第13話 沈黙の円卓と揺らぐ均衡

白無垢の世界--そこは、記録すら残さぬ”空白”の空間。壁も天井もない。すべてが白で塗り潰された、沈黙の円卓。


円形に並べられた七つの椅子に、仮面の者たちが一人ずつ座っていた。その姿はまるで、記録からも存在を抹消された亡霊のよう。


筆頭導師サヴェルは、刻まれた封印紋を中央にあしらった仮面をつけている。記録狩人カルメリアは、多眼を模した仮面から冷ややかな視線を放つ。破壊執行人ゴルタロスは、裂けた笑みの意匠が施された鉄仮面。幻影師セリオットは、誰の姿も映す鏡面の仮面を。影術師ノイアスは、蜘蛛の巣のように編まれた黒糸の仮面を。沈黙の兵団長エルセアは、口元に鎖を巻いた仮面を。


彼ら六人が、沈黙の円卓に揃い、ただ一人、仮面を持たぬ者--宰官ネグレスを見つめていた。


「……空の門が動き始めた」


最初に口を開いたのはサヴェル。鋭く研がれた声音が、沈黙の空間に溶け込む。


「潮の門を通過した者がいる。以前話題に上がった”風の継承者”と、記録守の娘、”風の民の血を引く者”だ」


「……星の台座に近づく気か」


低く唸るような声はゴルタロスのもの。仮面の下で笑うような気配が漂う。


「ならば、第二の鎖を放つべきでしょう」


鏡面の仮面を被ったセリオットが囁く。


「今のうちに”白の虚実”を歪ませれば、彼らの信念も折れる」


「焦る必要はない」


静かに、だが全員を圧する声が響いた。


宰官ネグレス。仮面をつけぬ唯一の存在。だが、その言葉はすべてを支配する力を持っていた。


「世界の中心、リム・カテドラルは動かぬ。だが、門が三つ揃うその時……星の台座が起動する」


「それまでに、”記録”を断つ。継承の鎖を砕けば、風も動かぬ」


仮面の者たちは頷き、それぞれの思考を沈黙の内に交錯させる。


「次の行動は、幻影と封殺。それでよろしいか、宰官」


「許可する。仮面の記録狩人たちよ。空を汚せ」


その言葉と同時に、白の空間に仄かな影が揺らいだ。


次なる”災い”が、静かに世界へと送り出されようとしていた。



……そして、円卓の奥、誰もいないはずの白の影に、仮面がひとつ、ゆっくりとゆれていた。それは、記録されざる第七の影--アリスト=ヴァンのものであった。

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