第2話 ノクス

 紙片を身体に纏い、再編されるかの如く現れる、赤い姿。英雄然としたその姿を見たものは全員、想像する。

 ヒーローであると。

「な、なんでありますか!その姿は!」

 胸に炎のエンブレム。首に燃え盛るようなスカーフを巻き、炎とページを模った仮面のヒーロー。

「さあな。だが、一つ言えることはある」

 真っ直ぐにファイヤノベルを見つめ、担架を切る。

「俺がその欲望をぶっ潰す!」

 

 その言葉を着火剤とし、駆け出す。

「はぁーっ!」

 繰り出される拳。あれだけ固かった装甲に、ダメージが入るのがわかる。

「グゥっ」

 続いて蹴り。稲妻のように鋭く鉛のように思いその蹴りは、素早く強く響く。

 

 足にマッチで点火されたかのように火が灯る。振っても決して消えない炎を纏うその足は、敵を蹴り上げ炎の痕を作り上げる。

 見事に宙に描かれる火柱。

「まさか、この状況で炎とはな」

 腕と腕を掠らせ着火する。内なるパワーを秘めるように燃え盛る紅蓮を抱える右腕は、敵へ繰り出される。

 炎がエフェクトのように煌めき、閃光を描く。

「ハァァッ!」

 炎の軌跡を真っ直ぐに描き、炎の拳が敵へ激突する。

 ファイヤノベルもよろめき、後方へ吹っ飛ばされる。


「貴様ぁ…。焼き尽くしてやる…!!!」

  怨念のこもった声。それと同時に、肩にあった火炎放射器二門が進太郎に向けられる。禍々しい姿の中で、一際異彩を放つそれは、一切の曇りなく進太郎を見つめる。

「燃えろォーッ!!」

 砲身、発光。

 

 光を認識した瞬間、青い炎が辺りを包む。赤くゆらめいていた火柱すらも青く塗り替える、ルール無用の熱い絵の具は、進太郎に直撃する。

 

 刃、煌めき。


 青く溢れ、進み続ける熱い光源が、両断される。刹那の時間とも言うべき短かさで、青を両断したのは、一本の刀だった。


[ページガンソード!!!]

 メカニカルな意匠を持った赤と銀の太刀。塚にあたる部分には本を模った装置のようなものが付いている。


 そして、その太刀は、炎を青を、切った

「すごい切れ味だな……」

 俗物的な感想しか出てこない進太郎。

「何っ!?」

「こっちの番だ!」

 地面駆け、飛びかかる。固い装甲を切り付ける。

 ギンギンという、金属と金属が激しくぶつかる音が響く。

「こうなったら…!」 

 火炎放射器が地面へ向けられ、そのまま噴射される。炎は勢いがついたまま地面に激突し、ファイヤノベルを空へ飛び立たせる。

 それは、緊急用の逃げの一手。要するに、緊急脱出装置。鈍色の空に舞い上がる、青を纏った消防士は、勢いをつけて慎太郎へ突進してくる。

「潰れろォ!!」

 閃光のような速さと、流星のような勢いを持ち突進してくる異形。

「させるかよ!」

[ページII!!!]

 テンションの高いシステム音声が鳴り響き、太刀は姿を銃へと変える。砲身にエネルギーが灯る。

[チャージ!!]

 砲身の発光が最高潮に高まる。それは、チャージ完了の合図。そして発射への汽笛。

「いくぜ!」

[シュート!!!!]

 引き金が引かれ、エネルギーがぶっ放される。隕石とも言えるその勢い、スピードは、突進してくるファイヤノベルへと命中する。

 放たれ、ぶつかるエネルギーは、敵を爆発で穿つ。


「まだ!」

[ページソード!!!]

 銃は太刀へと変わる。

[タイトルセット!!]

 本を模った装置へ、先ほどの表紙を入れる。

 ラノベのような本へと至ったその装置は、刀身へと力を伝え始める。

[オープン!!]

 ページを開く。炎となったエネルギーが刀身へと溢れ出し、それに呼応するように刃が展開される。


 進太郎は、爆炎に包まれるファイヤノベルを両断せんと飛び上がる。

[メクルスラッシュ!!]

 例の如くシステム音声が叫び、炎が限界を超える。展開したラインの上を走るだけだった炎は、導線に伝わるように、刃全体に着火する。

「ヤァーッ!!」

 

 そして、一閃。放たれる超絶怒涛の一撃は、紅蓮の太刀筋を描き、爆炎と、いまだ燃え盛る火柱を両断する。

 紅の軌跡は、一定時間宙に残り、崩れるように消え去っていく。

 同じ力での相殺という、新手の消火作業も同時進行で終え、灰色に覆う空をも切り裂く。

 切り裂かれた雲からは、青空がのぞき、世界を照らす。


「ぐぅ…。こうなったら、奥の手であります!!」

「何!?お前、まだ生きて……」

 煙の中から立ち上がるは、歪な消防士、ファイヤノベル。禍々しさを感じる、歪な制服は、依然としてそこにあるが、ところどころが傷ついている。

「これが俺の最終奥義、「早着替え」!!」

「は?」

 その瞬間、制服が全て吹き飛ばされた。裸体…ではないが、制服の上着が脱げ、歪なインナーが現れる。まるで、救急隊を描く小説の、下調べのなっていないラストシーンのように。モチーフの本懐をぶち壊すかのように。

 ファイヤノベルは、変化した。

 

「軽量化成功…。これで勝ち申したであります」

 一瞬。ほんの僅かな時間で、接近される。そして打ち込まれる青い炎。

 火炎放射器の砲身も破壊するほどの爆発と共に、進太郎は吹っ飛ばされる。


「くっそ…」

 うまく力が入らず、立ち上がれない。変身のためにつけていたブレスも傷つき自らの身を守っている装甲も崩れ始めている。

(ここで…、ここで…)

 体は何も告げなくとも、頭は、感覚は告げる。「ここで終わればラノベも終わる」と。だが、自分は地面に倒れ伏したまま。

「いい気味でありますねぇ。この俺に逆らったこと、あの世で悔やむであります」

「その前に、一個だけいいか?」

 せめて、死ぬ前に、奴らの目的だけは聞き出す。理不尽と不条理に理由をつけ、この行いが、ある程度の正解だったと、仕方がなかったのだと、自分を納得させたいがために、慎太郎は聞く。

「いいであります。」

「お前らの、目的は?」

「我々の目的は、我らの文学の推進と、悪しき文学の排除。それだけであります」

 

 その返答は、進太郎を奮起させるには十分だった。自分本位、いや、企業本意というべきか。嫌いだから滅ぼすというその短絡的な思考に、怒りを覚える。だから、彼がもう一度立ち上がるには、十分すぎるほどの言葉だった。

「そういうことか…」

 崩れそうになる装甲。赤い装甲は半分くらいすでに消え失せており、仮面は左目にヒビが入っている。

「まだ立ち上がるでありますか?。しぶとい…」

 繰り出される斬撃も、今となっては弱々しく、脅威にすらならない。

 そこに、感情がこもっていようと、体がついてこなければ意味がない。そう進太郎は実感した。

 そして、体に衝撃が走り、意識をなくした


 ところ変わってサキたち。

 進太郎が撃たれ、茫然自失となっていたところ、彼が見慣れない姿で現れたと思われたときは安堵とまだ拭いきれない不安を抱き、行く末を見守っていた。

 

 その時、進太郎が倒れる。

「……!」

 装甲も崩れかけ、勢いも失ったにも関わらず、まだ進み続けるその姿に、サキは少しホッとした。

 だが、その安寧も長くは続かない。大幅な弱体に対し、怪人も回復を待つほど優しくはない。

 大雑把に繰り出される拳。その拳は無慈悲に進太郎を突き飛ばす。拳が直撃し、大きな傷となったその場所からは、血飛沫のように装甲の破片が飛び散っている。

 一見色鮮やかで、芸術のようなそれは、進太郎を慕うサキにとっては、地獄絵図そのものと言っても過言ではなかった。


 地面に膝をつけ、動き出すことのない進太郎。フィギュアのようで、一つの絵にもなっていたそれは、サキの鼓動をただただ速める。

「し、しんたろう…さん…?」

 辛うじて、絞り出されたその声は、悲痛に満ちていた。

「いや、いやです…」

 自然と進太郎の方に足が進んでいく。一歩一歩ふらつきながら着実に、死を確かめるように、そして、生を願うように。



「ちょっと待った。」

 首筋に、生暖かい感触がする。人が心地いいという感じる穏やかな温度を、人肌だと認識する。

 振り返ってみると、中性的で端正な顔立ちの栗毛の人物。ヒナタがいた。

「ダメ、です。早く、いかないと」

「君が巻き込まれるよ?」

「そんなことより、はやく」

(恋する乙女っていうのは、ここまでなのか?)

 ため息混じりの呆れを見せつつ、来ていたコートの内ポケットを探る。小さいものでもないそれは、あっけなく見つかった。

「はぁ。じゃあ、これ」

 そう言って、彼女に手渡したのは、一冊の本。

 サキが一番最初に書いた本。その第1巻だった。

「これは?」

「お届け物だよ。ごめんね。人命救助しながらだったから遅れちゃった」

 

 戦うヒーローと、そこでヒーローをサポートするヒロインの、恋あり、涙あり。熱い展開あり。そして、希望ありの王道が詰まったそのライトノベルは、サキの一番最初の本だった。

 まだweb小説を書いて間もなく、伸び悩んでいたころ。ある意味、自分を救ってくれた人との出会いになった作品であり、サキの思い出の作品。

 そして、今も進太郎が何度でも読み返す、彼のお気に入り。


「これを、どうしろと?」

「あいつに渡せばいいんじゃないかな。あいつなら、ラノベがそこにあるだけで、パワーアップだろうとなんだろうとできそうな気がするし」

 投げやりにも聞こえるその言葉は、友情と信頼の上に成り立つ、確信の言葉だった。

「け、けど」

「ま、そこは親友を信じてあげてくれ。それに何もしないよりかはマシでしょ?」


 その言葉に、先ほどまで、真っ暗だった心が少しずつ明るさを取り戻していく。

 よくよく考えれば、そんな馬鹿な理論は信じるに値するわけがないのだが、慎太郎を前にしてみると、なんだかいけそうな気がしてくる。

 「わかりました。やってみます」


 胸に湧いた微かな希望を乗せ、そのライトノベルは、投擲された。



 目が開かない、足も動かない。胸からは、熱い何かが溢れてくる。虫の息とはまさにこのことかと進太郎は思う。


 もうそろそろ、自分の命は尽きるだろう。おしゃれに言うなら命の灯火が消えるってとこかな。

 などと呑気なことを考え、意識の漂白を感じていた。

 真っ暗な視界の中、ふと、微かに光が見える。


 それは、本の光。

 こっちに向かって飛来してくるライトノベルの気配だった。

「はは…」

 死ぬ寸前に見る走馬灯か、はたまたただの思い込みか。どっちだっていい。


 そこにライトノベルがあるのなら、彼が手を伸ばさない理由にはならない。

 痛みも、怠さも、熱さもかなぐり捨て、飛来してくる本を掴む。

 正確に手の中に収まった、それを一瞥するために、最後の力を振り絞り、目を開ける。飛び込んできたのは、彼のよく知る、お気に入りの作品だった。

 

 作品を手に取ると、不思議と力が湧いてくる。

 その力に呼応するように、右腕に装着されてるブレスが輝く。

 徐々に、体は力を取り戻してゆく。

 それに反応するかのように、本が保護されるように炎に包まれてゆく。

「はは…。これが本の力ってやつか」

 

 体調は万全とはいかないが、力が滾る。

 胸の炎に、希望が灯る。

「まだ立ち上がりますか…」

 装甲も元に戻ってゆき、ついには変身当初の姿へと戻る。

 違いがあるのは、首元の真っ赤に燃えるマフラーと、隙間から滾る赤い炎。


「自分の文学を押し通すために、いや、お前らが嫌いだからライトノベルを消すと言ったな?」

 真っ直ぐにファイヤノベルを見据え、問う。

「その通りであります。芸術を微塵も感じられず、ただ自分が書きたいように書いた。そのようなものを作品とは呼べない。だからこそ、我等は破壊し、我らの文学。正しい文学を推進するのであります」

 炎が燃え上がる。

 溢れ出るエネルギーは、青い空には似つかわしくないほどに燃えたぎる。彼の感情を表すように。


「そうか…」

 迅速に、しっかりとブレず相手を指差す。

「ならば」

 そして、一世一代の大立ち回りをするための、啖呵を切る


「その文学、俺がぶっ潰す!」


[テンションアップ!!!]

 システム音声が声高らかに叫ぶ。

「戯言を.....!もう一度立ち上がろうが、貴様の弱点は知れているであります!」

 猛スピードで接近し、ラノベを奪い去ろうとするファイヤノベル。

「させるか!」

 その弾丸を僅差で躱し、カウンターを食らわせる。そして、月の弧のような軌跡を残す。

 火が灯ったそのラノベは、本体は一切燃えることなく、今も進太郎の手の中にある。

「はあ!」

 重く、高速の拳がファイヤノベルに直撃する。ファイヤノベルは爆発的に広報へと吹っ飛ばされる。

「こんな.....こんなの聞いてないであります!貴様は一体.....!?」

 進太郎は少し逡巡し、すぐに答える。好きなラノベを参考に作った、新たなヒーローの名を。

「そうだな.....俺の名はノクスだ。覚えておけ!」

 

 体調は良いとは対称的な痛みが身体からするが、それとは別にテンションが高ぶっていた。

 ラノベがあることによる嬉しさ。自分が好きなラノベが一冊でも個々にあるという安心感。そして、思い出とともに溢れ出てくる根拠のない前を向かせてくれる感情。

 そのすべてが精神的バフとなり、背中を押してくれる。

「この一撃で決める!」

 点火したラノベは本棚へ収納されるように胸の炉に消える。

 その瞬間、身体中が煌めき炎がより一層強く燃え上がる。


 

 カバートーターに掌をかざす。

[FAVORITE!!!!!]

 炎は紅蓮へと変わり、装甲を赤く照らし染める。

「いくぜ!」

 地を蹴り跳び上がる。炎がブースターの役割となり、ファイヤノベルへ向かって水平に爆発的な加速を生む。

「ハァァァァァァ!!!」

 それは水平な飛び蹴りの形。点火された炎が速度へと対応し、炎の軌跡を描き敵へと突き進む。


 「セイヤァァァァァァァ!!!!」

[エクスリードビクトリー!!!!!]

 そして、敵へ直撃し、貫く。

 立膝で着地し、炎がもう一度燃え上がり、鎮火される。

 大きな爆発が起こり、戦闘が収束する。


 システム音声が、労いを込め、こう告げた

 [GOOD READ]

 

____________________________________

こんにちは作者です。

突然ですが今私の前にはラノベでできたバベルの塔がたっています。そして本棚があありません。困りましたね。

結局何が言いたいかというと、これから先、この作品は私の思春期的、青春的な煩悩を鍛え抜かれた108個の精鋭部隊とも言える煩悩で殲滅及び支配し、えっちな展開も書いていきたいと思いますので、煩悩を鍛え上げて読み進めてください。


あと、この作品は週一投稿にする予定です。感の良い方はお察しですが、日曜日の午前10時に投稿予定です。日本全国の男子が夢中になる一時間三十分のあとです。

ぜひその勢いで読んでいただければと思います。


現場からは以上です

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