第4話 一緒に

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 聖理佳side

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 思わず、心配の声が出た後に十さんだと分かり、驚いた声が出た。


 すると、その場で腰を落ち着けていた、十さんはゆっくりと立ち上がり、私の前に立つ。


 す、すごい……。


 行動一つでとてつもないオーラを発している。


 身長が私より高い十さんの威圧するオーラは、見る者を怪人だとて、足がすくんでしまうのではないだろうか? 


 横に倒れているレフィーヤの事を警戒して臨戦体制を解いていないのだろう。


 あの時、十さんが何をやったのかは分からないけど、魔法少女の動体視力で捉えられたのは、レフィーヤが十さんに手を伸ばした瞬間、吹っ飛ばされていたと言うことだけ。


 もしかして、十さんも魔法少女なのではないかと私の胸に期待感が溢れてくる。


 私が目の前で惚けていると、十さんは何も言わずに、首を傾げた。


 あっ! そういえば変身したままだった! 


 魔法少女は周囲にバレずに活動しなくてはならないと、思っているのだが、もし、あのパワーアップしたレフィーヤに勝てるぐらいの魔法少女ならば、応援を要請しなくちゃ! 


 そう思い私は急いで、変身を解く。


「あ、す、すみません……! 急に……変身解かないと分かりませんよね!」


 変身を解いて、十さんにいつもの姿を見せる。


 十さんはずっと、一人でいるけど、私のこと覚えててくれたら嬉しいな……。


 そんな思いがあったが、どうやら分からないらしく、またもや首を傾げていた。


 うっ……仮にもクラスメイトの私の事を覚えてくれてないなんて……。


 やっぱり、十さんは一匹狼という奴なのだろう。


 そんなミステリアスなところも相待って、学校では人気なのだけれど……。


「も、もしかして……私の事が分からない感じでしょうか?」


 思い違いであって欲しい、一縷の望みに賭けて話しかけるも、当の本人は何も言わずに思い当たらないという顔をしている。


「そ、そうですよね……私の事なんか知らなくて当たり前ですよね……だって十さん……ずっと一人だから……」


 少しショックを受けた私はそう言った。


 うう…………憧れの人に覚えられてないなんて、本当にショックだ……。


 私は少し目立つ部類の人間だと自負していたこともあって、落ち込んでしまう。


 でも、私はすぐに頭を切り替える。


 ここで会えたのも何かの縁だし、もしかしたらこれから一緒に戦ってくれるかもしれないのだから、これから覚えていってもらえれば良い! 


 よーし! そうと決まればまずは挨拶からだ! 


「わ、私は、十さんのクラスメイトの東江聖理佳です! 魔法少女をやってします!」


 うん! 良い挨拶が出来たような気がする! 


 これで十さんも、少しは態度を崩してくれるはず……! 


 と、私は思っていた。


 でも、それは間違いだったのだ。


 十さんをチラリと見る。


 表情は強張っていて、切れ長の目で私を睨みつけていた。


 まるで、表情を絶対に出さないと言わんばかりの迫力。


 絶世の美人が無表情でこちらを見てくる、その迫力は凄まじい。


 ゾッとした。


 目の前にいる十さんが何倍も大きく見える。


 とてつもない力を秘めていて、私に圧をぶつけているのだ。


 な、なんで? 


 私は何か気に触れるような事でもしたのだろうか。


 ま、まさか……! 怪人排除もまともに出来ていない私に失望している!? 


 そ、そうだ、私は見誤っていた。


 ニライカナイは魔法少女に変身することにより、その力を存分に発揮できる。


 しかし、目の前の十さんは変身していた素振りなどない。


 本来、怪人はニライカナイの力で生命力を増幅し、ようやく初めて、攻撃が通るようになる。


 十さんが私に似た力を持っていて、それを表に出さずに怪人にダメージを与えていた。


 変身している事を表に出さずに、密かに怪人排除をこれまでもやってきていたに違いない。


 それに比べて私はどうだ? 変身する事で、怪人にダメージが通る事で慢心していて、日々の鍛錬を怠っていたのではないか? 


 そんな実力者の前で私は何をした? 


 十さんに、私が苦戦したレフィーヤを倒してもらい、それに甘んじて、勝手に仲間だと思い込んで、呑気に挨拶? 


 そんなの……! 失望されるに決まっている。



 私が十さんに慄いていると、彼女は無言で背中を向け、その場を去ろうとする。


 っ! わ、私はどうすれば良い!? 


 今の現状、私一人では満足に怪人を倒す事はままならない。


 かと言って、これ以上、十さんを引き留める理由が何処にもない。


 そう、偶然ここで出会って、不甲斐無い私を見られていただけ。


 同じ、魔法少女として、横に並ぶのも難しい程に開いている実力差。


 私なんかが……。


 そんな時、お婆様の言葉が聞こえてきた。


『聖理佳、人と心を通わせるには、まず相手の顔を見なさい』


 そんな事を思い出して、私は十さんの横顔を見る。


 そして、私は気づいてしまった。


 十さんがとても寂しそうな表情を浮かべている事を。


 魔法少女は、挫けても、倒れても、何度でも笑顔で戦い、みんなを幸せにする存在。


 そんな彼女が、そんな寂しそうな表情をしている。


 そう思った瞬間、私は体が勝手に動いて、帰ろうとする十さんの腕を引っ張って止めていた。


 そうだ! 魔法少女はみんなに笑顔を与える存在! 


 私は魔法少女なんだから、そんな表情をしている十さんを放って置けない! 


「ま、ま、待ってください! 私! 初めて同じ人を見つけたんです!」


 そして、思っていた事を口から吐き出す。


「あの! 私と同じ! 魔法少女ですよね?」


 私は笑顔で十さんにそう言った。


 それから少し、間が空いた。


 十さんの表情が少し、柔らかくなったような気がする。


 どっちかというと少し驚いてるような感じだけど……。


 私はそんな、薄紫色の綺麗な目をした十さんに向き合う。


 そして、彼女が初めて口を開いた。


「いや、違うから」


「嘘でしょ!?!?」


 私は、彼女に拒絶されてしまったのであった。



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 私は十さんに拒絶されてしまったショックで、あまり眠れなかった。


 でも、あの時見せた寂しそうな表情。


 魔法少女がそんな顔をしてしまうほど、十さんはおそらく、何かに追い詰められているのだろうか? 


 私と同じように、十さんの手でも勝てないような強大な敵が現れてしまったのか。


 そんなの、私でもどうすることもできない。


 でも、私は魔法少女だから、せめて笑顔だけは忘れないようにしないと。


 もし、十さんが追い詰めれれてしまっているのならば、事情を知っている私だけでも、支えなければ! 


 そう、決心していた通学路、前方に一際背の高いモデル体躯の十さんを見つけた。


「十さん! おはようございます!」


 十さんの隣に立てるように! 


 笑顔で挨拶して、十さんに近寄る。


 すると私を一瞥して、小さく「おはよう」って言ってくれた。


 十さんが私に挨拶を返してくれた! 


 そんな事実が頭の中で反芻して、少々だらしない表情を浮かべてしまう。


 混乱していて、お礼を昨日言っていないのを思い出して、十さんにお礼を告げて、私は分かってますよ! とこっそり告げる。


 すると、十さんはまた無言に戻っちゃったけど、私は構わずに、十さんに話かけた。


 そして、伝えたい事があったので、お昼を誘ってみたら、最初は「ごめん、今日は」と断られそうな雰囲気だったけど、その後、席に座った十さんから「楽しみにしとく」と返事があった。


 嬉しい! 


 も、もしかして私の事を少しは仲間だと思ってくれてたのかな!? 


 顔が熱くなって、ニヤけてしまいそうになるのを必死で堪える。


 それに私は返事をして、自分の席に戻ったら、クラスメイトに囲まれて、『どうやって十さんと仲良くなったの!?』とか『十さんとお昼なんて羨ましい!』と質問攻めにされてしまうのであった。


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 そしてお昼。


 私は十さんと一緒に中庭へやってきて、ベンチへ座る。


 やっぱり、十さんは近くで見ると、すごく綺麗で緊張してしまう。


 ここに来る間だって、何人もの女子生徒が黄色い歓声を上げていた。


 やっぱり、実力を隠していても、目立つ人は目立つんだなぁ。


「あ、あの昨日の事なんですけど……十さんは……魔法少女の事を隠しながら怪人と戦っているんですよね?」


 私は思い切って、何か理由があるのかと、正体について迫ってみた。


 十さんはそれに応える事なく、無言で弁当を食べている。


 ちょっと、仲間だと思ってくれているなんて私は思っていたけど、やっぱり話せないって事は、私は仲間ではないらしい。


「私も十さんの様に、変身している事にも気取られない様に強くならないと……」


 このままじゃ、十さんはずっと一人で戦ってしまう事になるだろう。


 十さんの実力ならそれも難しい事ではない様な気もするが、でも、一人で戦う辛さは私もよく知っているから……。


「あの、私は」


「あ、いいんです! 何か理由があって一人で戦っているんだろうし」


 おそらくに気に掛けないでもらって良いと言うつもりだったんだろう。


 それはよく分かっている。


 彼女はなんでも、これから一人で全部こなしてしまう。


 もしかしたら、自身の勝てないような怪人が現れたとしても、一人で戦ってしまう。


 全部……一人で……。


 私は十さんに向き合って、はっきりと声を彼女に伝える。


 誰だって一人は辛い、ならば、ちょっとでも私が側に居てあげれたら! 


「一人で戦っている時、十さんは辛くならないですか?」


「違……わッハイ」


 小さな声だったので、ハッキリは聞こえなかったけど、確かに違わないって言った。


 十さんも……私と同じなんだ……! 


「あ、や、やっぱり! だったら、もし良かったら何ですけど……!」


 私は十さんに向き合って、体をまっすぐ向ける。


 お婆様が言ってた、人と心を通わすには、まず顔を見る! 


 そして、私の思いを十さんに知ってもらう! 


 そして、十さんが一人で悩まなくて良いように……! 


「私と一緒に、怪人から困ってる人を守りませんか!?」


「えっ…………アッハイ」


 〜〜〜〜〜! やった! 


 またもや小さい声だったけど、「ええ、はい」って言ってくれた! 


 私は十さんと心が通わせたような気がして、もしかしたらすごく笑顔になってたかもしれない。


 そうだ、ずっと一人で戦ってきたもの同士、これから心を通わせて一緒に戦っていくんだ! 


 そうしたら、いつかは……! 


『東江さん……強くなったね。偉いよ』


『十さん……!』


 私はそう言ってくれた十さんに頭を撫でられて、ずっと二人で一緒に頑張っていくのだ……! えへへ! 


 そんな妄想をしていたら、いつの間にか昼休みが終わっていたのだった。


 ────


 私は十さんと一緒に帰ろうとして、一人で帰ろうとしている十さんを追い掛けていたら、いつの間にか、校舎の中で迷っていた。


「あ、あれ? 確かに……十さん、こっちに来てたはずなんだけど……」


 下駄箱に向かわず、校舎の中をグルグルと回っていた十さんが急に居なくなってしまったのだ。


 うう……一緒に帰りながら、親睦を深めようと思ったのに……。


 そう思いながら、私も帰るべく、下駄箱に向かう。


 その瞬間だった。


「……! これは……怪人の気配!?」


 急に、学校から怪人の気配が現れる。


 しかも、これは一体だけではない。


 複数体が学校の中にいる……! 


 私は、その場を駆け出し、怪人の気配が強い場所を探す。


 そして、一際気配の強い中庭へ足を運んだ時だった。


「……!」


 生徒たちが虚な目をして、中庭の真ん中に大きく聳え立つ、木に縛り付けられていた。


 何人もの枝から体ごと吊るされており、その目には生気が宿っていない。


 生命力を奪われた証拠だ。


「あら? 魔法少女のお出ましのようね」


 木の下に、大きく手を広げて私を待っている怪人がいた。


 私の見たことのない怪人……。


 見た目だけなら、黒髪ロングの着物を着た、麗人にしか見えないが、生命力の桁がまるで違うかのような、圧を放っている。


 この圧……レフィーヤの比ではない。


「お、お前は一体誰だ!」


「……ああ、そうね、私たち初対面だものね。自己紹介だけはしておきましょうか。私は【クルリ】……アルタノギア五番隊筆頭の貴女の敵よ」


 五番隊……!? 


 まさか、アルタノギアの数はかなり増えている!? 


 初めて聞いた単語に面を食らってしまったが、私は正気になってニライカナイを駆使して魔法少女に変身する。


「……この学校を襲って何をする気!?」


「ええ、まあ、そうね。生命力を奪う暇つぶしも兼ねてだけど、魔法少女の本拠に殴り込んだら楽しそうかなって思っただけよ?」


 私は怒った。


 下卑た笑いに、人を玩具にするかのような挑発に、私はまんまと乗ってしまった。


 ステッキからビームを放ち、クルリと名乗った怪人に向けて放出する。


 そしてビームが届く寸前。


「フッ」


 クルリが一息吹いただけで、ビームが霧散した。


「え……?」


「……とびきり大きい生命力を感じ取って、魔法少女かと思って来てみれば、検討はずれだったようね」


 こ、コイツは今……何をした……? 


 私の……攻撃を息だけで……防いだというのか……!? 


 もしかして、十さんが戦っていた相手というのは……これ程にまで強い相手だったというのか……!? 


「奴隷達」


「「ハッ」」


 私の後ろに二体の怪人が現れる。


 そして、そのまま私に向かって攻撃して来た。


「がはっ……!?」


 急いでバリアーを貼ったが、それも間に合わず、二体の息のあった攻撃に手も足も出ずに、殴られてしまう。


 上から下、縦横無尽に拳の雨が私に降り注いだ。


 そして、私は殴り飛ばされ、クルリと呼ばれた怪人の足元に落ちる。


「……ぐっ」


「あら、まだ意識があるのね。ふぅん、貴女良い玩具になりそう」


 クルリは私の顎を持ち上げ、顔を近づけた。


 私はクルリの目を見る。


 それはどこまでも濁っていて、黒く、どこまでも闇が深い……。


 怖い。


 怖い。


 怖い。



 私はいつの間にか。


 魔法少女としての。


 心意気を失っていた。


「私、可愛い女の子は大好きなの、そう、その可愛い顔が絶望に染まった、その顔! ……良いわね、良いわね貴女……。私の奴隷になりなさい、どこまでも愛して、グチャグチャにして、もぉっとその可愛い顔を歪ませてあげる……♡」



 圧倒的に強い敵に……私は。


 心が……折れ……。


 そう思った時だった。


 後ろから、風の切るような音が聞こえた。


 そして、その音が鳴り止んだ瞬間。


 後ろにいた怪人二体が、宙に舞っており、そのまま力無く地面に激突して倒れた。


 ああ…………あああ…………私は……私は……。


 彼女を一人で戦わせてしまうのか……。


 一緒に、守ろうって……約束したのに……。


 悔しい……っ! 


 私は最後の力を振り絞り、クルリに向けて、近距離でビームを放つ。


 流石に、面を食らったのか、クルリは私を急いで弾き飛ばした。


 そして、弾き飛ばされた私はそのまま、ゆっくり受け止められる。


 顔を上げると、そこには十さんの姿があった。


 十さんは私に、視線を向けると、少し口角をあげて、こう言った。


「よく、頑張ったね」


 そこで、私の意識は途切れたのであった。

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