葉山、アレに乗る。

「ハヤマ、ドラゴンはね、急上昇・急降下・急旋回・急停止する激しい生き物だからね。乗ったら途中で立ち上がったり、手を外に出さないようにしてね」

 

「アトラクション?? ドラゴンってアトラクションなの??」


 冷静に考えると、ドラゴンに乗るなんて危険極まりない。シートベルトもセーフティーバーもないし。


 俺は抵抗を試みた。しかし、あっさりマッチョジョンソンに抱えられ運ばれて、ドラゴンの背中におろされた。


 あゝ無情。


 仕方がないので、背中の突起に手足を引っ掛けしがみつく。ドラゴンの表面は硬くて、結構ひんやりしていた。


 マリアちゃんはドラゴンの頭に。背中には俺、左隣にジョンソン、右隣にレーナさんが乗った。


 マッチョと不死身に挟まれる、俺は救世主。


「……ふと思ったんですけど、ドラゴン使いがいて、ドウェインジョ○ソンがいて、不死身な人までいるのに、なんでベルガ国は弱いんですかね……」


「俺たちが弱いんじゃねぇ。ドーツが強すぎるんだ」


「そんなカッコよく言われても……」


 ため息をつくと、俺の手にすべすべとした手が重なった。

 

 手の主を見れば、優しい笑みを浮かべるレーナさん。月明かりを灯した、茶色い瞳と目があった。


「緊張してる? 大丈夫だよ。ハヤマは私が守るから」


「れ、レーナさん……!」


「あなたは夜の景色でも楽しんどいて」


 ……トゥンク……


 レーナさんめ。ときめいてしまったじゃないか。


「じゃ! みんないいね〜? 出発するよ〜!」


 ジェラールが翼をバッタ、バッタ羽ばたかせ、飛び上がった。上へ向かう。下を覗いてみると、乗ってきた車が、あっという間に親指の爪ほどにまで小さくなった。


 ジェラールは街の方へ体を傾けた。空を滑るように進み始めーー加速する。


「……速っ……!!」


 顔に、全身に、夜の風が遠慮なく吹きつけてくる。まるで空気に押さえつけられているような感覚だ。


 手を離したら即、終わり。一瞬たりとも気を抜けない。夜景を楽しむ余裕なんて全然ない! しかもスピードがどんどん上がっていく!


「うわあああああ!!」


 恐怖と興奮に思いっきり声を上げると、レーナさんは前を向いたまま、重ねた手をギュッと握ってくれた。俺は思わず必死で握り返してしまった。

 

 ――街が、城があっという間に近づいてきた。


 下から何かが飛んでくる。


 ジェラールはそれをヒラリとかわす。すると俺たちのさらに上空で、何かが爆発する音が響いた。


 ――大砲でも撃たれたのか?! やべえじゃん!


「レーナさん〜! もう気づかれたみたいです〜! 狙われてます〜!」


 マリアちゃんが前から声を上げた。

 

「仕方ない! マリア、突っ切るよ!」


 レーナさんは勢いよく答えるが、この人は突っ切る以外の方法を知らないのだろうか。


「レーナ! お前自分が不死身だからって無茶なことするんじゃねぇ! こっちは生身の人間なんだからな!」


 ジョンソンが呆れた顔で怒鳴った。ホントそれ!



 

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