第3話 恐井さんはヒーロー?

 ここだけの話。

 実は恐井さんは昔、人類滅亡の危機を阻止したことがあるんだって。


 それはまだ、ぼくが生まれる前のこと。

 西暦1999年の7月、空から恐怖の大王っていうのが人類を滅亡させるために、地球にやってきたのだという。


 で、その恐怖の大王が降り立ったのが、今ぼくの住んでる町。

 そして最初に遭遇した人類が、たまたま散歩していた恐井さんだったんだって。

 それで、その恐怖の大王が、恐井さんを見た瞬間──


「うぎゃああああああああああああああああっ!!!!!!」


 恐怖の大王の悲鳴が、町中に響いたそうだ。

 それを聞いた町の人は

「なんだ? また誰かが、恐井さんを見たのか?」

「それにしても、今日の悲鳴はやけに大きいな」

 ってな反応。

 恐井さんは、その頃から恐井さんだったんだ。


 けど当時の町の人達は、大切なことを忘れていた。

 ぼくもそうだけど、この町に住んでる人はみんな、恐井さんに慣れている。

 といっても、やっぱり顔を見ると悲鳴を上げたり気絶したりするけど、それでも慣れているからまだその程度ですんでいるんだ。


 恐井さんに免疫のない、外から来た人が恐井さんを見たらどうなるか。

 そう、恐怖の大王は恐井さんの顔を見て、ショック死しちゃったのだ。


 情けないなんて思ってはいけない。だってあの恐井さんだよ。

 免疫のない人が見たら、そりゃあショック死くらいしちゃうって。


 とにかくこうして恐怖の大王は少しの被害を出すこともなく、恐井さんによって撃退された。

 といっても、恐井さんはただ散歩してただけなんだけどね。


 だから恐井さんは、人類を救った救世主。

 その時はみんな心から、恐井さんに感謝したそうだ。

 ……やっぱり恐いから、誰一人恐井さんの顔は直視できなかったみたいだけどね。



 つづく

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