第2話 100万回ダンジョンをクリアしたら、特典スキル『創造』と『通販』を手に入れた。

 アルゴ王国の中でも魔竜の森近くの辺境も村。

 そこは、名前もない村。

 俺は、異世界転生してきた時に生まれた村なので、始まりの村と呼んでいる。

 そんな始まりの村には、ダンジョンがある。

 本来、ダンジョンは王国に届ける必要があるが、俺しか入れないダンジョンで、何よりも一部屋しかないマジでしょぼいダンジョンなので、領主も報酬が薬草しかないからと王国に届け出すら手間だからと出していない。


「まぁ、それでも今の俺には大事な収入源なんだがな……」


 村長と挨拶を交わして両親が流行り病で亡くなった我が家へと戻る。

 家に入れば、2年近く家を空けていた事もあり、埃っぽい匂いが家内に漂っていた。

 背負い袋を自室という共有ルームに置いたあと、ダンジョンに向かって歩く。

 ダンジョンの場所は、村から森へ入って1分ほどの崖に出来た洞窟。

 洞窟と言っても4畳ほどの高さ3メートルほどの洞穴。

 そして外から見える位置に宝箱がある。

 それも、木材を乱雑に組み上げただけのしょぼい宝箱。

 ただし、このダンジョンは村人の誰も入ることは出来ない。

 村人の話によると、目の前に透明な壁のようなモノが出来るらしいが、パントマイムなことをしていたので、たぶん本当なのだろう。

 嘘をつく意味もないからな。

 それに薬草しかドロップしないと言っても、数秒で薬草を手に入れることが出来るのだから、繰り返せば、それなりに稼げる。

 なので、俺は、親父が死んでからは家計と辺境の破綻寸前の財政を助けるために、出来るだけ小さい頃から10年以上、一日18時間くらい、ダンジョンを行ったり来たりして薬草を集めていたものだ。

 おかげで、毎年、死者が出るレベルで貧しく痩せ細った土地であっても薬草だけで収入は確保できていた。

 そのために、俺が冒険者になると村を出るときは、一悶着あったくらいだ。

 村に戻ってきた時に、無茶苦茶歓迎ムードだったのは、そのせいもあるのだろう。

 悪い気はしない。

 利用されている気がするがな!


 ダンジョンの中に入る。

 そして宝箱を開ける。

 中には新鮮なホウレンソウの形をした葉っぱが一つ入っていた。


「あいも変わらずダンジョンをクリアしたって実感はわかないよな……」


 一人愚痴る。


「まぁ、俺は日本でも異世界でも、社会の歯車として生きていくしか道はないんだろうな」


 さすがに20年以上、日本でサラリーマンをしてきたのだ。

 人生は達観している。

 トラックに轢かれそうな女子高生を助けた時に、トラックに轢かれてトラック転生してきた時は、異世界だと知って、そりゃ有頂天になったもんだったが、異世界の現実を知れば知るほど、日本で暮らしていた時よりも過酷だと思い知らされた。

 何せ、20歳になったばかりの親父が流行り病で死に、その数年後に母親も死んだのだ。

 この世界の医療レベルなんて推して図るべきものだろう。

 そして俺は医者でもないし。


「はぁ、とりあえず奴隷落ちだけはマジで勘弁だから、薬草を取れるだけとって、それを売り払って金にしよう」


 自分に言い聞かせるようにして、俺は村に戻ってきたばかりだというのに、ダンジョンを攻略し続ける。

 早いと10秒でダンジョンをクリアして薬草が手に入るのだ。

 一時間で360個、10時間で3600個。

 正直、取りすぎだとは思うが、全てのポーションの原材料は薬草にある。

 普通のポーションを作るだけで10個使うし、銀貨1枚、日本円にして1000円は必要だ。

 最底辺のポーションを作るだけで、失敗もあるから薬草は腐るほど必要になる。

 そしてダンジョンではモンスターが薬草を落とす。

 よってポーションの買い取り価格は思ったよりも高くない。


「そりゃ領主も届け出しないよな……」


 俺は憂鬱になりながらも日が暮れるまでダンジョンの中に入って宝箱だけを開ける作業を続ける。

 そして日が沈みかけたところで――、


『転生者特典ダンジョンを100万回クリアしたことを確認しました。転生者に転生特典を与えます』


 ――と、頭の中に声が響く。

 ど、どういうことだ?

 転生した幼少期から、ずっとダンジョンをクリアしてきたが、それが意味ある事だったとしたら――、


『転生特典として、欲しいスキルを選んでください』


 続けて脳内に声が響くと同時に視界内にウィンドウが開く。

 そこには無数のスキルが表示されていた。


「こ、これは――。まさか、本当に転生者特典なのか?」


 震える声で俺は声を絞り出す。

 この異世界では、誰もが持っているスキルと職業。

 それが10年越しに手に入るなんて! と、興奮が抑えきれない。

 しかもスキルは二つまで選ぶことが可能。


「――ん?」


 そこで、俺は自分のステータス項目に変なのが表示されている事に気が付く。




 名前 カズヤ

 性別 男

 職業 社畜(サラリーマン)

 スキル1 なし

 スキル2 なし

 異世界人特殊スキル 無限アイテムボックス(NEW)




「おい。社畜は、職業じゃねーよ!」


 思わず声が出るが、それは日が沈みかけた中では意味をなさない。

 それよりも、特殊スキルがあることに驚く。

 しかも、この異世界でも1000人に一人の頻度しか持ってないアイテムボックス。

 さらに上位と思われる『無限』という文字。


「こ、これは! 俺の時代が来た! アイテムボックスに収納!」


 数千束の薬草が、一瞬で目の前から消える。

 今までは村人に手伝ってもらって村の中央まで運んでいたというのに!

 このアイテムボックスだけで、上位冒険者のサポーターが出来る!


「――いや、やめておこう」


 どうせ、また変な言いがかりをつけられて追放されたら目も当てられないし。

 それに幼馴染ですら、俺を無能だという目で嫌っていたのだから、荷物運びなんてお呼びじゃないし、冷遇されているという話なんて腐るほど聞いている。

 だったら、俺は俺のためだけにスキルを使おう。


「――と、なると……」


 俺は50音整列に出来る事に気が付き、スキルを見ていく。


「こ、これは!? 通販だと!?」


 異世界では通販サイトと言う事で、商業で無双できるスキルの一つとして、俺が読んでいたライトノベルでは重宝されていたスキルだ。


「選ぶしかないだろ」


 この異世界は調味料どころか旨味成分の抽出すら満足にできてなくて、素材の味だけで勝負している部分があるからな。

 通販を選ぶ。




 名前 カズヤ

 性別 男

 職業 社畜(サラリーマン)

 スキル1 通販

 スキル2 なし

 異世界人特殊スキル 無限アイテムボックス




「あとは、どうするか……」


 戦闘職でもいい気がするが、日本人として40年近く暮らしてきて、異世界に転生してきたあとも狩りも殆どしたことがない。

 なので、戦闘職は向いてない気がする。


「そうなると……」


 俺はスキルの項目を見ていく。

 

「これがいいな……」


 選んだのは『創造』というスキル。

 おそらくだが、クリエイターなどの仕事のスキルだろう。

 スキルを選ぶ際に詳細が書かれていないのが問題だ。

 もう少し初心者に優しくしてほしいものだ。




 名前 カズヤ

 性別 男

 職業 社畜(サラリーマン)

 スキル1 通販

 スキル2 創造

 異世界人特殊スキル 無限アイテムボックス




『スキルが選ばれました。それでは異世界ライフを満喫してください。スキルを使用するときは、ウィンドウと考えてください』


 スキル設定が終わったと同時に頭の中に響く声。

 俺は、しばらく自分にスキルが備わった事に夢心地になるも――、


「ウィンドウ!」


 声に出す。

 すると目の前に、パソコンのようなウィンドウ画面が開く。

 その中には『創造』と『通販』というタグが表示されている。


「創造と通販か……」


 そう呟いたところで、フクロウの声が聞こえ始める。

 どうやら、夕暮れ時が近づいてきているようだ。


「スキルの確認の前に、村に戻るとするか」


 ダンジョン前から立ち去ろうとしたところで、草が揺れる音が聞こえてくる。


「な、何だ?」


 村の周辺――、始まりの村近くだと人を襲うのは魔物はオオカミ程度だと思うが……。

 ちょっと確認しておいた方がいいか?

 身の安全を考えると逃げるべきか?

 だが、村から近いことを考えると確認して危険だったら村長に報告する義務があるからな。

 近くに落ちている手ごろな石を手にして音の聞こえた方へと向かう。

 注意を払って近づくと、そこには緑色の髪をした少女が倒れていた。

 年齢は見た目からして女子高生――、17歳前後と言ったところだろう。


「――お、おい!」


 周囲を伺って近づいたあと、少女の肩を揺さぶる。

 何度か揺さぶると「――んっ……」と、可愛らしい声が少女の唇から聞こえてきた。


「……ええっと、ここは……」


 女の子座りした少女は、ボーッとした目で俺を見てくると、「ぱぱ」と、唐突に俺を見て話しかけてきた。

 俺はパパという年齢ではないんだが……。

 地球で死んだ年齢であるなら、子供が居てもおかしくないけど。


「えっと、君は? 名前は? どうして、ここで倒れていたんだ?」

「……わかんない」

「名前は?」

「ティア」

「ティアちゃんか。どうして、こんなところで倒れていたんだ?」


 俺の問いかけに、腰まで伸ばした緑色の髪を左右に振りながら「わかんない」と、答えてきた。


「どうしよう……。悪意は感じられないんだよな」

「寒い……」

「あっ。すまない。――と、とりあえず俺の家に来るか?」

「うん! いくっ!」


 子供みたいなしゃべり方をする少女を森の中に放置していくわけにはいかないからな。

それに村で見たことないし。


「それじゃいくか」

「うん」



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