第18話 未来への一歩

「ここですね。ケルベロス…いや、勇者のいる洞窟は」


 俺たちは静まり返るその洞窟の前に立っていた。

 あの時と、何一つ変わらない。妙に静かで、不気味なほどに平穏だ。



「にしても不思議ですね。ケルベロスのいた洞窟に人がいるなんて…。それに、そもそも討伐対象だったケルベロスはどこにいるんでしょう?」


「確かにそこも謎だよね。ウチもそれは気になってたんだ。もしケルベロスがいないなら、レインたちの受けたクエスト自体に何か裏があるってことになるし…」


「そうだね。でも…今回はとりあえず勇者だよ。フィリアやエルセーヌ、サンドルを倒した勇者を許せないからね」


「あぁ…ヤツを絶対に許さない。…マーラそろそろ《サーチ》頼む」


「任せてください」


 マーラが軽やかに呪文を唱える。


「《トラップサーチ》!」


 マーラは鑑定士だ。鑑定士はクエストにドロップしたアイテムの鑑定やダンジョンの罠の感知まで…探索ではとても重要な役職だ。


「とりあえず、この辺にはトラップはないようだね。進めるよ」


「ありがとう。じゃあ…行こう」


「「うん」」

「はい」



 ーーと進もうとしたその瞬間、俺は大切なことを思い出した。


「ごめん…やっぱり戻ろう」


「えっ!なんで?ウチらなら大丈夫だよ。きっと倒せる!」


「そうだよレイン。どうしたんだ?君らしくないぞ」


「あぁ…そうかもな。でも、これは対策しないといけなかった」


「何を対策するのですか?」




「ヤツの斬撃だ」


「そもそも俺たちはヤツの斬撃一撃で敗北したんだぞ。それを対処できなければ、今回も前と同じみたいになる」 


 そう、俺たちは敗北した。真正面から挑む前にーー終わっていた。

 ならば今度は、そうならないための準備が必要だ。


「あぁ…それなら大丈夫だよ」

「確かに。アルターがいるから多分大丈夫だね」


「えっ!」


「実は俺の《格納》、この前のメカトロン討伐時のレベルアップで、相手の攻撃も吸収できるようになったんだ。相手へ技を跳ね返すこともできるよ」


 ーーおいおい。めちゃくちゃチートスキルじゃねえか。


「あぁ…そうなのか。それなら良かった…でも、それならお前らのパーティーだけでもこの勇者討伐行けたかもな。お前ならそもそも勇者すら吸収できるだろう」



「それは無理じゃないかな。吸収はできるかもしれないけど、俺の力は“万能”なんかじゃないよ。…万能士だけどね。むしろ……レイン、君が1番それを分かってるはずだろ?」


「……え?」


 アルターの声が、少しだけ静かになる。


「確かに、俺の《格納》は問答無用で相手を飲み込む。でも、それって……相手の想いも何も知らずに、全てを終わらせるってことなんだ。今回の相手は“勇者”ーー俺たちと同じ“人間”だ。レイン、君はそんな倒し方、本心じゃ望んでないはずだ」


「……」


「君は、ズル賢くて、スケベで、いいカッコしたがり。でも……本当はすごく優しい。きっと本音では、勇者と分かり合いたいと思ってるんじゃないか? 剣を交えて、傷を負いながらでも……“ちゃんと戦って、ちゃんと向き合いたい”って」


「アルター……」


「……俺は、信じてるよ。これから、モンスターと人間が分かり合える時代が来るって。たとえ今、彼らが敵だとしても。誰かを想う気持ちは、モンスターだって同じはずだから」


「その考え、すごく素敵ですね」


「うん、ウチも、そんな未来がいい!」


「……ありがとう。アルター、お前のおかげで目が覚めた。確かに俺たちは、勇者のことを何も知らなかった。今回の戦いは、未来への一歩だな」


「そうだね。じゃあ……進もうか」


 そして俺たちは——

 迷いを捨て、決意を胸に。

 勇者の待つ洞窟の奥へと、ゆっくりと歩き出した。





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