ラスボスヒロイン氾濫注意〜推しの一言でダンジョン攻略〜

カンさん

第一章 4人のラスボスと3Dお披露目ライブ

第1話


 異世界迷宮ダンジョンに通じる黒い渦状の入り口――ゲート。それが現れて数十年。ダンジョン内で取れる資源により、世界は文明を100年以上前へと進めた。

 ダンジョンの危険度を等級で分類し、それに伴いダンジョンを踏破する超人たち、探索者もまた等級を持って分類された。

 探索者たちは己の等級と同等のダンジョンを攻略、もしくはその上のダンジョンに挑戦し――誰もが目的を持って戦いに身を投じる。それがダンジョン探索者の世界。


 そして、此処にも一人ある目的を持ってダンジョンに入ろうとする探索者が居た。

 ゲート前に設立された簡易拠点にて受付嬢が受け取った探索者カードの確認を行う。


「影森クロトさん。探索者歴は今年で5年目ですね? 等級は……」


 そこまで言って彼女は言葉を詰まらせて眉を潜める。

 見間違いか? と思い再度確認するがそこに記された文字に偽りは無かった。


「等級は……E級最弱。あの、ダンジョン間違えていませんか?」


 人によっては失礼だと感じる彼女の言葉だが、これは親切心から来る言葉だった。

 何故なら此処に顕現しているゲートは、【鋼竜の遊び場】と呼ばれる未踏破のA級ダンジョンである。クロトがE級で、さらにはソロで挑もうとするその姿ははっきり言って自殺に等しい。


「……」

「え? どうしても潜りたい? そう言われましても」

「……」

「はい、仰る通りE級探索者がA級ダンジョンに入る事に自体に、法律的に問題はありません。あくまで推奨されているだけですが、流石に……」


 クロトと受付嬢が押し問答をしていると、それに気づいたのか複数人の男女が近づいてきた。


「どうした? 揉め事か?」

「あ、朝霧さん!」


 朝霧と呼ばれた男の存在に受付嬢はまるで救世主が現れたと言わんばかりに顔を輝かせる。

 銀色の騎士甲冑を着こんたこの中年の男性、朝霧はA級ダンジョン探索者である。彼はクラン【白銀騎士団】に所属する人間で、クラン内でもベテランエースとして主戦力として名高い人間だ。

 今日も同じクランの部下たちとダンジョンに訪れた所、クロトと受付嬢のやり取りに介入してきた次第。


 事情を聞いた朝霧は、受付嬢同様に難しい表情を浮かべる。しかし、どうもクロトの意志は固いようだ。このまま一人で行かせばE級の彼は死んでしまうだろう。


「ふむ。クロトくんと言ったか? 良ければ私たちと一緒に行くかい?」

「朝霧さん!?」

「このまま此処を追い出しても他のA級ダンジョンに潜るかもしれない。これも何かの縁だ。彼の事は我々が面倒を見よう。お前らも良いか?」


 朝霧が今回一緒に潜る探索者メンバーに尋ねると、快く引き受けた。朝霧への薫陶もあるのだろうが、自分たちも昔無茶をして怪我した経験があるからだろう。クロトへの理解もあった。


「しかし」

「何。一緒に潜ればA級ダンジョンの恐ろしさを目の当たりにできる。良い勉強になるだろう。それに、こういうやる気のある若者が次世代のエースになるのさ」


 その言葉に受付嬢は折れて朝霧に任せる事にした。

 一方クロトはよく分かっていなかった。とりあえず朝霧というこの男の近くに居ればダンジョンに潜れるらしい事は理解した。

 クロトはお礼を言い、自分の名を改めて名乗り手を差し出す。


「影森クロトくんだね。私は朝霧ツルギ。白銀騎士団の第4部隊の隊長を務めている」


 その後、朝霧は仲間を紹介した。攻撃魔法を使う女性。回復、防御魔法を使う男性。後は槍使いの男性と短剣使いの女性だった。朝霧はA級だが、他のメンバーはC級やB級とバラつきがある。

 今回は修練目的でもあるらしい。それでもE級のクロトの面倒を見れると朝霧は判断したようだ。むしろ非戦闘員を守りながら探索をする訓練を彼らにさせる目的もあるのかもしれない。


「それでクロトくん。君は何故そこまでA級ダンジョンに潜りたいんだい?」


 その問いかけにクロトが答えると、朝霧は呆然としながら復唱した。


「……え? 推しがドラゴン肉食べたいって言ったから獲りに来た?」


 影森クロト。E級ダンジョン探索者。彼がダンジョンに潜るのは何時だって――推しの一言だった。

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