濃ゆいっちゃ!〜汚したらお掃除してね!

上城ダンケ

北九州のとある地方高校にて、いとも簡単に行われる「ごっくん」な行為。


 学校。畳のある教室。放課後。2人の男女。女教師と男子生徒。


「もうよかろ?」

「まだですけん、先生」

「んもう……焦らし過ぎっちゃ!」


 男子生徒、ふう、とため息。


「はしたなかとです、先生」

「仕方なかろーもん……美味しそうなんやもん」


 女教師は口を大きく開ける。


「駄目。もう我慢できんちゃ。ぱくってするけんね? お口に入れるけんね?」

「いかんとです」

「じゃ、舐めていい? ペロッて」

「ダメ」

「先っちょだけで、よかよ?」

「ダメなものはダメです……って、そんなに唇舐めまわして、おねだりしても無駄!」

「けちぃ」


 などとしてるうちに準備ができたようだ。


「は、はやくちょうだい! 我慢できないっ!」

「はいどうぞ」


 ぱく。女教師の口が大きく開く。


「うひゃ! おいちい! こんなの、初めて!」

「いちいち言わないでください」

「だってぇ……」


 やれやれ。男子生徒が呆れる。


「とにかく、静かにしてください。ちゃんと味わいましたか?」

「うん」

「では……はい、どうぞ」


 男子生徒が差し出す。


「うわ、濃ゆっ! 濃ゆいっちゃ! こんなのごっくんするの?」

「そういう感想はいりません。静かに味わってください。あと、褒めてください」

「もう、偉そうに! ちょっとSっぽくない? 生徒のくせに生意気ばい!」

「ここでは僕が亭主ですから」

「亭主だなんて……おませさん!」

「はよ手に取ってみて」

「えっと、こうして……」


 手でこねくり回した後、女教師が口に運ぶ。


「うえーん、苦いっちゃ!」

「文句言わないでください。さ、はやく飲み干して」

「なんか泡立っとーよ?」

「そういう感想はいりません」

「怒らないでよ。ちゃんとごっくんするけん」


 上目遣いで女教師が口に含む。


「んぐ……んぐ……やっぱり苦い! うぇええ」

「お子様ですか! 大人なんですよね? こういうの好きなのが大人ですよ? さ、ごっくん!」

「うう、やだよお……」

「最後は紙で拭き取って綺麗にする!」

「うう、お掃除がんばりゅ……まだ口のなかベタベタするばい……くすん」

「ったく、それでも茶道部顧問ですか? 抹茶が、苦いお茶が苦手なら、なんで茶道部の顧問になったんです?」

「だってぇ、美味しい和菓子食べられるって聞いたから……。こんな濃ゆいお茶って知らんかったとよ」

「はじめにお菓子。それから抹茶。抹茶は濃くて苦い。あと、最後にお点前を褒める。覚えてください!」

「はーい。先生、がんばりゅ!」




【あとがき】茶道。それは詫び寂び。日本的精神。もう純文学ですよね、これ。

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