3 行動開始

第14話 交換するなら

 長らく同じ体勢でいることに疲れてきたころ、先刻のリーダーらしき男が姿を現した。その背後には、リックよりも一回り以上は大きい背丈の男が控えている。


「やってくれたようだな、アルフレッド・グレイディ」


「んー? さっきのお兄さんか。名前は……っと、そういや聞いてなかったな」


「そうだ。俺も名乗った気がしない」


「どうしても名乗りたいならどーぞ?」


 余裕しかないアルフレッドの態度に、リーダーの男は眉をひくりと動かす。


「仕切るな、やりにくい。俺はフランク・ドーソンだ。ちなみに、弟は……」


「弟の話は結構だ、そこまでは聞いてない。だから、全て忘れておくとしよう」


「ちょっ、おい。俺の名前くらいは覚えろよ」


「赤の他人の名前なんて、価値はそう高くないだろ。おまえら、よく俺の名前を覚えていられるよな? そもそも名乗ってもないのにさ。はは、俺ってやっぱり人気者か?」


「…………はぁ、そうだな」


 やりにくさを全身に滲ませ、ドーソンと名乗った男はため息を吐いた。


「よし。教えてやろう、アルフレッド・グレイディ。まずは、今の立場からな」


「んん? なんだよ。なにをそんなにもったいぶって――」


 アルフレッドが聞き返しきる前に、ドーソンの後ろにいた大男がアルフレッドの首を掴んで持ち上げた。立派な体格に見合う力は強く、すぐに息が詰まる。


「う、ぐぁ……ッ……なる、ほど……なっ!」


 軽く声を吐き出したアルフレッドは、意識を堪えて勢いよく右足を振り上げた。それが大男の急所に直撃し、悶えているうちに手が離される。そのまま鎖の音を鳴らしながら、アルフレッドは背中を壁に強打した。


「痛っ……たた……っ! げほっごほっ……思ったより打ったなぁ……」


「〜〜……っ!」


 やや痛がる彼の一方で、大男は言葉にならない悲鳴を上げる。顔面は凄まじい勢いで青ざめ、同時に全身から力が抜け落ちて、ダメージを受けた箇所を力なく抑えながら屈み込んでいた。


「おまえ、つらそうだな? ついでに寝かせてやるよ」


 アルフレッドは畳み掛けるように、大男の背をめがけて踵を振り落とし、反応の隙を与えることなく意識を失わせた。


「そ、んな……っ!」


 あまりにも容赦無い想定外の事態に、ドーソンも言葉を失った。得意げだった態度から一転して、青ざめた顔で固まる男に対し、アルフレッドは自身に注目するよう呼びかける。


「ゴホン。えっと、スカンク……じゃないな、フランス……あぁ、フランクか? まあ、いいや。改めて話そうか。おまえは、俺になにを教えてくれるんだって?」


 アルフレッドが尋ねると、ドーソンは無言で目を泳がせる。その立場が逆になっていることは明らかだった。


「そうか、じゃあ質問を変えよう。俺を拉致した理由はなんだ? こんな趣味の悪い場所に、こうも趣味悪く繋いでる理由は?」


「……こ、交換のためだ」


「へぇ。一応訊くけど、なにとの交換だって?」


「あの……白いガキと。他でもないアンタなら、渡さざるを得ないだろうって……」


「まるで誰かにそう聞いたような言い方だな。そりゃ一体だれ――……」


 尋ねかけたアルフレッドの視界に、縄を持った三人の男が入ってきた。


「おっと、なにかの時間か?」


「……ああ、そうだ。静かに着いてこい、アルフレッド・グレイティ」


 ドーソンの指示を受けた部下たちが鎖を外し、今度は縄で両手を前に縛って、アルフレッドを甲板へと連れていこうとした。


「あぁ、待て。どうせ武器を回収してんだろ? なら返してくれ。交換するなら、完璧な俺じゃなくちゃだぜ?」


 男たちは戸惑ったが、妙に納得した様子で仕方なく、アルフレッドに剣や銃を装着していく。


 大人しく作業を待つアルフレッドだったが、急にどこか嫌な気配を感じて顔を歪めた。


「……っ? なん、だ…………?」


 そこまで大きく、分かりやすいものではない。けれど、まるで誰かに監視されているような心地が確かにしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る