第2話

「確かに此処のボス【メタルドラゴン】の肉は絶品すね」


 槍使いの男性の言葉に朝霧は頷く。


「同種のモンスターが過去に別のダンジョンで目撃されていたな。その肉も当然市場に出されていた。私も食べた事があるが、確かに美味かった」

「隊長食べた事あるの? 良いなー」


 短剣使いの女性が羨ましそうに言う。


 クロトは白銀騎士団たちの反応から、このダンジョンを選んで良かったと喜ぶ。

 彼の推しが「食べてみたい」と言っていたので、彼はメタルドラゴンの肉を狩り、彼女に届けようとしていたのだ。


 その事をクロトが目を輝かせて言うと、朝霧たちは苦笑した。


「この人やばくない? 無理でしょ」

「だな。5年でE級って事は才能無いか、潜っていないかだよな」

「まぁそう言うなお前ら。今回は私たちが居る。ドラゴン肉も少し分けて挙げよう」


 魔法使い二人組が訝しげにそう言えば、朝霧が宥める様に言った。

 彼としては部下たちの経験が詰めればよく、クロトがA級ダンジョンを理解してくれれば良いと思っていた。


 昔から居るのだ。自分の等級を理解せず、もしくは納得せずに身の丈以上のダンジョンに潜ってしまう若者は。さらにクロトは探索する理由が自分ではなく他者にあるのがよろしくない。


 今回の探索で認識を改めてくれればな、と彼は思っていた。


「……?」

「あ、それっすか? それは配信用ドローンっスよ。朝霧さんはA級なので、配信義務があるんスよ」


 クロトはダンジョンに入ってから気になっていたドローンを指さして槍使いの男性に尋ねる。

 彼は快く答えてくれた。

 ダンジョン内での犯罪や横領が問題となり、今では一定以上のダンジョン探索者は配信を義務付けられている。特に素行の悪い者と難易度の高いダンジョン探索者がそれに該当し、A級以上の探索者は配信をしなければダンジョン探索ができない。

 尤も、副次効果でダンジョンに縁の無い者たちの娯楽となっており、今ではB級以下のダンジョン探索者でも配信を行う者は多い。


「しかし珍しいっスね。てっきりクロトさんは配信を主に活動していると思っていたっス」

「???」

「いや、何故って。そんなコテコテのニンジャの格好していればそう思いますって」


 クロトの格好は黒色の忍者姿だ。口元まで布で覆っており赤い瞳と相まってそこそこ完成度の高いコスプレを思い起こさせる。

 等級の低い探索者は、難易度の低いダンジョンにて己のビジュアルを活かして配信活動を行う者が居る。それもまた一つの才能だろう。


 対して白銀騎士団の面々は効率性を重視した格好をしている。魔法使い二人もファンタジーじみたものではなくプロテクターを付けている。


 ちなみにクロトが忍者姿なのは、推しを意識しているからである。


「雑談はそれまで」


 戦闘を歩いていた朝霧が固い声で指示を出す。途端、空気が変わった。

 ダンジョンの奥から勢いよくこちらに向かって駆けて来るモンスターが現れた。全身の表皮が鋼で覆われた狼――メタルウルフだ。


「グルオオオオオオ!!」

「ふん!」


 雄叫びを上げて噛み付きに来るメタルウルフの攻撃を、大きな盾で受け止める朝霧

 火花が散り、衝撃音がダンジョン内に響き渡る。


「せい!」

「はぁ!」


 その隙を突き、短剣使いがメタルウルフの前足を弾いて上体を浮かして、腹部に向かって槍使いが刺突攻撃を繰り出す。腹部の表皮も鋼でできているのだろう。ガキンっと音が響き、メタルウルフにダメージを与える事ができずに弾くのみとなった。


「アシッドボム!」


 そこに魔法使いが腐食効果のある液体を装備していた杖から解き放った。頭から被ったメタルウルフの全身がジュージューと音を立てて溶けていく。


「くぅおおおん!?」

「キュア!」


 そこに回復担当の魔法使いが、なんと敵であるメタルウルフに向かって回復呪文を使用。

 クロトは何しているんだ? と疑問に思うが、メタルウルフの表皮を見て理解した。

 メタルウルフの溶けた鋼の表皮が歪な形で固まって、その下の肉が見えている。どうやら自然回復する前に歪に回復させて、攻撃を通りやすくするのが目的の様だ。

 現に、前衛二人が前に出て、それぞれの武器を突き立てた。


「キャイン!」

「あ!?」

「逃げるな!」


 ダメージを負ったメタルウルフは思わず駆け出し、こちらに向かって駆け出す。

 それを見た朝霧はため息を吐き――一閃。メタルウルフは断末魔を上げる暇もなく、硬い鋼の表皮の上から両断された。

 朝霧は倒れ伏したメタルウルフに一瞥する間もなく、前衛二人に厳しい目線を向ける。


「何のための前衛だ。敵を取りこぼして後衛がピンチになっては意味が無いだろう」

「うっ……ごめんなさい」

「すみません……」


 次に朝霧は攻撃担当の魔法使いに視線を向ける。


「アシッドボムの選択は良かった。だが、もし余裕があれば鋼を溶かさない魔法も使ったら良いかもな。モンスターの素材はなるべく損傷なく確保したい。」

「はい」

「大槻。君の判断は正しかったな。状況判断、回復魔法の独自の使用。言う事なしだ。魔力管理も問題ないな?」

「はい。大丈夫です」


 満足げに頷いた後、最後にクロトを見る朝霧。


「クロトくん。君に怪我は負わせないから安心して欲しい。そして彼らの行動を見て学ぶなり、反面教師にしてくれ」

「ちょ、それは酷いですよ朝霧さん!」


 白銀騎士団のメンバーは快活に笑い合った後、再度ダンジョンの奥に向かう。

 クロトはそんな彼らに着いて行きながら思った。何を学べばいいのだろう、と。



 背後から近づいて来ていたメタルウルフ――否、そのイレギュラー種【ミラージュ・メタルウルフ】を人知れず退治しながらそう思った。

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