第5話 一方的蹂躙


「どこ?」


「あ、あの……コッチです……」


 私は変態を横に担ぎ、情報を得ながら、怪人が現在襲撃を仕掛けているという場所へ、建物から建物へと、飛び移りながら向かっていた。


 目的は、怪人を取り敢えずシバキに行く事。


 これで東江さんの負担が少しでも減ったら御の字だと思ったからだ。


 しかし、この方角、私の学校の方角だ。


「な、何で我がこんな事を……」


 変態は横に大人しく担がれながら、顔を歪ませていた。


 あの後、目が覚めた変態を、ちょっとした圧で脅し、こうやって大人しくさせることに成功している。


 他の怪人もコイツと同程度の強さということならば、私が遅れを取ることは無い。


「あ、あの……我は解放されたらどうなるんですか?」


「……黙って、案内して」


「は、ハイィ!! すみませんでしたァ!!」


 なんか、敬語になってる。


 気持ち悪いけど、取り敢えず良しとしておこう。


(……何よ、この人間の生命力……! さっきまで気づかなかったけど、まるで筆頭クラスの圧じゃないの!)


 ────


 そして、襲撃を受けている場所へとやって来た。


 どうやら読み通り学校に襲撃している。


 私は怪しげな気配のする、中庭へと足を急がせた。


 すると、そこには木の枝に何人も生徒がぶら下がって、生気のない顔を浮かべている。


 そのすぐ下には、東江さんと別の怪人の姿が会った。


 遠目から見て分かる。


 東江さんがボロボロだ。


「「貴様は誰だ」」


 急に私の目の前に二人の怪人が現れる。


 一人一人、何故か首輪をつけていて、姿はこの着物姿ではあるが、頭に角が生えていた。


 一人は髪を短く切りそろえたボブ。


 一人は髪を後ろで括ったポニーテール。


 見た目は、かわいい女の子と大差ない。


 しかし、本能で分かる。


 コイツらは人間じゃない。


 私は手に持っていた変態を振りかぶって、そのまま二人に投げ飛ばす。


「えっ!? ちょ!?!? 待ってくだあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!?!?!!」


「「!?」」


 変態を投げつけたら、思ったより力が入り過ぎてしまい、そのまま二人を巻き添えにぶつかって、そのままボーリングのピンよろしく、吹っ飛んでいった。


 おお、やっぱり頑丈だ。


 二人の怪人は宙に舞った後、地面に叩きつけられ、その場で意識を失う。


 変態はブーメランみたいに、私の元へ帰って来たのを、足で受け止めた。


「ゲフっ!? ひ、ひどい……」


 なんか涙目で訴えて来てるが、無視しておこう。


 それと同時に、東江さんの所が、急に光ったと思ったら、東江さんが私の元へ吹っ飛んできた。


「も、もぎ……きさ……」


 ピンクの服はボロボロで、所々素肌が見えてしまっている。


 もしや、私の目の前にいる、アイツにひん剥かれそうになったのでは!? 


 おいおい……! 魔法少女の屈服物は同人誌でやるべきで……本編でやっちゃあダメだろ……。


 エロアニメかよ……。


 東江さんの物語は健全な物であって欲しい。


 しかし、このボロボロ具合……。


 ここまで一人で耐え抜いたのかと思ったら、湧いて出て来た邪な気持ちが一気に霧散した。


 私は素直に彼女に労いの言葉をかける。


「よく、頑張ったね」


 その言葉を聞いた、東江さんは眠るように意識を手放し、それと同時に光を放ち、変身も解除された。


 さて……。


 この惨劇を招いたのは……アイツか……。


「……レフィーヤ、随分と滑稽な格好ね」


「う、うるさいわね! っていうかクルリ……! アンタ、魔神様に捧げる生命力をまた勝手に食ったわね!?」


「使わなければ勿体無い……そうでしょう?」


「生命力は魔神様に捧げる分と、自身の力に使う分の容量は決まっていた筈よ!」


「めんどくさいのよね、その決まり。いつ復活するかも分からない魔神に渡すくらいなら、私が魔神になってあげるわ。その時はレフィーヤも私の玩具にしてあげる……♡」


「キモっ!!」


 お前が言うなと、心の中でツッコんだ。


 しかし、二人してワーワーと言い合いを始めてしまい、私が入る余地がない。


 3人集まったら喋れなくなる……。


 うん、コミュ障が今日も恨めしいね。


「でぇ? まさかとは思うけど、怪人であろう物が、人間に負けた訳? 面白いわね」


「ギイィ……!」


「さ、そこの人間、名前ぐらいは伺っておくわ、奴隷が二人も倒されたのだから、少しは警戒してあげなくっちゃ…………ねぇ?」


 ニヤニヤと私に向かって喋りかけてくる、着物の女。


 どうやらさっき吹っ飛ばしたのは、コイツの部下らしい。


 しかも、名乗れとか言って来たけど、変な人に名前教えたくはないなぁ。


 こう見えても私はリテラシーは高い方である。


「ふぅん、私に対して、ダンマリ……ね、不遜よ、人間如きが……」


 女が手を前に出して来たかと思ったら、下から急に草の蔓が生えて来た。


「絡め取ってあげる」


 私は東江さんを手放し、変態を蹴飛ばす。


「あが!」


「そこの変態、東江さんを守ってろ。手を出したら、どうなるか分かるな?」


「ヒュッ…………は、ハイ」


 圧と一緒に変態に警告する。


 内心、喋る時に吃らずに喋れたので安心した。


 しかし、まずは蔓の対処だ。


 体にまとわりついて来て鬱陶しいことこの上ない。


 それにこういう触手プレイは私じゃなくて、もっと別の人にやった方がいいと思う。


 私みたいな無愛想な強面女にしたって、絵面的に最悪だろ。


 私は、力を入れて、パンプアップのみで草の蔓を引きちぎる。


「!?」


「……力自体は強くないんだね」


「……! 人間風情が……!」


 女は目を見開き、牙を見せる。


 どうやら、蔓の感想を言っただけなのだけど、挑発と受け取られたらしい。


 うわぁ、怒らせてしまった。


 仕方ない、周りに配慮して、取り敢えず、校舎に被害が出ないように立ち回るしかないか。


「……膨大な生命力……! そうなのね、貴女が!」


「フッ」


「は!? ガァ!?!?」


 何か言っていたのを私は無視して、震脚で女の目の前まで踏み込み、拳を突き出した。


 なんてことは無い、ただの正拳突きである。


 だが、私のは普通の正拳突きとは一味違う。


 衝撃波が体内を循環して、外側の破壊から内側への破壊へ繋がる、正拳突きなのだ。


 修行したら、サンドバックが内側から破裂したので、絶対に人間に使えないと思っていた技である。


 モロにくらった、女はその場でうずくまり、血反吐を思いっきり吐いた。


「が、ガハっ!? な、なに……いまの……!」


 どうやらまだ喋れるみたいだ。


 怪人はすごく頑丈である。


 私が少し本気を出しても壊れない。


 ならば、もう少し、力を解放しても良いかもしれない。


「チィ!! やらせはしない! 【獄檻蓋ごくかんがい】!」


 女が人差し指と中指をこちらに向けて念じる。


 キィンと、周りに甲高い音が鳴り、私の周りが何かに覆われた。


 何だこれ。


 薄い、丸ドーム上のようなものに閉じ込められた? 


「フーッ! フーッ! ま、まさか、この技をもう使わせるとはね……驚いたわよ人間……! でも、その結界は内側からは絶対に壊れない! 私の許可なしでは絶対に出られない檻よ! フフ、フハハ! 貴女も、全ての生きとし生けるものも! 全て、私の奴隷にしてやるわ!!」


 ま、まさか……! 


 絶対に壊れない結界なんて物があったなんて!? 


 そんなの……。


 そんなの……! 



 どんなに暴れても良いって事!? 


 いやぁ! 助かったよね! 


 私の力強すぎるから、どんな修行をしたって、最終的には器具が壊れるか、建物が壊れるかのどちらかだからさ! 


 今だって、校舎壊さないように、力をセーブして戦っていたのだけれど、この中ならば……。


 暴れても良さそうだ! 



 私は、空手の構えから、内包された内エネルギーを足にに移動させ、中国武術の気功で強化させる。


 そこから古式ムエタイの構えを取り、連続して蹴り技を放った。


 前蹴り、前蹴り、膝蹴り、そして空手の構えに戻り、跳び回し蹴りと様々な蹴り技を連続して行う。


 うん、まだまだ壊れないようだ……! 


「フフフ、無駄な足掻きを……は?」


 ならばもう少しだけ、ギアをあげても良いかな! 


 私は気功を、足から拳に移動させ、一点集中で連撃を繰り出す。


 どんどん、スピードアップさせ、見えない壁に拳を叩き込む。


「や、やめて……! やめ……それを破られたら……やめ……!」


「うわぁ……何あれ……何で怪人である我が、アイツの繰り出してる攻撃が一個も見えないのよ……」


「な、何なんだ……これは……何なんだ……! コイツは……!」


 おっ、壁に亀裂が入った。


 よぉし、ここに、ちょっと力を加えて……。


 私は拳を手刀の形に変え、そのまま亀裂に叩き込んだ。


「やめてぇぇぇぇぇぇ!!」


 バリンッという、割れる音と共に、見えない壁が崩れ落ちていくのを感じる。


 うん、脱出成功した。


 内側から、出られないと言う話ではあったが、純粋な力の前ではあまり効果が無いようだ。


 まあ、出られないなら出られないなりで、結界ごと移動して、女に攻撃を壁の中から繰り出して、衝撃波でダメージを与えるという選択肢もあるが、それすると、校舎とか周りに吊るされてる生徒たちにも被害が出るかもしれないので、避けたかったのだ。


 私は、女の前に立つ。


 女は、その場にへたり込み、泣きながら私を見上げる。


「あ、あの……その……」


「まあ、うん、眠っててくれる?」


 私は容赦なく、女の方に手刀を叩き込む。


 メリィという音と共に、肩に手刀がめり込み、そのまま女は白目を剥いて、地面に叩きつけられた。


 そのまま、ピクリと動かなくなり、身体から、謎の白い霧が出てくる。


 その白い霧は、吊るされていた生徒たちの方へ向かい、体に吸い込まれていき、生気を失った生徒たちの顔が、どこか安らかな表情を浮かべて、眠っていた。


 それと同時に、吊るされていた、蔓が力無く解け、生徒たちが落下する。


 数十名ほど、捕まっていたらしく、私は高速で移動して、抱き抱えながら、優しく地面に下ろした。


 それを見届けた後、私は東江さんの方へ向かう。


「ヘッ……あの、手は出して無いですよ!? 一才! これっぽっちも!」


 変態が汗を大量にかきながら、両手をあげる。


 見れば分かる。


 戦ってる最中、そちらの方にも気にかけていたので、何かあったら、変態にも拳を叩き込んでたところだ。


 私は東江さんをお姫様抱っこして、どこか静かな場所へ連れていくことに決めた。


 直に生徒たちも目を覚ますだろうし、問題ないでしょ。


「あ、あのぉ……わ、我はどうしたら」


「……仲間なんでしょ? 片付けておいて」


「は、ハイッ! 了解しましたァ!!」


「後、生徒達に手を出したら、必ず追いかけるから」


「ヒュッ…………ハイ……」


 取り敢えず、釘も刺しておいたし、大丈夫でしょう。


 しかし、静かな所か……。


 どうしよう。

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