治癒魔法に目覚めた少年は、今度こそ大切な人を救いたい

米沢鷹山

プロローグ

まぶたが重い。

耳鳴りがして、足元から冷えていくのがわかる。

何が起きたのか理解できなかった。ただ――世界が遠ざかっていく。


人混みの中、駅のホーム。

大学院の帰り道、たまたま人の波に押された拍子に、視界がぐらりと揺れた。


――ああ、ダメか。


地面に手を伸ばそうとしても、力が入らない。

寒い。意識がかすむ。心臓の鼓動が遠のいていく。


そのとき、ふと浮かんだのは――おばあちゃんの顔だった。


白髪まじりのやわらかな髪、しわの刻まれた手。

優しく笑いながら、俺の頭を撫でてくれたあの日々。


子どもの頃、共働きの両親はほとんど家にいなかった。

代わりに俺を育ててくれたのが、おばあちゃんだった。


朝ごはんを作ってくれて、学校に送り出してくれて、

帰れば「おかえり」と笑って迎えてくれた。


風邪を引いたときは、夜通し看病してくれた。

泣いたときは、理由も聞かずに抱きしめてくれた。


でも、おばあちゃんが倒れたのは、高校進学の直前だった。


原因不明の持病で入院し、長期療養に入った。

「いつどうなるかわからない」と、医師からは告げられていた。


それでも、毎日学校帰りに病院へ通った。

制服のまま病室を訪れ、今日あったことを話すのが日課だった。


「優人は、本当にやさしい子だねぇ」

「ううん、おばあちゃんがいちばんがんばってるよ」

そんなふうに微笑まれるたび、俺は自分の無力さに胸を締めつけられた。


もっと知識があれば。もっと技術があれば――

何もできなかった自分が、悔しくて仕方なかった。


だから、決めたんだ。

医療の道に進もうと。

おばあちゃんのように苦しむ人を、今度こそ救えるようになろうと。


……なのに、また俺は、何もできないまま死ぬのか。


痛い。寒い。悔しい。

あんなに時間があったのに、何一つ返せなかった。


おばあちゃん、ごめん――


願わくば、もう一度……やり直せたなら。


◇ ◇ ◇


次に目を覚ましたとき、俺は――泣いていた。


息が苦しくて、喉がひゅうひゅうと鳴る。

まぶたは重く、視界はにじみ、身体はまるで言うことをきかない。


誰かが俺を抱き上げている。

あたたかな腕に包まれ、優しく語りかけられる。けれど、その言葉はまるで知らない言語だった。


――どこだ、ここ……。


意識がぼんやりとするなかで、さっきのことを思い出そうとする。

駅のホーム、冷たい床、遠のく鼓動。そして――おばあちゃん。


あれが最後のはずだったのに、俺は――生きている?


いや、それどころか――体がおかしい。

短い手、力の入らない指、小さすぎる身体。


鏡も見ていないのに、はっきりわかった。

俺は――赤ん坊になっている。


戸惑いと混乱の中、それでも確信した。


これは、きっと――転生だ。


ラノベでよく読んでいた。死後に異世界へ行き、赤ん坊からやり直す物語。

まさか、自分がそんな立場になるとは思わなかったが……そうとしか思えない。


神様がなぜ俺に二度目の生を与えたのかはわからない。

でも、これはきっと――神様がくれたチャンスだ。


もう一度、生き直すための。

もう一度、誰かを救える人間になるための。


おばあちゃん、俺、頑張るよ。

――今度こそ、後悔しないように。

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