第8話 噴水の子守唄
校舎裏の細い小径を進むと、そこには古びた噴水がひっそりと佇んでいた。
苔むした石組みからは時折、水がぽたぽたと滴り落ち、静かな音を奏でている。
その噴水は、長い間忘れ去られ、誰も近づく者はいなかった。
だがある日、突如として水が勢いよく噴き出し始めたのだ。
放課後の校庭に、不意に響き渡る不思議な子守唄のような歌声とともに。
「なに、あれ……?」
ユウトが噴水の方を見上げる。
その歌声は、まるで透明な水の中から聞こえてくるようで、耳に心地よいが、どこか不気味だった。
「まるで、誰かが泣きながら歌っているみたい……」
イロハも顔をしかめた。
その日の放課後、ユウトとイロハは噴水へ向かった。
周囲は薄暗く、鳥の鳴き声も消え、静寂が支配していた。
「水がこんなに出てるのは異常だよ。普段はほとんど出ないのに」
ユウトは噴水の水面を覗き込む。
すると、水面にぼんやりと子どもの顔が映り、またあの子守唄が聞こえてきた。
「ねえ、助けて……」
かすかな声にイロハは震えた。
「これは……また“影の魂”の仕業?」
彼女は小さく呟き、そっと手を水面に触れた。
すると、突如として水がざわめき、波紋が広がった。
ユウトは咄嗟にイロハの手を掴み、水から引き離した。
その瞬間、噴水の水が激しく跳ね、空気が冷たくなった。
「この噴水、ただの水場じゃない。何か封じられている……」
そう感じ取ったユウトは、昔の校舎の資料を調べることを決めた。
翌日、図書室で見つけたのは、学校ができたばかりの頃の記録だった。
そこには、噴水の由来と、かつてこの地で起きた悲しい出来事が書かれていた。
昔、この校舎裏の土地は小さな村の一部だった。
村の子どもたちは、この噴水のそばで遊び、笑い声を響かせていた。
だがある日、大雨による土砂崩れが村を襲い、数人の子どもが行方不明になった。
行方不明の子どもたちの霊が、噴水に取り憑いたと伝えられている。
特に一人の少女の声が、夜な夜なこの噴水から聞こえてくるという。
その少女こそが、かつて事故で命を落としたミユキと関連があるのかもしれない。
「子守唄は、その少女が歌い続けているんだ。助けを求めながら」
イロハは静かに言った。
「でも、私たちには何ができる?」
ユウトは噴水の水面を見つめながら答えた。
「この呪いを解く手掛かりを見つけるまで、ここから離れられない」
その晩、ユウトとイロハは校舎裏の噴水の前に座り込んだ。
子守唄は静かに流れ続ける。
「君たちの声、ちゃんと届いてるよ」
ユウトはそう呟き、手を差し伸べた。
水面に映る、ぼんやりとした子どもの顔が少しだけ微笑んだように見えた。
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