!」
わけわからん。
とりあえず、今にも落ちて死にそうだけど、一旦考えてみよう。
ジョンソンは……「姫を出してここで待っていろ」と、言った。
つまり、この塔の中に、姫がいる、ということだ。
そういうことだ。
いや、だから姫ってなに。だれなの。
しかも、リアル塔の上のなんとかじゃん。ラプなんとかじゃん。
そんなことを思っていると、足元すぐ下で音がした。
――人の気配がする。
恐る恐る屋根の下を覗くと、闇夜の風にふわりと乗った、美しい金色の長い髪が見えた。
誰かいる!
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