最終話 恐井さんショック!
ある日ぼくの町に、カメラを持ったテレビ局のスタッフ達がやってきた。
有名なタレントさんもいて、なんでも生放送の町ぶらロケをするのだという。
タレントさんが商店街をぶらぶら歩きながら食レポをして、それをテレビカメラが撮る。
この様子を今、日本中の人が見てるわけだから、なんだか不思議な気分だなあ。
タレントさんはお肉屋さんで買ったコロッケを食べながら、慣れた感じでリポートしていたけど……。
「それじゃあ今度は町の人に、おすすめのお店がないか聞いてみます。お、あの人なんてよさそう……」
タレントさんはそう言って、後ろ姿の男の人に近づいていく。
「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」
「んん?」
肩を叩かれた男の人が、振り返った瞬間……。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああっ!」
タレントさんの悲鳴が、商店街中に響いた。
もうお分かりだろう。タレントさんが声をかけたのは、恐井さんだったんだ。
なんの心の準備もなく振り返った恐井さんを見たんだから、その恐怖はどれほどのものだったか。
もちろんそれは、タレントさんに限ったことじゃない。
テレビスタッフも、次々と恐怖の悲鳴を上げていく。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ひぃっ!」
「あぶぎゃばばばぐがぁーっ!?」
あーあ、全員倒れちゃった。
さっきまでの和やかなリポート風景から一転、まるで地獄絵図だよ。
もっとも、この町では割と見慣れた光景ではあるんだけどね。
だけど、今日はやけに倒れてる時間が長い。
テレビスタッフはみんな一言も発さずに、倒れたままピクリとも動かないや。
すると恐井さんは倒れてるタレントさんの胸に、耳を当てた。
「これはマズイ。心臓が止まっています」
「ええっ!?」
「本当だ。こっちのスタッフも、みんな死んでる!」
なんということだろう。
ぼくたちはすっかり忘れていた。
この町の住人は恐井さんを見て腰を抜かしたり気絶したりするけど、免疫があるからその程度ですんでいる。
だけど免疫のない人が、いきなり恐井さんを見たら?
かつて恐井さんが撃退した恐怖の大王と、同じ運命をたどるに決まっているじゃないか、
って、あれ? ちょっと待って。
この番組、たしか生放送だって言ってなかったっけ?
──その頃、日本中の病院では。
「はい○○病院……え、テレビを見てたら心臓発作を起こした?」
「こっちでも心臓発作だ。どうなってんだ」
「院長大変です。談話室でお昼のテレビを見ていた患者さんたちが……」
鳴り続ける電話。
渋滞する救急車。
病院に運び困れても、手が足りなかったり手遅れだったり。
後この事件は、『恐井さんショック』と呼ばれるようになった。
それ以来恐井さんはみんなを恐がらせないようにと、外を出歩くときは某ホラー映画の、鉈を持った殺人鬼が付けてるホッケーマスクを着用することにしたみたい。
ホッケーマスクも不気味と言えば不気味だけど、恐井さんの素顔に比べたらなんでもないものね。
けど、できればもうちょっと早く、そうしてほしかったなあ。
日本を恐怖のどん底に叩き落とした、『恐井さんショック』の日。
日本の人口は、大きく減ってしまったのだから。
オ・シ・マ・イ・!
こわ~い恐井さん 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi
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