第7話 イロハの夢
夜が深くなると、イロハの心はざわついた。
眠りにつくたびに、同じ夢に囚われていた。
それは、薄暗い雨の夜。
激しく降り続く雨粒が窓を叩き、校舎の廊下は水浸しになっていた。
夢の中でイロハは廊下を歩いていた。
足元の水は冷たく、底知れぬ闇を湛えている。
「危ないから、ここから離れて……」
誰かの声が聞こえた。
だが振り向いても誰もいない。
そして、廊下の奥からかすかに少女の泣き声が聞こえた。
「助けて……助けて……」
イロハは声の方へ歩み寄った。
水たまりの中に映る自分の姿はゆらゆらと揺れ、歪んでいく。
その時、彼女の前に現れたのは、濡れた制服を着た少女だった。
「私……ここから出たい」
少女の瞳は悲しみと恐怖に満ちていた。
「あなたは誰?」イロハは問いかけた。
「名前は……ミユキ。昔、ここで事故に遭ったの」
ミユキの声は震え、空気が凍りつくようだった。
「その夜、私は校舎の屋上から落ちて、水に沈んだ。
でも、誰も私を助けてくれなかった。
私はここでずっと待っている……」
イロハの胸に冷たいものが流れた。
それは罪悪感にも似た感情だった。
「私……何かできる?」
ミユキは静かに首を振った。
「あなたには無理よ。だけど、忘れられた私を思い出してくれるだけで、救いになる」
夢の中でイロハは涙を流した。
目が覚めると、枕が濡れていた。
そして、その日から彼女は学校の屋上に足を運ぶようになった。
そこには、長い間忘れ去られてきた小さな祠があった。
イロハは祠の前で静かに祈った。
「ミユキ、私が忘れない。あなたを見守る」
その瞬間、風がそっと吹き、空から雨粒が落ちた。
雨は冷たかったが、どこか優しいものだった。
翌日、ユウトに夢のことを話した。
「事故のこと、調べてみよう。もしかしたら、何か手がかりがあるかもしれない」
二人は図書室で古い新聞記事を探し始めた。
調べていくうちに、数年前の屋上転落事故の記録を見つけた。
事故の被害者は、確かに「ミユキ」という名の少女だった。
しかし、事故は単なる不注意ではなかった。
不審な水漏れや校舎の老朽化が事故の一因として疑われていた。
「水が、あの事故を呼んだのかもしれない」
イロハは呟いた。
水と過去の因縁が、また一つ明らかになったのだ。
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