第2話「曇天のイレギュラー」
森の中を他愛の無い話をしながら江野町商店街方面へ向かういぬこといぬお。
晴れていた天気が急に曇天に覆われ雨がポツポツ…とやがて集中豪雨のようにいぬこたちに降りかかる。
「うわあっ!なにこれ!?」
「何の嫌がらせだよ!すげぇ雨じゃねぇか!」
二人は走って葉が大きい木と下へと駆け込む。
二人ともビショビショでブルブルと水分を絞るように身震いをする。
勿論乾燥はしていないので少し寒い。
いぬこが心配そうに曇天を見あげている。
へたりと獣耳を倒し落ち込んでいる様子。
いぬおは元気づける為に励ますがいぬこは苦笑い。
いぬおはここで気がつく。
「姉貴…なにかあった?」
「………。まだ分からないけど…多分これ魔物の影響じゃないかなって」
「魔物…?いや…でも…瘴気の気配もなにも感じなかったぞ?」
「………前にも言ったけど、強めの魔物の仕業かもしれない。魔物にも能力が芽生えてしまう個体、特殊個体【イレギュラー】として進化する魔物がいる。この雨はきっとそいつのせい。」
「なるほど…じゃあ……近くにいるのか…そいつが」
先程の和やかな雰囲気とは一変する。
姉であるいぬこは納品予定の荷物を一旦手放すと辺りを警戒するべく臨戦態勢。
意識を周囲の音に集中する。
いぬおもまた周囲を警戒する態勢へ入る。
「………………。」
雨は強くなるばかりで一向に止まない。
雨の音で周囲の音が雑音でかき消されていく。
いくら集中していてもこれでは気配が掴みづらい。
「姉貴どうだ…?」
恐る恐る集中するいぬこに問いを投げるいぬお。
残念ながら言葉はない。
いぬこは目を閉じ聴覚の感覚を研ぎ澄ませている。
険しい表情になり目を見開く。
その刹那、茂みから空気を切り裂く斬撃がいぬおめがけて飛んでくる。
その前にいぬこがそれに気づき動いていた。
「いぬお!!!」
いぬこが見せた超反応はいぬおの身体を咄嗟に突き飛ばし自身の能力【狼火】で斬撃を相殺してみせる。
「やあああっ!!」
赤い炎が斬撃と共に弾け飛びいぬこも衝撃で吹き飛び木に打ち付けられる。
「ぐぅっ…!?」
受け身を取ろうとするも不意打ちに近くかなりのダメージを受けてしまった。
突き飛ばされたいぬおがすぐさま立ち上がりいぬこに駆け寄ろうとするがいぬこがいぬおに静止を呼びかけた。
「まって!きちゃ…だめ!!」
「…っ!?」
いぬこに近づこうとしたその瞬間、再び斬撃が飛んでくる。いぬこが静止を呼びかけてくれなければもろにくらっていた。
何もできなかった自分に悔しさが溢れ出すいぬお。
すると茂みから現れたのは青白く大きな蛇。
チロチロと舌を出しこちらを静かに見つめている。
その姿を見ていぬおはすこしビビってしまう。
「っ…なさけねぇ…」
「いぬお!貴方はここから逃げて!」
いぬこが必死にいぬおに呼びかける。
けれど様子がおかしい。
いぬおは、たしかにいぬこの声が届いている距離なはずなのに、動こうとしない。
いや…これは…もしかして……。
そう、この魔物は対象を見続けることで対象の動きを防ぐという能力が発現した何者かなのだろう…。
そうするとなれば……いぬおが危ない。
いぬこが身体を起こそうと踏ん張るが思った以上にダメージが入ったらしい身体がかなり鈍い。
「ぐっ………ぅ…っ…」
「姉…貴………。」
いぬおに徐々に近づいてくる青白い蛇の魔物。
赤い瞳で凝視され全く身動きが取れない。
「いぬお!!!」
追撃をするように青白い蛇の斬撃がいぬこに向かって飛んだ。
鋭く細い刃は木々をなぎ倒す。
いぬこはギリギリで斬撃を躱すが数カ所に切り刻まれたような後が複数あちこちから血が垂れてきている。
「……この魔物は正直…今まで相手にしてきたやつより…厄介かな…。でも…だからなに。」
ゆらゆらと身体を立たせる。
瞬間いぬこの怒声が響き渡る。
「私の弟に…てぇだすなああああ!!」
いぬこの全身から灼熱の炎が揺らめいている。
魔物は興味を示したのかいぬおから視線をそらす。
するといぬおの固まった身体は動き出した。
「っ!?あぁっ…」
魔物が大きな咆哮を上げいぬこに襲いかかる。
いぬ子に視線を合わせようとする魔物だったがいぬこは止まらない。
魔物が焦りだす。
「シャアアアアア!!」
大きな尻尾をムチのようにしならせ大地をえぐる。
いぬこはそれを超反応で躱す。
雨が強くなる中でもいぬこの炎は消えず、それどころか先程の逆境から持ち直している。
魔物はとぐろを巻き竜巻を引き起こす。
いぬこは能力で特大の火球を生成する。
「これは……さっきのお返し。」
急速に生成される太陽の如き火球。
正直、今まで姉貴を見てきたいぬおでさえその力に驚愕していた。
「姉貴…」
「いぬおは!私が守る!絶対に!!」
全身全霊を込めた一撃を放つ。
火球は魔物めがけて一直線。
竜巻と衝突やがて魔物を包み込む竜巻と融合しそこには煉獄の炎が天昇るように火柱が立ち上った。
魔物が悲鳴を上げ焼け焦げた状態でその場に倒れた。
先程の曇天がすっかり晴れ渡り辺りには光が差す。
それと同時だった。
いぬおが走って倒れそうないぬこを抱き寄せる。
「姉貴!!」
「………いぬお…ごめん…ちょっと無理したかも…えへへ…」
姉貴の身体は擦り傷といくつか深い打撲服もボロボロの状態だ。
それを見ていぬおは何も言わず手負いのいぬこを連れ江野町商店街へ走り出す。
(………………。俺がもっと強ければ……姉貴がこんなボロボロにならずに済んだのに…。くそっ!)
「いぬお…いぬおは……私が……」
いぬおの背中は広くてあったかい。
すごく優しくて落ち着ける。
おんぶなんていつぶりだろう……
お母さん……お父さん……は……なんで……
私達を……捨てたんだろう?
いぬこは薄れゆく意識の中目を閉じて気を失うのだった。
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