第43話 中世ヤンキーと冷徹令嬢
そんな賑やかとも言い難いメンバーを乗せた五騎の行列は、グレイヴェルンの城下町メルヴィスを背に、霧と森に包まれた農村地帯へと入っていった。
◇
木漏れ日が降り注ぐ広葉樹の森。白い花をつけた薬草が自生し、風にそよぐ音が音楽のように耳に届く。
道の脇には清流が走り、光を反射してキラキラと輝いていた。小さな木の橋を渡るたび、下では小魚が跳ねる。
マクシムが無言で少し開けた場所を見つけて一行に手で合図する。
「わあ……このあたり、こんなに綺麗だったのね」
マーヤは馬を下り、足元の小道をたどりながら、林の奥へと歩を進めた。
クロヴィルナがすぐに後ろを追い、彼女を見守るように控える。
凛人も馬を下り、しばし立ち尽くしながら、木漏れ日に目を細めた。木々の隙間から射し込む陽光と、ゆるやかに立ちのぼる朝霧が織りなす景色は──まさに幻想的だった。
「これが……ファンタジーってやつか」
腰に提げた水筒に水を汲み、冷たい清流の味を確かめた。
「冷たいっ……うまっ」
「おーい、休憩しようぜ!」
リオが馬を木陰に繋ぎながら声をかける。
その場所は、自然の木々がちょうどよく日差しを遮り、岩場には腰を下ろせる場所もある。傍らには小さな池があり、白い羽の水鳥が一羽、静かに浮かんでいた。
「ここ、いい場所だな……」
凛人がぼそりと呟いたのが聞こえたのか、マクシムがギロリと睨んでくる。
──目が合った瞬間、空気がピリついた。殺気がさっきより強まってないか……?
その横から、クロヴィルナがぴしゃりと言葉を投げる。
「喜ぶなら、もう少しわかりやすく喜びなさいな」
「……は?」
マクシムが怪訝そうに眉をひそめる。
「この場所を見つけて、皆に教えたのはあなたでしょう? だったら、みんなが気に入ってくれて嬉しいって、素直に顔に出せばいいじゃない」
「……誰がそんなことで喜ぶかよ」
マクシムは低く吐き捨てたが、その頬はかすかに赤かった。
「睨むくらいなら、ニッコリ笑ってうなずいてみせなさいな。ほら、こう……」
クロヴィルナは、わざとらしいくらいににっこりと笑って見せる。
マクシムはそれを横目で見て、あからさまに顔をしかめた。
「……ったく、うるせぇな。そういうんじゃねぇっての」
「ほんとうに...もう、あなたはいつもそうなんですから。
自分の手柄を主張しなさすぎですの。だから損をするのですわ」
「余計なお世話だ、クソが……」
「まあ、またお口の悪いこと。わたくし、あなたを見てるとね、もどかしくて仕方がありませんの」
「……勝手に見て、勝手にイライラしてんじゃねぇよ」
「勝手じゃありませんわ。マーヤお嬢様の巡察に同行する者として、あなたの立ち居振る舞いは、わたくしの監視対象ですもの」
マクシムは心底うんざりした表情を浮かべたが、それ以上言い返すことはなかった。
──この二人、性格は真逆なのに、妙に息が合ってる気がするのは気のせいか。
マクシムとクロヴィルナの小競り合いは、静かな森の中でやけに響く。
気まずい空気が一瞬、隊列に流れた……が、それをさらりと断ち切ったのは、やはり彼女だった。
「ふふっ、仲がいいのね、あなたたち」
マーヤが、微笑をたたえながら振り返る。
その声音にはからかいの色も、苛立ちもない。ただ、ごく自然な、和やかな響きだった。
「なっ……誰が誰と仲いいかっ……!」
マクシムが顔を赤くして言いかけたのを、リオが横から肩をぽんと叩いて遮った。
「まあまあ、マクシム。気合いが入るのはわかるけどさ、せっかくの遠出だし、もっと肩の力抜こうぜ?」
「……ちっ」
唇を噛んだままマクシムはそっぽを向いたが、殺気は幾分か和らいだ。
その隣でクロヴィルナもふっとため息をつき、小さくつぶやいた。
「まったく、素直じゃありませんわ」
凛人はというと、少し後ろからそのやりとりを眺めながら、ワクワクしていた。
(なんだかもう!マクシムも可愛いけど、クロヴィルナも可愛いいところあるじゃないの……!!?
素直じゃないのはどっちよ!?もう!!お姉さん困っちゃうわ!!)
凛人の中の妙なオネエが顔を出していた。
隣のリオが怪訝そうに凛人を見たが、凛人は我に返って慌てて視線を逸らした。
その後、クロヴィルナが手際よく準備した軽食を食べ、水筒の水を飲んだ。
マーヤは馬上から小さくうなずき、皆に視線を巡らせた。
「では、改めて参りましょう。ミコト村へ──」
朝の光が、霧の合間から差し込む。
東へ続く林道は、淡く光る葉の揺らめきと、小川のせせらぎに包まれた、まるで絵画のような風景だった。
五つの影が、緩やかに──そして静かに歩を進めていく。
凛人は、ただその光景を見つめていた。
かつて夢の中で見たような、胸を締めつけるほどの美しさに、息を呑んだ。
段々畑が広がる村をいくつか抜けるたびに、マーヤたちは歓迎を受けた。
そのたびに村人たちが集まり、笑顔と声援、そして素朴な果物やパン、時には村長自ら酒を差し出してきた。
中には奴隷狩りに実際に捕まっていたところをマーヤに助けられた者もおり、その都度大騒ぎで感謝祭りが始まった。
「……いえ、私は何も。ただ、やるべきことをしただけです」
そう笑うマーヤに、周囲からはまた歓声が上がった。
自分の呼び方が“私”に戻っている。領主の娘モードなのかもしれない。
リオはその様子を微笑ましそうに見つめ、マクシムは腕組みをして村人に睨みをきかせていた(当然、子どもが泣いた)。
クロヴィルナは騎士のように控え、凛人は……パンを美味しく頬張っていた。
「なあリオ……俺、旅がこんなに楽しいなんて知らなかったよ……」
「村でこんな歓迎を受けるなんてな...警護団のみんなにも、お嬢の笑顔を見せてやりたいよ」
そう言って、リオは笑う。どこまでも晴れやかな、青空みたいな笑顔だった。
(イケメンはずるいな)
と思いながらも、凛人も自然と笑顔になっていた。
だが、完全に旅程は押していた。
ミコト村にサッパリ近付けない。
行く先々で歓迎を受けるマーヤ一行は、それらを無視する訳にもいかず、移動しては歓迎の場を設けられ、移動しては歓迎の儀が行われ、いくら時間があっても足りない。
ミコト村までの普通に行けば3時間程度の道のりなのに、半分くらいまで来たところで、泊まる宿を考えなければならない事態となった。
「ガレリオのじいさんが3泊分くらいの荷物を持ってけって言ってたのは、こう言うことかぁ。
ちょっと前じゃこんな歓迎考えられなかったからな...」
とリオがぼやく
「あと少し進めば、少し大きな村だよ。
今日は一旦そこで泊まるとしよっか」
歓迎続きで少し疲れの見える一行は、マーヤの提案に小さくうなずき、元気のない声で応じた。
程なくして辿り着いたその村でも、やはり温かな歓待が待っていた。
笑顔と祝福、素朴な料理と杯が、旅人たちを迎えてくれる。
一通りの接待を受け終えた頃には、空は淡く暮れかけていた。
霧の向こうに灯る明かりを目指し、一行はゆっくりと宿へと歩みを進める。
柔らかな夜気が、旅の疲れをそっと包み込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます