第16話 空の門、その扉の前で

潮の街フェリスを抜け、春樹とリリィは北東の断崖地帯を目指していた。そこには、潮の門に続く第二の試練--”翠の門”が存在するという。


空は曇天。風が潮の匂いを含んで肌を撫でる中、ふたりは崖沿いの細道を慎重に進んでいた。背後には記録守・ミオルの言葉が今も残響している。


--「風は時に真実を隠し、時に導く。翠の門は、その境界を越える覚悟を示す」


「春樹さん……お気をつけください。この先、風が乱れています」


リリィが足を止め、指先に小さな風の魔法陣を浮かべる。彼女の長い銀髪が風に舞い、真剣な瞳が険しく細められる。


「視界が悪いな。あの谷の向こうに”門”があるって話だったけど……これ、本当に道合ってるか?」


春樹は短剣を腰に携え、用心深くあたりを見渡す。足元の岩が音を立てて崩れた瞬間--


「っ!!」


風がうなり、突如として渦をを巻いた。空から降り立ったのは、灰色の羽を持つ影装兵。仮面をつけたその者たちは、ネグレスの使いとして現れた。


「またかよ……こいつら、翠の門の前で待ち構えてたってわけか!」


春樹が短剣を抜き、リリィも風の魔法を展開する。谷間の細道が、一瞬にして戦場へと変わった。

影装兵たちは声を発さず、ただ任務を遂行するかのように襲いかかる。春樹の短剣が一体を切り裂き、リリィの風刃が別の一体を吹き飛ばす。だが、次々と現れるその数に、ふたりは後退を強いられる。


「数が多い……リリィ、下がれ!」


「いえ、ここで退けば翠の門は閉ざされたままです!」


リリィが強く叫ぶと、風が一層強く渦巻き始めた。彼女の周囲に現れた紋章が輝き、その中心に浮かび上がるのは--風の鍵。


「それは…!」


「春樹さん。これが、あなたの祖父が残した本当の意味。風の鍵が反応しています!」


春樹の目の前で、森の奥に翠に輝くの門が浮かび上がった。その門は風の刃によって守られているが、中央には鍵穴のような文様が光っている。


春樹は鍵を受け取り、短剣と共に前へ踏み出す。


「ここを越えないと、何も始まらない。リリィ、力を貸してくれ!」


「はい、春樹さん!」


ふたりの力が重なり、風の鍵が門に差し込まれた瞬間、大樹の葉が一斉に舞い、光の粒が降り注いだ。

風が泣き、大気が震える。やがて¥門が音もなく開き、その先に広がるは--


樹上に築かれた王国への導路。


それは旅の第二の幕開けであり、試練の始まりだった。

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じいちゃんの残した異世界日記 福宮アヤメ @gena_rosso

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