第2話

 あの兄妹が去っていき、夜が明けた。


 太陽が天高く昇る頃に、またあの二人が現れる。

 お、また木苺目当てかな? 早速ハッスルしなければ、と思っていると、二人は茂みではなくこちらの方へと向かってくる。

 

「神樹様、昨日はありがとうございました!」


「ありがとーございました!」


 少年とルナちゃんは丁寧にお辞儀をして、俺の根元に穴を掘り始めた。


 え、え、ちょ、何してんの? まさか俺を掘り返したりしないよね?


「ルナ、いいか? 神樹様は、モンスターや生き物を分解して栄養にするんだ。だから、お礼をするならモンスターを捕まえて、こうやって根元に捧げるのがいいんだぞ! 俺、昨日本読んで勉強したんだからな!」


 え、そうなの?


 俺が動揺していると、根元にネズミのようなものの死骸が埋められる。


「ハダカデバポイズンマウスだ、毒があって俺たちは食べられないけど、神樹様なら分解できる」


 毒があるって大丈夫なのか?

 俺が懐疑的に思っていると、俺の根っこが本能故にか自然とはしゃぎ始め、ネズミの死骸へと絡みついていく。ぐんぐんと栄養が吸収されて、少しだけ葉っぱの艶が増した気がする。


 おお、これは、なかなかいい感覚だぞ。植物にとっての美味しいってこういう感覚なのかって感じだ。


 よし、お礼に目一杯力を込めた木苺を生らせてやろう。


 ふん。と力を入れると、昨日よりもより大きな緑色の光が発生し、茂みにはたくさんの実が生った。


「わあ、ありがとうございます神樹様! おにいちゃん、これでみんなにも持って帰ってあげる分があるね!」


「おう! 神樹様、ありがとうございます!」


 兄妹は嬉しそうに片っ端から実を収穫していくと、帰って行った。


 さて、俺はハダカデバポイズンマウスとやらを吸収してから、新たに発生したらしき能力の検証をすることにした。


 どうやら毒性のある動物やらモンスターを摂取すると、その毒を利用することが出来るらしい。頭の中には、『聖域支配・実り——毒の果実——』の言葉が浮かんでいる。


 ただ、あの兄妹が間違えて毒のある実を食べてしまったらと思うと迂闊には試せないんだよな。


 そうだ、あの二人の手が届かないくらい高い木に木の実を生らせるのはどうだろうか?


 俺のすぐそばに生えている背の高い木に、ドス黒いさくらんぼのような果実を実らせる。さて、これで鳥でも引っかかってくれたら、栄養をさらに吸収することもできそうなんだが。


 日光や土の養分でも俺は生長することが出来るが生長することが出来るが、なんというか、生き物の死骸やモンスターを取り込めば、ユグドラシルとして成長・・出来そうな気がするのだ。


 それからは、時折落ちてくる鳥を養分として取り込みつつ、あの兄妹に木苺を分けてやる日々が続いた。


 あの兄妹は随分と律儀で、頻繁にハダカデバポイズンマウスとやらを捧げにきてくれる。どうやら穀物庫の周囲に仕掛けている罠に時折引っ掛かるそうなのだ。

 彼らはいまだに痩せ細っているが、木苺の量も十分に確保できるようになって元気そうではある。栄養としては明らかに足りないはずなのに随分と活力をもたらしているようだから、何かファンタジー的な力が湧いているのだろうか。


 根っこも少しずつ伸ばせるようになり、広い範囲から栄養を補給できるようになってきた。


 そんな平和な日々を過ごしていた時のこと。

 いつものように兄妹が木苺を収穫していた所に、突然新たなる獣人が現れた。


「フェン! ルナ! よかった、無事か!?」


「どうしたんだよガルムのおっちゃん、そんなに慌てて」


 兄の方はどうやらフェンというらしい。ガルムのおっちゃんと呼ばれたその男は、筋骨隆々の体をした中年くらいの獣人で、フェンやルナと同じ種族のようだった。


「モンスターの群れが出たんだよ! 神樹様はご無事か?」


「ええっ!? この辺は神樹様のおかげで穢れも少ないしモンスターも出にくいはずなのに、群れが出たのか? 神樹様はいつも通りの様子だけど……」


 え、この辺にモンスターが出にくいのって俺のおかげだったの? まあ実際、聖域って言うくらいだし、穢れの化身であるモンスターが出にくいのも納得か。

 それにしても、どうすっかな。モンスターの群れが出たなんて。

 ゲームだと狼獣人はそれなりに強い設定のはずだけど、フェンとルナは心配だ。ここは聖域だから大丈夫にせよ、こいつらの住処まで安全であるという保証はない。


 そう思い悩んでいた時、不意にまた新たな知識が頭に浮かんだ。


 『聖具生成——普通の棍棒——』


 ん? 武器が作れるのか?


 ゲームだと、確かユグドラシル素材の武器は、モンスターに対して特攻効果があったはず。

 普通の動物や、『大枯れ』以前から存在する魔獣の類(魔力を持つ獣のことだ)にはなんの効果もない木製の武器だけど、穢れの化身たるモンスターには強い力を発揮する。


 それをガルムに与えれば、少しは力になるはずだ。


 俺は少しだけ動くようになった枝をわさわさと揺らして、三人の注意を引いた。


「ん? 神樹様が揺れているぞ!」


 ふんすと全身に力を入れ、聖具生成を行う。枝から緑の光が溢れ出し、その内の一本が光り輝きながら変形して地面に落ちた。

 形は棘付きの木製バットって感じだ。握りの部分が細くうねり、遠心力で手がすっぱ抜けないように根元だけが少し膨らんでいる。先端は重力を利用して力を発揮できるように太く重たくなっていた。


「おお! これは! 神樹様の生成なされる伝説の聖具! これを賜ってもよろしいのでしょうか?」


 喋ることはできないので、是の意味を込めてポンと花を一個咲かせた。


「ありがとうございます神樹様! これで子供達を守りぬき、村のもの一同、さらに神樹様のお役に立てるよう精進してまいります!」


 無事に俺の意思は伝わったようだ。


 そうして、心配しながらも三人を見送ってしばらくした頃。


 不意にざわざわとした感覚が生じたかと思うと、葉の艶が増し、力がみなぎってきた。まるで例の毒ネズミを何匹も取り込んだかのような感じだ。


 その理由は、本能的になんとなくわかった。


 俺の生成した武器で、ガルムがモンスターを狩ったのだ。


 どうやら、俺製の武器で誰かがモンスターを狩ると、その分の経験値が俺に入るらしい。


 え、これ、最強じゃね?


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る