二箱目 悪いけど、いきなりボス戦カミ
五章 学級委員とクラスの女神
【用語】
「絶ッ対に出るんじゃねーぞ。出たらコロす」
炎はぬいぐるみをスポーツバッグに詰め、フシューと蒸気を吐いて
「赤鼻ってば照れちゃってえ。実はオデを大好きで、一緒に学校に連れていきたいと思ってたカミよね。素直になればいいのに。一緒に戦闘した仲カミ。喜んでカバンの中に詰められようじゃないか。デュフフ、デュフフフ」
「っせー!」
ボガッ!
次の日の朝。炎はいつものように
違うのは、バッグの中にぬいぐるみがいること。
よく
それもこれも、シンタクラスにならない条件に、カミゴンの要望をしぶしぶ
あれから、炎とカミゴンはしばらく言い争った。
炎が
「ハァ……。ヤンキー気取ってるこの俺が、カバンに〝
「多様性の時代カミよ。ぬいぐるみで
ファスナーを閉めたバッグの中で、カミゴンがくぐもった声を出した。
「静かにしてろって、言ったろーが!」
「あらあら、どうしたの? 動物の鳴き声がした気がするんだけど……。
「えっ、あっ、その、気のせいだ。じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃーい」
母親の見送りから逃れるように、炎は急いで家を出ていった。降りしきる雪に傘をさして、国道沿いの歩道を進む。
国道沿いの町並みは、今日も変わらなかった。
コンビニから始まり、右手に銀行、左手に洋食のチェーンストア。それを過ぎると最初の信号。
交通安全とか、デイライトをと書かれた警察署を通り過ぎ、歯科クリニックと保育園が続く。
スーツ姿の母親が子を連れ、お願いしますと登園していた。
一連の景色を過ぎると、ようやく広尾高校の校舎が見えてきた。
「遅刻は許さん!」
校門前に立ちたるは、生徒指導『鬼の
「よう、塚本ちん。突っ立ってるだけだと、雪だるまになるぜ」
「またお前か……」
炎の言葉に塚本は肩を落とした。
「いい加減、余裕ある登校を心がけろ!」「チャイムが鳴ってないだけ、マシってモンだぜ!」
炎が塚本の腕をするっと
――キーンコーン……
「やべっ」
炎は全力疾走に切り替えて教室へ向かうのだった。塚本は彼の背中に向けて、
「それから、
✦ ✦ ✦
「――というわけで、来週は特別学習です。海岸線のゴミ拾い、福祉施設の訪問などの中から、二年三組が務めるのは、保育園のお手伝いです」
「えー」
学級委員の女子生徒が黒板の前で説明をはじめると、クラスの男子からブーイングが起こった。
明らかに面倒くさそうな顔をしている。
「皆さん静かにしてください」
細長メガネが彼らに注意した。
「サンタクロースの人形は手芸部が準備してくれたんです。皆さんはメッセージカードを書くだけですよ。簡単ですから、明日までにやってきてください。質問のある人は?」
彼の名前は
朝から遅刻ギリギリの炎だったが、なんとか朝のホームルームに
「それじゃお前ら、カードの内容まとめとくようにな」
担任が一言
広尾高校の特別学習は、毎年ボランティア活動と決まっていた。クラスそれぞれに目標が決められ、全員何かしらの形で活動に加わらないといけない。
今年は吉か凶か、特別学習にまでクリスマスイベントが
「カードの作成か……」
炎は、いよいよフラストレーションを抑えられなかった。配られた花模様のポストカード。
シャーペンを二度回転させるも、クリスマスが苦手な炎に、上品な言葉が思いつくはずもない。
席が
前席の女子生徒は、クラスの女神、
長い黒髪が照明で、
紺のセーラー服に赤リボン。小柄で、左目の泣きボクロが可愛らしい。
彼女はきれいな字で『メリークリスマス! サンタさんたのしみだね!』と書いていた。
動物の絵も入れ、愛らしいカードが出来上がりそうだ。
ほかの生徒も
「クリスマスカードカミか、赤鼻の高校は
カードをスポーツバッグにしまおうとファスナーを開けた時、中から小声が聞こえてきた。
「てんめえ、三秒とも静かにできないタイプだな?」
バッグの隅で、弁当の具のように
カミゴンは気にする
「クリスマスカードを難しく考える必要はないカミ。クリスマスやサンタを受け付けないなら、そう書けばいいカミ」
「どういうことだよ」
「そもそも『クリスマス』とは、歴史上の人物名が
カミゴンはムクッと起き上がると、目にもとまらぬ速さで窓際へ移る。
「赤鼻の高校は、グラウンドも体育館も広いカミね」「こら、動くなって、バレるだろうが!」
「ちょっとくらいイイカミよ。誰も見てないし、見られても生徒の私物だと思われるのがオチカミ」と雪乃の背を指さす。
カミゴンは小声のまま続けた。
「だから、自分が書きたいように書くカミ。保育園のちびっ子たちへの文章カミよね? 当時の自分は何が嬉しかったか、よく思い出せば、言葉なんて自然と出てくるんじゃないか?」
当時の自分。
炎は
何に心を
紙芝居、歌、プレゼント交換、大人たちの演劇。
(そっか。俺は、ヒーロー劇が一番ワクワクしたんだな)
炎は意を決したように、カードに
できあがったクリスマスカード。そこにはこう書かれていた。
『ガキども、劇だけは見ろ』
「なかなか、いいんじゃないカミか?」「黙りやがれ」
炎は、評論家のように頷くカミゴンの首根っこを掴み、再びスポーツバッグの底に押し付けるのであった。
✦ ✦ ✦
ホームルームが終わるとルーティンだ。
金曜日は一限目が現代文、二限目が数学Ⅱ、三限目は担任
「――であるから、
炎は
「起立、礼!」「ありがとうございました!」
世界史が終わると、四限目の体育が始まる。
「いよっしゃあ!」
うつらうつらとした炎だったが、水を得た魚のように、体操服に着替えて体育館へ向かう。
種目はバスケ。
シューズが床を鳴らす中、炎は一七八センチの長身を
「炎ってガチで
「知ってるか、アイツ剣道で全道二位なんだぜ」
「マジ……?」
男子二人が
拓巳の運動神経は月並みだが、いかんせん、体力がなかった。
「ほーれ、メガネぇ。奪ってみろよお」
「炎君、こんなところで、日ごろの
バスケットボールを抱えた炎は、
その後、〝鬼の
二人の様子を、教室から眺めている生き物がいた。カミゴンだ。彼は
「塚本とかいう体育教師はバカカミ。炎は不器用なだけカミよ。拓巳が一人で
ピョンと窓から飛び降り、スポーツバッグの中からメモ用紙を取り出した。
「とりあえず、炎は決定でいいカミ。あとは、赤鼻のサポート役を誰にするかカミね……」
✦ ✦ ✦
「今日は二日だから、出席番号二二番の矢崎炎。答えてみなさい」
長い昼休みを無事に終え、炎とクラスメートは、本日五つ目の授業を受ける。
炎は理科教師から質問を受け、立ち上がって教科書を
(周期表から何が
「えーっと、スイカの種みたいッス」
なかなかの返しだと思った。
が、クラスがクスクスと笑っているだけで、教師の
「スイカじゃないッスね。……そう、メロンッスよ。高級なヤツ!」
「なるほどメロンか。矢崎、この授業を農業実習だと思っているなら、今すぐグラウンドに行って、野草に水を
三浦の返事が一枚
笑われた炎は、舌打ち。
(早く放課後になんねーかな)
彼は授業より剣道の部活が好きだった。机にいつも立てかけている
そんな平凡な五限目の最中に、
――ズドゥオォォオオ!
〝それ〟は出現した。
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