第27章「誠、協調の果てに問うもの」
朝の縁宮。
誠は、簀戸を開け放ち、風の通り道を整えていた。
「……やっぱり、縁ってのは“通す”もんだな」
そこに現れたのは、健太と向葵。
「誠さん、少しいいですか。再契制度の“全町連携モデル”の件で――」
「ああ、それな。各地の縁案内人との連携確認は済ませた。あとは意思確認と、申請窓口の“分割協調”だな」
「さすが、早い……」
向葵が呆れ混じりの声を出す。
「でも、誠さんって“自分の話”は全然しないよね?」
「俺か?」
「そう。“誰かと協力して何かを達成する”ってことを自然にやってるけど、それって“誠さんの願い”ってこと?」
その問いに、誠はふっと目を細めた。
「……正直、分からないな。“みんなが上手くいくように”って動いてきたけど、それが“俺自身の望み”だったかどうかは……考えたこともなかったかもしれない」
「じゃあさ」
健太が真剣な眼差しで言う。
「もし、“誰かのために”動くのを一度やめて、自分のために何か選ぶとしたら、何をする?」
誠は言葉を飲み込んだ。
それは、これまで一度も正面から考えたことのない問いだった。
その夜、誠はひとり、縁庭に佇んでいた。
灯籠に照らされる池の水面を見つめながら、自問する。
(俺の“本当の願い”って、なんだ……?)
(誰かを助けるのは、好きだ。
でも、“誰かのためだけ”に動いてきたせいで――)
ふいに、背中に声が落ちた。
「誠くんって、優しいけど……自分をそこに入れるの、苦手でしょ?」
振り返れば、実咲がいた。
「……そうかもしれないな。教えてやるのは得意だが、自分の気持ちは……教えられない」
「でも、それってね、誠くんが“誰かの中にちゃんといたい”って思ってるからだと思うよ。
“自分が傷ついても、誰かの中に役立っていたい”って」
誠は、目を伏せる。
「実咲。お前は、どうしてそんなに他人に教えられる?」
「簡単だよ。“私が、教えてもらったから”。誰かが“教えてくれた”から、私は今がある。それを、“返したい”だけ」
その言葉に、誠の中で何かが静かに落ちた。
(俺も、ずっと“返していた”んだ。
誰かがくれた優しさ、配慮、信頼……。
それを、形にして返すことが、“俺の在り方”だった)
(でも今――)
(“誰かと一緒に願う”ことが、したい)
翌朝。
誠は申請した。
「再契制度“意志協調型”運用モデル試案」提出。
“自己と他者の共通項”を軸に再契を望む者の支援枠設立。
「協力」の中にある“共願性”を明文化したい。
彼の目は、まっすぐだった。
“共に”あることは、“誰かのために”ではなく――
“共に願うために”あるのだと。
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