天空の都の光と影

 華やかな場所にいても、私の心にはいつも、故郷の浮島と、あの不器用な彼の姿があった。夜空を見上げては、故郷の星の並びを探し、ライルを想う。彼が今、何をしているのか。元気にしているのか。


 手紙を書き綴る時間は、私にとって唯一、素の自分に戻れる時間だった。都での出来事、学んだこと、感じたこと。そして、ライルへの「会いたい」という素直な気持ち。書き終わると、すぐに風の伝令に託して、故郷へ送る。


 けれど、彼からの返事は、いつも私の期待を裏切った。届く手紙は数えるほどで、内容は簡潔で、まるで事務連絡のようだった。「俺も元気だ」「修行に励んでいる」。それだけ。都での華やかな生活の話や、私の活躍を記した手紙に、彼は何も感じていないのだろうか。


「もしかして、私じゃない誰かに……」


 そんな漠然とした不安が、私の心の奥底に、そっと芽生え始める。彼は、もう私のことなど、どうでもよくなってしまったのかもしれない。そう思うと、胸が締め付けられるような寂しさが込み上げてくる。


 そんな中で、私はゼフィール様と出会った。


 彼は、都でも指折りの若き天才風術士で、神殿でも特別な存在だった。初めて会った時、彼は私の歌声に宿る力にすぐに気づき、その才能を惜しみなく褒めてくれた。


「ティア殿の歌声は、天の風を自在に操る力をお持ちだ。これほどの才能、都でも稀有です」


 彼の言葉は、私の心を奮い立たせるものだった。ライルの不器用さを理解しているつもりだったけれど、ゼフィール様は、まるで私の心の奥底を見透かすかのように、言葉を尽くして私を支えてくれた。修行で戸惑っている時も、都での生活に慣れない時も、彼はいつも私の傍にいて、的確なアドバイスと優しい言葉をくれた。


 ライルとは、まるで正反対だった。ライルは、いつも何を考えているのか分からなくて、大切なことは何も言葉にしてくれなかった。けれど、ゼフィール様は違う。彼は、常に私の目を見て、私の言葉に耳を傾け、私の不安を察して、言葉で慰めてくれる。彼の優しさは、私にとって、都での孤独感を和らげる唯一の光だった。


 ライルからの連絡が減っていく中で、ゼフィール様の存在は、私の心の中で、少しずつ、だけど確実に大きくなっていった。彼に助けてもらうたびに、私は罪悪感と同時に、どうしようもない安心感を覚える。


「ティア殿は、本当に素晴らしい。私は、君の才能を、そして君自身を、誰よりも理解しているつもりです」


 ある日、ゼフィール様はそう言って、私の手を取った。彼の指は、ライルの手のひらとは違う、ひんやりとした、だけど確かな熱を持っていた。私は動揺し、すぐに手を引っ込めてしまったけれど、彼の真剣な眼差しから逃れることはできなかった。


「君を支えたい。君の力を一番に理解しているのは、私です」


 彼の言葉が、不安を抱える私の心に深く響く。ライルからの連絡は相変わらず途絶えがちで、私は「このまま彼が私を忘れてしまうのではないか」という漠然とした不安に囚われていた。ゼフィール様の言葉巧みなアプローチは、私にとって甘く、そして抗いがたい誘惑のように思えた。


 ライルへの一途な想いを断ち切れないでいる。そのはずなのに、彼の言葉と、ライルとのすれ違いの中で、私の心は激しく揺れ動くのを感じた。

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