第8話


 手芸クラブ。松茸牛。ロックゼブラ。ボルトゼブラ。様々なモンスターが現れてはセツナ達が瞬殺していく光景が繰り返されていく。


:流石に飽きたな

:特級と特級レベル二人ならこんなものだろう【神の眼】

:セツナ様が時を止めて、クロト君が崩天獄雷の武器でぶち抜くだけだしな


 単純作業ゆえに、リスナー達も興味を失いつつあった。既に彼女たちが恋人である事が嘘なのはバレており、配信から離れる者も多い。

 それでも推しクロト異性セツナと腕を組んでいる光景に憤慨し、この後間違いが起きない様に見張っている過激なリスナーは残留している。


「……?」

「手慣れている? 何がだ?」


 粗方リスナーからの質問に答え、コメントが落ち着いた頃を見計らってクロトが尋ねる。

 少し疑問に思っていたらしい。

 今回のダンジョン攻略でもそうだが、以前不死王ノスフェラトゥと戦いにおいて最もクロトとの動きに合わせるのに慣れていた様子だった。


 故に、思う。以前誰かと一緒に行動していたのではないか、と。


「……」


:え? マジ?

:仲間が居たのか?

:でもそんな風には見えないけど

:そもそも特級って全員ぼっちの筈


 リスナー達は困惑した。何故なら、特級に仲間が居るという考え自体を持っていないから。

 そもそも特級指定を受ける者は総じて、単独で人類の総戦力を上回っていると判断された個人である。その際に、当然背後関係を洗うのだが、少なくともギルドや国は特級たちに協力している団体や組織の存在を特定できていない。


 火ノ神カグラは、千火桜嵐と関係あるのでは? と疑っているが確証がない。


「そうだな。かつて、私の隣に立つ者が居た」

「……」


 クロトは驚く。ここまで天上天下唯我独尊を地で行くセツナに着いて行けていた人間が居たのか、と。


「貴様、喧嘩売っているのか?」


 ミシミシと掴まれている腕が悲鳴を上げる。

 いててて、とクロトは軽く痛みを訴えるが、熊でも悲鳴を上げて逃げ出す握力と言えばどのくらいの力が込められているのかが伺えるだろう。

 まぁ良い、とセツナはため息を吐き……昔を思い出し語り出す。


「――バカな女が居た」


 セツナは語る。


 魔力に覚醒し、ダンジョン探索者になった女が居た。その者は「これで兄弟の生活費を稼ぐことができる!」と喜び、幼馴染の女を巻き込んでダンジョンに潜り、数多の財宝やモンスターの素材を手に入れ、巨万の富を得た。


 それで冗長してしまったのだろう。十分な生活費を得たのに、それ以上の富を、名声を、力を求めてしまった。


 その結果――取り返しのつかない事が起きてしまい、以来セツナは独りでダンジョンを全て消す決意をした。


「人は最期は独りになる。私はそのバカな女を愚かだと思う。自業自得だと思う。当然の報いを受けたと思う。だが、忘れるつもりは一切ない」

「……」

「寂しい、か……さぁな。そんな事考えてもいなかったよ」


:特級になる前の話かな?

:仲間の所為で人生滅茶苦茶になったのかな?

:それで特級に?

:迷惑な話だ


 端的に会話を聞いたリスナー達はあまり理解していないが、クロトは何となくセツナの経歴を理解していた。己もまた、ダンジョン探索者として何度も潜り、財宝を手に入れ、名声を勝ち取り、力を得た人間で――最後は世界に裏切られた。


 だから、セツナが至った答えに共感と理解を示しつつも……果たして最後まで貫く事ができるのか、疑問だった。


 しかし、クロトはそれを口にしない。自分が問い掛けるのは狡いと思ったから。


「さて、ボス部屋だ。此処のボスモンスターが、今回の貴様の目的なのだろう?」


:確かここのモンスターってセブンズ・スネークだっけ?

:そうそう。肉の味や柔らかさが七段階に変わって面白くて美味しい蛇だ

:あと骨や皮も素材になる。加工したアクセサリーが凄く綺麗

:クロト君の推しが欲しがっているんだっけ? 

:プレゼントされるその推しが妬ましい【神の眼】


 セツナの問いに頷いて肯定するクロト。

 汐しおが遊んでいたゲームで出て来たアクセサリーが七色の輝く特徴があり「え、ちょっと見てみたい」と何となく呟いた一言で、クロトは今回このダンジョンを選んだ。

 事の顛末を詳細に聞いた場合、セツナはキレるだろう。

 そんな事露知らず、二人は扉を開いてボス部屋に入る。中の内装は何処かの神殿の様で、幾つかの柱が立てられている。

 セツナ達が入って来たのを察知したのか、部屋の中を這いずり回る音が辺りで響き渡り。


「シャアアアアアアアア!!」


 柱に巻き付きながらこちらに向かって威嚇する蛇の頭が七つ現れた。胴体部分は暗闇の奥にあり見えない。


:こわ

:でか

:おれ蛇苦手だからちびった

:流石S級。出て来るモンスターが桁違い


 迫力ある光景にリスナー達は恐れおののく。


「……」

「うるさい蛇だな」


 しかし、この二人には当て嵌らない。

 依然として腕を組んでいる彼女たちは、セブンズ・スネークの威嚇に恐怖の感情抱く所か、鳴き声に対して顔を顰める程度だった。


「さっさと終わらせよう」


 セツナはその一言と共に己の能力を発動させる。


 瞬間、彼女以外の時が止まった。セブンズ・スネークは突如動かなくなった体に戸惑いを見せるが、顔を動かす事も声を出す事も出来ない。

 何が起きたのか? それを理解することなくこの蛇の一生は此処で終わる。


召喚サモンエンド・オブ・ザ・ワールド終わる世界


 ノアの補助で黒記燔濫こっきはんらんの力が行使され、クロトの左手にセツナの槍が現れる。それにより、彼もまた彼女の世界に入門。そのまま体を動かし、蛇を終わらせる為の武器を反対の手に顕現させる。


召喚サモン・ゼウスコード』


 腕輪が装着され、そこから雷の鎖が伸び彼の腕が覆われる。

 そのまま腕を引き絞り、まるでピストルの様に拳を解き放てば、鎖は雷速で駆け巡り――時が戻ると同時に、蛇の頭七つ全てが撃ち抜かれる。


「かっ……!?」


:本来、この蛇は全ての頭を潰さないと殺せないんだよな

:しかも再生するから、効率性を求められる

:しかも鱗が固く、魔法耐性あるから普通なら苦労する

:でも時止めと雷速の鎖なら一瞬です。皆さん是非試してみてください

:誰ができんだよ


 ズシン! と重い音が七つ響き、絶命したセブンズ・スネークが倒れ伏す。

 S級モンスターが一瞬で処理されたその光景に、リスナー達は見慣れたと思いつつもこの二人が出来た事だと、異常である事を再確認する。そうでもしないと認識がおかしくなりそうだから。


「……」

「ふん。何が良いのか分からんな」


 ようやく腕を組むのを辞めて、剥ぎ取りに向かうクロト。その背中を見るセツナの目は冷ややかな物だった。彼女はダンジョンから得られる財産に対して、価値を全く見出していない様だった。

 その推しも成金趣味か何かか? と尋ねようとして、以前の失敗を思い出して黙り込むセツナ。此処で怒らせたら面倒だと感じたのだろう。


「――む」


 そんな時だ。異常な魔力を感じたのは。

 クロトも察知したみたいだが、問題ないと思ったのか素材の剥ぎ取りに専念する。

 その姿にセツナは呆れてため息を吐き――振り返りざまに、猛吹雪を発生させる槍の一撃を振るう。


:うわ!?

:なんだいきなり!?


 その姿を偶然ノアが映し込んでいた結果、セツナの突然の行動にリスナー達が驚く。

 いきなりの奇行。とうとう本性を現したか?

 そう思ったが、セツナの突然の行動の理由はすぐに理解する事となる。


 猛吹雪を物ともせず、飛び出してきたのは黒い騎士甲冑を着込んだ女性だった。

 彼女は、己の身の丈以上の黒く染まった聖剣をセツナに叩き付ける。その一撃を受け止めたセツナの足元が陥没し、彼女は自分に向かって憎悪の視線を向ける女騎士に吠えた。


「女の嫉妬は見苦しいぞ、白銀ギンガ!」

「ヒムロォォォ……セツナァァァァァアアアア!!!」


:ギンガさん!?

:団長!?

:え、闇墜ち!?

:何してんの!?


 突然現れた白銀ギンガの姿にリスナー達は戸惑いのコメントを打ち込んでいく。

 その姿はまさに闇墜ちそのもので、これまでの誠実な騎士のイメージを守って来た白銀ギンガの根底を崩しかねない姿と行動だった。


 白銀ギンガは確かに特級を嫌っている。しかし、こんな不意打ちみたいな事はしていなかった。常に正々堂々と勝負を挑み、彼女たちの行動に苦言を叩き付け、そして毎回敗北してボロボロにされる。それが白銀ギンガという人間だった。


 しかし、今のギンガは獣だった。己の本能に従い、ただただ増長させられた憎悪に身を任せてセツナを殺そうとしている。


「……?」

「いらん。こいつの目的は私だ」


 手伝おうか? とクロトが訪ねるもセツナはひと蹴りした。


「それに……」


 何故ギンガがこうなってしまったのか。セツナは興味があった。

 このダンジョンに隠された力か。もしくはラストダンジョンが。もしくは別の外的要因か。それを調べるには、実際に戦うのが一番だ。


「遊んでやるよ白銀ギンガ。クロトが欲しいなら、私を倒してから手に入れるんだな」

「ヒムロオオオオオオ! セツナァアアアアアア!!」


 ――S級ダンジョン探索者と、特級ダンジョン探索者の戦いが始まる。

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