第2話 花嫁探し


「俺としては犯罪歴がなく国益になるような家系の出で優しい性格だったら誰でもいいんだけど……」


「ふむ。ではこの者はどうでしょう?」


「あそこは父親が胡散臭い」


「こちらの姫は?」


「母親がうっとうしい」


「では、ここの三男は?」


「……男も対象なのか?」


「Ωですから子も産めますし、外見は姫と見間違う美貌だと評判ですから問題ないと思われます」




言い忘れていたが、この世界では男女とは別にα、β、Ωの三種類の性別がある。


 αは王室に近い者が大半だが、稀に庶民β同士の間にも産まれるようだ。


 王室に近い者でΩに産まれる者もかなり稀ながら存在すると言われている。


 いずれにしてもΩの男性は、女性に近い外見を持ち、性格は穏やかな者が多く、子どもも産めるので王妃に選ばれてもまったく問題はない、というのが大臣の見解のようだ。


 他の国ではΩに対する差別があるようだが、この国ではあまりそういう風習がないのも大きい。


 とは言われても、日本人として22年間生きてきた記憶がある俺としては出来れば女性が良いのだが。




「……誰でもいいと言っていたわりには、時間がかかってますね」


「……うるせぇ」




幼馴染として結構長い付き合いがあるこの大臣にはつい口が悪くなる。


 今のように他に人がいない時には特にだ。


 結局山のようにあった資料の中には目ぼしい人物はいなかった。




「他に候補はいないのか?」


「一応、私が独断で外した者が少々おりますが……」




と、大臣が渋りながら出してきた手紙が十数通。


 そのうち、もっとも新しい手紙が二週間前に届いたものだった。


 それは国内の姫ではなく、コランバイン国というあまり聞きなれない国からのものだった。




「コランバイン国というと南のはずれにある国だったな」


「古くからある国で昔は大陸を代表する大国だったらしいですが、近年では国土は最盛期の十分の一ほどになっているらしいですね」


「あぁ。そんな小国が何故我が国と縁になりたいのか」


「貿易や資金援助が目的でしょう」


「貿易……とは言っても、あの国の唯一の名産である鉱物はうちの国でも充分採取できるから下手すると市場を荒らすだけになりかねないな」


「じゃあやめておきましょう」


「いや……とりあえず、保留にする」


「は!? なんで!?」




滅多に表情筋が動かない幼馴染が思わず素を出してしまうくらい仰天していた。


 確かに国益になりそうなものはない。




「コランバイン国といえば、最近あまりいい評判は聞きません。内政もかなり不安定でとても縁になって得するものはないと思われますが……」


「確かにコランバイン国は今内乱続きで国庫が空に近いとのうわさもある。この縁談を機に資金の援助を申し込んでくるのは間違いない」


「それならどうして……」


「コランバイン国にはガルラド遺跡がある」


「は?」


「ガルラド遺跡は世界でもっとも古い建築物だと言われている。是非ともその資料をみてみたい」


「これだから遺跡馬鹿は……」




大臣が頭を抱えた。




「それに南側の国との外交はあまり盛んではない。これを機に向こうの遺跡……じゃなくて交流を深めるのも国益を増やすことになるかと」


「……肝心の姫はどうなのですか?」


「姫ではなく、Ωの男性らしいな」


「男性はあまり好みではないのでは?」


「Ωは全員女性っぽいんだろう? だったら、抱けるかもしれない」


「もしも好みじゃなかったらどうするつもりです?」


「その時は……まぁ、親しい友人になってもらうかな。相性が良さそうなαがいたら紹介して嫁がせてもいいし」


「それほどまでガルラド遺跡が気になると?」


「あれは世界の遺産だ。内乱で傷つけられたら堪らない。我が国が金を援助して内政が安定し国内が落ち着けば低迷している遺跡の研究も進むだろう」


「アンタって人は……国益だの男だのにこだわっていたはずが、そういうのを抜きにして遺産の為に婚姻をなさるとは」




呆れ気味だったが、大した反対はされなかった。


 寧ろ他の臣下達が反対し、それを宥めるのに我が幼馴染はかなり苦心していたようだ。


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