第3話【回想「星降る夜の願い」】

明日は家族皆でピクニック。

楽しみすぎて夜眠れない。

部屋は真っ暗だけど全然怖くない。

すると部屋のドアをそっと開ける音が聞こえてきた。

きっとお母さんだ。

私のお母さんはちゃんと夜眠っているか確認するために見回っている。

心配しなくても眠たくなればちゃんと寝るのにと思っていたけれどお母さんが言ってた言葉を思い出す。


「いぬこ?」


「なーに?お母さん。」


お母さんは私の頭を優しく撫でながら微笑む。

私はお母さんに頭を撫でてもらうのが大好きだった。


「いぬこは将来どんなおとなになりたい?」


「………おとな…。」


この時の私はまだおとなという意味がよくわかっていない頃だったし、考えるのは苦手だった。


「よく分からないけど…お母さんと一緒がいいな!」


「そっか。お母さんもいぬこと一緒がいいわ!」


「ほんとに!?やったぁー!」


キャッキャッとはしゃぐ私を見てお母さんも笑っていた。

その時の時刻はもう夜の22時くらいで窓からは星がキラキラと見えている。


「ほらいぬこ、明日も元気で起きれるようにちゃんと寝るのよ?」


「えー!まだお母さんとお話してたい!やだ!」


私は駄々をこねるとお母さんがそれを見かねてか呆れて言葉を吐く。


「いぬこ?いぬこはもうお姉ちゃんだよね?」


「そうだよ!私!お姉ちゃん!えっへん!」


「お姉ちゃんはしっかりしてないと駄目よね?」


「そうだね!私、お姉ちゃんだから!」


「いぬおは明日のためにいぬこより早く寝ちゃってるよ?」


その言葉を聞いて私は衝撃を受ける。


「私より…しっかり者……。」


「いぬおのほうがいぬこよりしっかりものになっちゃうね…こまったわね…」


「えー!ええっ!!?じゃっ…じゃあ!私ももう寝る!!」


「ふふふ。素直でいい子ね。いぬこ。」


そういったやり取りが前にあったのを思い出した。

あの時のお母さん…策士だ。

……考えすぎてたら眠くなってきちゃったな…。

私の意識はだんだんと闇に落ちていく。


「明日楽しみだな。」


明日に期待しながらいぬこの意識は途絶えた。

何事もなく朝を迎えた。

窓からは聞こえる小鳥のさえずり、ぽかぽかと日が差すお日様の光が心地いい。

まだ眠っていたいと感じたいぬこは布団にくるまる。

そこへ部屋のドアをノックする音が響き渡る。

コンコン…。

ドア越しに話しかけてきたのはお母さん。


「いぬこー?ほら朝よー?朝ごはん食べないのー?」


「んー……まだ眠いよー…」


ガチャ…とドアを開けお母さんが部屋へ侵入してくる。


「いぬこ?貴方…今日はピクニックよ?」


「…………。」


しばらくの沈黙で思考を巡らせているいぬこ。


「いぬこ?貴方もしかして夜更かししたんじゃないでしょうね?」


「いえ…してないです。」


「本当かしら…?」


「だって昨日お母さん!私の部屋に…あ…」


お母さんは私のその言葉を見逃さない。

お母さんの表情が吊り上がる。


「いぬこ?起きてたの?」


「あっ!…いや!…ほんと…ちょこっとだけなんで!」


「おしおきだべ~!」


「きゃああああああ!!」


お母さんは問答無用で私に覆いかぶさりお仕置きという名のくすぐり地獄をお見舞いされた。

しばらく私はそれで身体のあちこちが敏感になって苦痛だった。


家族皆で朝食を囲んで食べる。

お母さん、お父さん、いぬお、私。

皆、笑ってる。

私はこの時間も大好きだった。

なのに…。

なのに………どうして。

あの時…………。

私といぬおを置いて行ったの?


私…嫌われたのかな…

悪い子としたのかな…

本当は不安で怖くて仕方なかったんだよ?

でも…私はお姉ちゃんだから。

我慢しないと。

強がって無いと気が抜けて負けちゃいそうになるから。

頑張って頑張っていぬおを守ったんだよ!

お母さん!お父さんが、いなくなっても…頑張ったんだよ!

だから……また…戻ってきてほしいよ…。

会いたいよ…。

お母さん………。


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