第25話 名誉の盾と、命の歌 その8
「――突撃!!!!!!」
マーヤの咆哮が、夜空を引き裂いた。
刹那、警護団が動いた。
統率された数十の足が、大地を蹴り上げる。
反射する閃光の中、影が矢のように疾り、
盾が空気を切り裂く音を響かせ、槍が雷鳴のように唸る。
彼らは咆哮した。
それは怒りであり、誇りであり、
恐怖を乗り越えた者たちの――魂の音だった。
奴隷狩りの兵たちは、なすすべもなかった。
閃光で目を焼かれた彼らは、
膝を抱えてうずくまり、恐怖に手足を震わせていた。
剣を無造作に振り回し、味方同士で傷つけ合う者さえいた。
中には、あの光を浴びた直後から、
白目を剥き、身体を痙攣させている者もいた。
まるで――天罰でも受けたかのように。
(ここにいるみんなは知らないだろうけど……これはグレイヴェルン式の“無音フラッシュグレネード”だ。
FPSでもここまで綺麗に決まったことなんてないっての。)
凛人は、あまりの効果に唖然としていた。
そんな阿鼻叫喚の中を、
警護団は――美しく、冷酷に、舞うように突き進んだ。
盾が跳ね飛ばし、槍が貫き、剣が正確に刈り取っていく。
それはもう、“戦い”なんて呼べるものじゃなかった。
そして戦場の片隅、凛人は叫んでいた。
「うおおおおおおッ!!
あとはもう、ヤケクソじゃああああッ!!!」
悪人とはいえ、人が――自分の仕掛けた罠で、何十人も死んでいく。
嘔吐しそうな感覚を、無理やり奥歯で押し込んだ。
自分でも何を叫んでいるのか、分からなかった。
意識をそらさなければ、まともに立っていられなかった。
半ば自棄気味に、凛人は音叉を乱暴に振るいながら。
少し期待して、覚えたての神韻魔法を唱え続けた。
「キレてなーい!
キレてなーいッ!!」
(馬鹿みたいだけど!今オレができる唯一役に立ちそうなことは......これだけだ!!
......馬鹿みたいだけど!!!)
と、“髭剃りの時に剃刀負けしない魔法”を連呼して、何度も音叉を響かせる。
……その場にいた誰一人――
もちろん凛人自身すら、気づいていなかった。
その音は、確かに戦場を癒していた。
凛人の“キレてなーい”は、音に乗って味方の傷口に届き、
肉がふさがれ、血が止まり、痛みが和らいでいたのだ。
地味に、着実に。
その一音が、味方の命を救っていた。
――やがて。
奴隷狩りたちは、完全に崩壊した。
恐怖に逃げ出す者、捕らえられる者、錯乱して自滅する者。
剣の届かなかった敵と、ふと凛人の目が合った。恐怖に染まったその顔が目に焼きついた。
指揮官らしき人物を探す余裕すらなく、戦場は終わっていた。
倒れた敵の中に、
上等な鎧に身を包んだ一際大柄な男がいた。
だが、その顔を誰も見ることはなかった。
戦場に静寂が戻った。
月もなく、風も止み、ただ夜があった。
マーヤが、剣を高く掲げたまま、天に向かって吠える。
「勝利は我らにあり!!」
その声に、警護団たちの喉が応じた。
「うおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!」
剣を掲げ、盾を叩き、地を鳴らし、
彼らは雄叫びをあげた。
それは勝利の咆哮であり――
生き延びた者たちの、魂の叫びだった。
月のない夜の、その静寂の向こうにあったのは、
絶望ではない。犠牲でもない。
ただ――
揺るぎなき、《勝利》だった。
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