第31話忠告

「公爵、頼まれていたものだ」


 チャールズは、わたしから視線をそらすと指を鳴らした。


 先程の男性が、紙の束をコリンに手渡す。


「ありがとうございます」


 コリンは、紙の束を受け取ってから謝辞を述べた。


「ミヨ、忠告をしておこう。おまえの心意気や信念は、人間ひととして素晴らしい。賞賛に値する。だが、それらがすべての人間ひとに理解出来るわけではない。ましてや感動して改心するとはな。つまり、おまえがいくら働いて借金を返そうと、ろくでなしはろくでなしのままだ。よりいっそう借金をするだけだ。連中は、寄生虫だ。駆除するしか手はない。借金の返済をさせることを、奴らは当たり前にしか思っていない。そろそろ見限る勇気を持つことだ。ここまで頑張ってきたんだ。これで連中を見捨てても、だれも文句は言わん。せっかく家族を得て、しあわせになれるチャンスをつかんだのだ。寄生虫どもの為にそれを永遠に失ってしまうようなヘマだけはするなよ」


 チャールズが言っているのは、叔父一家のことである。


 彼のその忠告は、耳も心も痛い。


 わたしは「借金を返済する」といきがっているものの、正直なところ自信がない。借金はかさむばかりで終わりがまったく見えないから。


 縁を切りたい。いっそ屋敷から放り出して欲しい。あるいは、永遠に戻りたくない。


 たしかに、心と頭のどこかでそう願っている自分がいる。


「公爵とその紙の束を見、今後のことを決めればいい。それと、公爵。その子は、はやめに施設に預かってもらった方がいいぞ。なんなら、息のかかっている施設を紹介しよう」


 チャールズの太短い人差し指が指したのは、ノーラである。


 ノーラが身をくっつけてきたので、その肩に腕をまわした。


 年齢の割には肉がついておらず、骨ばった両肩が痛々しい。


「その子のことをほんとうに考えるのなら、大人の事情に巻き込むな」

「それは……」


 コリンが言いかけたのを、チャールズはごつい顔をかすかに横に振り、それを制した。


「すでに巻き込んでいる。だろう? おいおい、そんな顔をするなよ、クレイグ。おれの轍を踏ませたくないから忠告するだけだ」


 彼は、つぎはクレイグに言った。

 というか、チャールズとクレイグって知り合いなの?


 いまのチャールズの言い方は、そんなフランクさが感じられた。


 って思っている間に、チャールズが話を始めていた。

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