第18話 《Mighty♥Beats》──“力こそパフォーマンス”の農業系アイドルたち!

――ここは、ガルデン高原。


山々に囲まれた肥沃な土地に広がる農村地帯で、人間とモンスターが共に暮らす平和な集落だ。


 


その一角に、汗を流しながら畑を耕す少女たちの姿があった。


畑に響くのは――笑い声と、筋肉の音。


 


「よぉーし! じゃがいも掘りターイムッ! 3分で畝2列いけるか勝負よ!!」


 


空へ向かって鍬を構えたのは、ミノタウロス娘のルファ・グランホーン。

引き締まった腹筋、盛り上がる大腿筋、そして跳ねるようなフットワーク。


揺れる胸もあいまって、村の青年たちには「見惚れタイム」と呼ばれている。


 


「ルファちゃん、いっつも競技会みたいなんだよねぇ~♪」

のんびり声をかけるのは、ぽっちゃり愛嬌枠のオーク娘、モモ・トントロ。


汗をかいたつなぎの下、豊満な胸が目を引く。

腰に巻いたタオルと麦わら帽子がトレードマークだ。


 


「でもさあ、わたしらが農業で鍛えた筋肉って、本気出したらステージ映えすると思わない?」


 


「同感」

低く鋭い声が響く。リザードマン娘のカリア・スケイルブレイドだ。


スレンダーな体つきに浮き上がる精密な筋肉。

しなやかな動きの中に“武道的”な美しさが宿る。


 


「舞台という“戦場”で、私たちのリズムは……伝説になる」


 


「カリアちゃん、台詞がいちいちカッコいいけど怖いよ~」

くすくす笑うのはオオカミ娘のフェリナ・ループ。


ワイルドな毛並みを編み込んだ三つ編みに、鋭い犬歯と筋肉質なボディ。


迫力ボイスと本気の咆哮で、野外ステージの音響スタッフに戦慄を与えたこともある。


 


「でも……やるなら、楽しく吠えようぜ♪ ステージを、狩り場にするくらいの気合でさッ!」


 


「みんなぁ~、ちょっとひとやすみしよ~。わたし、ミルク冷やしてきたよぉ~♪」


 


ふわりと登場したのは、ホルスタイン娘のミルファ・モーモ。

揺れる巨乳と艶やかな白黒ビキニ、牛柄のマントが彼女の定番コーデ。


色気たっぷりな見た目だが、喋り方と性格はほんわか癒し系。


 


「……あたし、ステージでミルクシャワーとかしてもいいかな?」


「おい、衣装が……!」


「ダメじゃないけど、ファンサ強すぎ!!」


 


全員が噴き出して笑う。


どこか田舎臭くて、どこか泥臭くて、でも、最高に温かい。


 


そんな彼女たちが、偶然手にした一枚の紙。


──《Twilight Beat》 ポスター。


 


「わたしたちも、これ……出てみる?」

モモがそっと呟いた。


「戦うより、歌うってさ。なんか、ステキじゃない?」


 


「どうせなら、力技で観客を虜にしてやろうぜ!」

ルファが鍬を構えたままガッツポーズ。


「咆哮で幕開け、ミルクでフィニッシュ、どうだ!?」


「そのライブ、酪農フェスにならない?」


 


だが、誰も“無理”とは言わなかった。

むしろ、心が高鳴っていた。


 


「私たちの筋肉は、誰かを守るためだけじゃない。

誰かを笑顔にするためにあるんだって、思いたいんだ」


 


その言葉に、皆がゆっくりと頷いた。


それは、農場で鍛えた筋肉たちが、初めて“観客”に向かう覚悟の瞬間だった。


 


「ユニット名は……『Mighty♥Beatsマイティー・ビーツ』だ!!」


 


「“マイティ”で“ビーツ”!? ダジャレ??」


 


「違うもん! 力強いビートだもん!」


 


笑いながら、彼女たちは畑から空を見上げた。


 


そこに見えたのは、“戦場”ではなく、“ステージ”だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る