第27話 戦わずして咲く者たち――交差する夢と証明

音楽が流れ続ける街。

《Twilight Beat》が展開される異世界の町ラリュアには、今や人間・魔族・モンスターが混在していた。


ステージは多様性の象徴となり、その裏で、それぞれの“夢”が静かに息づいていた。


 


――その日、クロノとプロデューサーの瑠璃子は、三つの新ユニットのリハーサル視察に赴いていた。


 



 


最初に向かったのは、《Floral Hazard》。

廃墟に咲く花のように、静かで艶やかな香りが漂うユニットだ。


ステージでは、リーダーのアルラウネ・シメイアが蔓を絡ませ、足元に色鮮やかな花を咲かせていた。


「この歌、誰かの記憶に残ると思う? たとえ一瞬でも、あたしを“きれいだ”って思ってもらえる?」


彼女は囁くように言いながら、ダンスではなく、“花の所作”だけで観客の視線を釘付けにしていた。


隣で軽くウィンクを送ったのは、毒舌担当のエキドナ・ヴェレーナ。


「“人間は怖いものが好き”って言うでしょ? あたしたち、見事にその枠じゃない?」


その言葉に、無口なドライアド・ノエルが微笑む。


「怖くても、優しくなれることを……ステージで証明できるかもしれない」


舞台袖では、糸を操るアラクネ・ラミアがライトを絡めた演出準備を進めていた。


そして、メジェリーヌ・セレシュは“湿った音”とともに舞台に流れる調を作り上げていた。


クロノはその演出に目を細める。


「いいね。どこか静かだけど、強い“生きる意志”を感じる。殺される側だった彼女たちが……こんなにも美しく主張してるなんて」


瑠璃子は無言で頷いた。


 



次に訪れたのは、夜の誘惑を纏った《Midnight Vice》。


控室では、サキュバスのエリュシアが鏡の前でリップグロスを引いていた。


「昔の私? ただの夢売りよ。男をたぶらかして、心の隙間に入り込むだけ」


だが、今は違う。


「……ステージの上では、“本物の夢”を見せたい。ちゃんと惚れて、ちゃんと幻滅して、最後に残る“何か”を感じてほしいの」


隣のダークエルフ・ネイラは、鋭い眼差しでステージのリハ映像をチェックしていた。


「社会から排除された者が、自分の手で世界を揺らす。あたしの生き方、間違ってないよね?」


ネクロマンサー・ヴァルミナは、死者のマリオネットを動かしながらボソリと呟いた。


「骨は……何も言わない。でも、観客は、叫んでくれる。なら……ステージに立つ理由、あるよね」


背後で、ゾンビ娘・リヴィが小さく笑う。


「ステージの上だけは、“死んでない私”になれるんだよ」


そしてオーガ娘・グルナは、ステージ下で爆音とともに足踏みの演出を試していた。


「みんなの体に“ドン!”って響く音、届けたいの!」


クロノはメモを取りながら言った。


「彼女たち……どれも“夜に拒絶された者たち”の連帯だね。けれど、今の彼女たちは光を自分の手で掴もうとしてる」


 



最後に訪れたのは、《Mighty♥Beats》。


農業村出身の彼女たちは、笑顔とパワーで観客を圧倒する正統派パフォーマンスを磨いていた。


ぽっちゃりオーク娘・モモは、緊張しながら歌詞カードを確認している。


「お客さん、あたしの踊り、見てくれるかな……?」


ミノタウロス娘・ベアナは豪快に肩を叩いた。


「気にすんな! あたしたちは“でっかく咲く”ためにここにいるんだ!」


ホルスタイン娘・ミルシアは牛柄の衣装にリボンをつけ、笑顔でポーズ。


「グッズ、完売したいなぁ~! ふふ、みんなに“推される”日を夢見てたの!」


オオカミ娘・ルゥは、空を見上げて吠える。


「この声が、“次の夜明け”になればいいと思ってる」


リザードマン娘・カグラはストイックな表情で剣を模したマイクを握った。


「今までの人生、力でしか認められなかった。でも、今は“声”で認められたい」


クロノと瑠璃子は見つめ合い、無言で頷いた。


「――このステージ、必ず届く」


 



 


視察を終えた頃。

クロノの魔導通信端末が小さく震えた。


(……セレナフィア、救出完了)


通信を送ったのは、アウレルだった。


場所は、天界を抜けた高空の聖域。


「これで……リリスの元に、行けるね」


ミリュエルが笑う。


「リリスに歌、教えてもらうんだ。あたしも、あたしなりに“歌いたいこと”があるから」


アウレルの羽根が、ほんの少し――薄く、色を失っていた。

それは、堕天の兆し。


「私は……たとえ天使でいられなくても、リリスの隣にいたい。光も闇も、歌で包みたい」


その言葉は、すでに彼女たちが“トリニティ∞リリー”というユニットの誕生を予感している証だった。


 


――夢が繋がり始めていた。

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