葉山、この世界について教えてもらう。
遠くで瓦礫が崩れる音が聞こえる。
隣を歩くレーナさんが、おもむろにポツポツと話し出した。
「――かつて、この世界がバラバラだったころ」
「お。このワールドのご説明ですね? ありがたいです」
レーナさんは頷いて、言葉を続ける。その話を要約すると、こう。
――むかしむかしある国に、ひとりの野心あふれる青年がいた。青年のそばには、不思議な力――「魔法」を使える男がいた。
青年は男の魔法を利用し、のし上がった。そしてついにはバラバラだった世界を統一し、一大帝国を築くことに成功した。
青年は「皇帝」になった。
魔法の力に魅せられた皇帝は、魔法の研究を推進した。その結果、魔法を使える「魔導士」たちが生まれた。
だが皇帝の死後、帝国内の各地が独立し、再び世界はバラバラになった。次の「皇帝」の座をめぐる戦争が勃発した。
各国は魔導士を奪い合い、彼らを戦場に投入した。ますます争いは激化した。
――これが500年前に起こった、「魔法戦争」である。
結局、激しすぎる戦闘に消耗し切った各国は、互いに休戦協定を締結し、世界に仮初めの平和が訪れた。
しかし、この戦争で魔導士の大半が命を落とした。生き残った者も、また利用されるのを恐れ、魔法を捨てて身を隠した。
世界から、魔法が消えた。
……かのように見えた。
魔法は思わぬ形で生きていた。実は魔導士たちはひっそりと、石に魔法を吹き込んで「魔石」を作り、各地に隠していたのだ。
それは魔法の技術を持たない人間でも、そこに刻まれた「発動呪文」を、大きな声でハッキリと読むだけで魔法が使えてしまうという、非常に画期的なものだった。
ただひとつ、難点が。
魔石に書かれた発動呪文は、「漢字」と「ひらがな」で書かれている。
現在この世界では、人々は読み書きに「カタカナ」を使う。「ひらがな」を読み書きできるのはごく少数、さらに「漢字」となると、今では世界でも数えるほどの人間しか読めないのだ。
そんな難点があるものの、誰がどう見ても、魔石の威力は絶大だった。
魔石を発見し、重要性に気づいた各国は、それぞれ密かに「漢字解読官」を育成し、血眼になって魔石の収集を始めた。
水面下で白熱する魔石争奪戦に、世界に緊張が走った。いつまた戦争が起こってもおかしくない状況が長く続いた。
それが、つい先日。
葉山が召喚されたこのベルガ国に、隣国・ドーツが侵攻を開始。突如始まったドーツの猛攻に、不意を突かれたベルガ国は現在、やられるがままになっている――。
「……という状況なの。ドーツは軍事ロボを作るのが上手くてね。しかも一気に大量に送り込んでくるのよ。どんどん街が落とされてる」
「よりにもよって、滅亡寸前の国のとこに来ちゃったのか俺」
「そうなの。ほんとやばい。滅びそう。どうにかして」
「俺にぶん投げないでください」
俺は軽く絶望した。つまり俺は、今まさに沈みつつある船に無理矢理乗せられた訳である。
「沈みつつあるどころじゃない。ほぼ沈んでる」
「俺の心読みました? あとそんな辛すぎる現実を突きつけないでください……」
――さらに聞けば、レーナさんはベルガ国の特殊工作員で、国王直属チームのメンバーなんだとか。
……国王直属工作員の美女。
なんかエロいな。
こんな状況でも、レーナさんの不死身美BODYに目がいってしまう俺。相当疲れてるんだと思う。
無理矢理目を逸らせば、あたりにはまだ、ところどころ火がメラメラし続けている。
俺のバリアはいつのまにか消えていたが、あの大爆発に火炎だ。もうあたりに動けるヤツはいないだろう。
……だよね??(願望)
するとレーナさんが、夜空を仰ぎ、口を開いた。
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