第3章:継がれし風、裂かれし記録
第14話 記録を焼く者
潮の香りが微かに漂う、潮の街エフェルの古い文書庫。
海風にさらされないように厳重に守られたその石造りの一室に、春樹とリリィは腰を下ろしていた。
「……これは、”宰官ネグレス”に関する最後の記録だと?」
古文書を丁寧に差し出してきたのは、フェリスの記録守代理--年老いた男性で、名前はミオル。風雅からの伝令で春樹たちを迎えてくれた記録守の一人だった。
「ネグレス……もともとは、”記録を司る者”の一人だった。しかし、”真実を記した記録”が、やがて”支配の道具”になると気づいてから、狂い始めたらしい」
リリィがそっと古文書を撫でた。そこには焦げ跡とともに、”抹消済”と朱で記された頁がある。
「……記録を否定し、世界そのものを書き換えようとしている……」
春樹はは短く息を呑んだ。
その目は、過去に祖父の日記から得た”言葉の重み”を思い返している。
場面は変わり、霧の中にある黒環の塔。
沈黙の円卓には、ひとりの男が座していた。宰官ネグレス--仮面を持たぬ男。だが、全ての影を従える存在。
燃える羊皮紙を眺めながら、ネグレスは囁く。
「記録とは、”嘘”の総称に過ぎぬ」
「民は、記された過去に従い、未来すら縛られる。ならば、全て消せばいい。”白紙の未来”だけが、唯一正しい秩序となる」
彼の傍らには、封印されたもう一つの書があった。
”風の記録”。それは星の台座の起動に関わる最後の鍵--記録守たちの最奥の記述。
ネグレスは静かにそれを指でなぞる。
そして、封を破る。
「継承者が”空の門”へと近づくなら……”深紅の鎖”を解放しよう。仮面をを被る理由は、過去を捨てるためだ。--記録など不要だ」
そして仮面の幹部たちが再び円卓に集う。
「空の門”ヴェリス”を抑えろ。記録が息をする限り、世界は我らの敵だ」
沈黙の円卓に、次の破壊の号令が落ちる。
そして、世界はまたひとつ”記録”を失おうとしていた--。
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