52話【捜索チーム】

前回から時は遡り、前日の深夜近く


ーーーナツキ視点ーーー


「失礼しました」

「構わないよ。あんた達の知り合いだったんだな」


あたし達はマコトさんの運転してくれた車のお陰で最短でマリエッタさんが居た筈の綺麗な川が通った土手近くに足を運ぶもすれ違ってしまった。次に居場所はどこかと通信でライさんに繋ぎ確認したがスラムの繁華街に彼女は居るという。マコトさんにマリエッタさんの詳細な住所を伝えて足早で現地へと向かったら、そこはラーメン屋だった。前世でも好きだったからお腹の虫が鳴りそうになる。またあたしはアシュラさん達を制して自分だけ中に入る。そして店主には自分が客でない事を伝えて、レーヴンにはまだ返していないガラケーを取り出してマリエッタさんの写真を出してこの人は来ていないかと確認する。それがちょうど1時間前くらいに来ていたそうだ。関係は何なのかと聞かれたから、あたし達の仲間で惑星の外から来たと正直に伝える。店主は納得してくれたがその後の彼女がどこに向かったかはわからないと。そのタイミングでレーヴンから通信が来て、マリエッタさんの現在地が特定できなくなったと緊急の連絡をよこした。一応店主に次はどこに向かうか心当たりを再度聞いて、何でもトウマという男性と一緒にいたからスラム街のアパートにいるかもしれないと助言を頂いたからそこに向かおうとしていた。


「はい。行方不明になってしまって。情報、ありがとうございます」

「行方不明…? トウマが誘拐…そんなことはないな。あの嬢ちゃんはトウマに笑顔で接してたし、あいつが外へ出ていった時なんか急いで後を追っていったからな」

「え? なんでまた知らない人と」

「それは俺もわからないがトウマは人を安易に引っかける奴じゃない。その嬢ちゃんはトウマの姉に瓜二つだったがそれが関係していると思うが…。詳しく話を聞く時間が無くてな」

「瓜二つ…」


そう聞いてアシュラさんとあたしの恩人の事がよぎる。今はそんなこと考えている場合じゃない。あたしには推理力なんてないし、それを思ったのもサブロウさんの影響かもしれない。だから足を稼いでいくしかない。あたしは店主の善意に改めて感謝を述べた。


「何から何までありがとうございます。急いでトウマさんのご自宅に向かってみます」

「おう。あ、本人に会ったら言っておいてくれないか? 今日のラーメン代、明日返しに来いって」

「は、はい。わかりました」


ラーメン代…? そのトウマって人、食い逃げしたの…? それをマリエッタさんは追いかけた…。トウマさんがどういう人なのかわからないが、マリエッタさんの近くに置いておきたくない気持ちになった。店主は爽快な笑顔で私を送り出してくれた。


「縁があったら食ってってくれよ。うちの自慢は塩ラーメンだ」

「ぜひ、時間があったら伺います」


そう言ってあたしは店から外へと出る。外の待機していた面々はガヤガヤしている。レーヴンさんの緊急連絡を聞いていたんだ。あたしもその輪に加わる。


「お待たせしました。マリエッタさんの所在地がわからなくなったんですよね」

「ええ。そうなんです。マリエッタ、どこにいるの…?」


その中で一番心配をしていたのはナミさんだった。その次にディミトリも心配の念を伝えるが幾分か平常時に近かった。


「心配するな。先程もマコト殿が仰っていただろ。この区域では人身売買やそういった悪行を重ねる者はいないと」

「そうですけど、でも心配です。早く顔を見たいです…」

「その話、どういう事ですか? マコトさん」


あたしはその悪い人は居ないという話が信じられずマコトさんに質問する。マコトさんは真剣な表情でこのスラム街の現状を伝えてくれた。


「自分の知っている範疇なので正確ですが、新生ガリア国家になってからは裏組織は全て排除されて惑星追放されたのです。その影響でどこの場所でも危険な場所はありません。ただ、食べる物に困っている人は居るので窃盗は絶えないですけど。でも、それ以上の範疇は越えません。なので、先程も注意しましたけど剣等の刃物は没収させて貰いますよ」

「うむ…。従いましょう」


ディミトリさんが渋ってマコトさんに腰に刺さっていた剣を渡して、マコトさんはパトカーの後ろの荷台に剣を収容する。マコトさんは重ねてディミトリさんに注意をした。


「帯刀の申請は必要ないのですが人目もあります。なので僕の目が黒い範囲では見逃せません。…すみません」

「いえ。謝らなくて結構。マコト様の考える理念にお任せします。それでナツキ様。情報は掴めましたか?」

「はい。なんでも、マリエッタさんはトウマさんという男性の方と一緒にいるようで住所を教えて貰いました」

「え!? あのトウマですか!? 地塊王の!?」

「え、ちかいおう?」


あたしはマコトさんの言う『地塊王』という厨二病全開の単語を聞いて、つい眉をひそめてしまう。マコトさんがその『地塊王』の説明をしてくれた。


「トウマさんはこのガリアでは有名人ですよ。色んな方面でですけど…。一つは地塊王といった力を持っている化け物じみた方面の有名人。次はギャンブル好きでの有名人。最後はそこら辺をのほほんと宙を見ながら徘徊している空気みたいな人で有名です」

「…特徴が揃っていないですね」

「あはは。そう思いますよね。我々はもう慣れてしまいました。あ、忘れてはいけない。彼がもっと有名なのは今まで国家と国民を苦しめてきた『王竜』というモンスターを討伐してくれた事ですね」

「はぁ…王竜ですか…」


マコトさんはトウマさんの説明をしてくれるのは有り難いが全部がちゃんと頭の中に入ってこない。統一性がないからだ。怪物で、ギャンブル好きで、空気みたいな人って。…あ、トウマ…? ………あ!!! その心の声も同時にあたしの口から発した。


「あ、トウマ!!! 見ました! 呆けた顔が似合う男の方ですか!?」

「そうです! なんだ。見かけた事があったんですね。しょうがないです。忘れちゃいますよね」

「その通りです。昨日見かけましたけど、すっかり忘れてました。そのトウマって方がモンスターを討伐した…。そういった偉業をする人に見えませんでしたけど」

「思いますよね。それ。でも、あの華奢な体からはすごい怪力が秘められているんですよ。片手で車を何無く持ち上げますから」

「…嘘だぁ」

「…本当です」

「………嘘だぁ」

「お二人とも、事を急いでいます。雑談はお止めになっては」

「はい。私も同感です。マリエッタの事があるのに盛り上がれないですよ!」


あたしとマコトさんのやり取りを見かねてディミトリさんが話のちゃぶ台をひっくり返し、ナミさんはレオナさんやフローラさんに叱りつけるようなテンションであたしだけを怒った。あたしは恐縮して謝った。


「ごめんなさい…」


それでもマコトさんは伝え忘れていた事があるのかちゃぶ台を元に戻す。


「これだけは聞いて下さい。トウマさんは力が強いのでいきなり腕を掴んだりしないで下さい。何かの拍子で人が変わりますから」

「人が変わる、ですか。それで、他に把握することは何ですか」


ディミトリさんはその要点を把握しようとマコトさんの話に耳を傾け結論を急かす。マコトさんは話を続ける。


「はい。後はこの国では彼は英雄的ポジションに居て国民全体から愛されています。なので彼に不用意な事をしたら周りも黙っていないです。私も同じですが。友達の親を王竜に殺されてしまいましたから。国民は何かしら王竜に恨みを持っていました。それをトウマは3年前に討伐を成功させた。なので彼の事は全てを踏まえて接してくれませんか?」

「承知しました。敬意を払いましょう。それでその住所へはどれくらいで?」


ディミトリさんは口早で返事をしてマリエッタの所在を割り出そうとする。彼にとってはどうでも良くはないだろうが、自身の部下でもあるマリエッタが優先なのだ。それは当然の感情だと思いあたしは住所をマコトさんに伝えた。だがそれは不要だったみたいだ。


「C街区の16地区の2番の4号って聞きました。マコトさん」

「あ、場所ならわかります。トウマさんのご自宅も警官は皆把握しています。最後の砦ですから。ここからは早歩きで20分位です。こっちです」


マコトさんはそう言ってあたし達を道案内する。これから再会できるだろうか。その地塊王とやらに。

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