第2話 神様はぼくにこうしろってね

  呆然と自分に挨拶を、交わすテレビに、映し出される利佳の姿に、激昂になり、脳内を嬲る血潮が、穏やかにされ、漠然と目を細める初老の男性は、軽く歯を噛み、ゆっくりと机に置かれたリモコンを、手に取り、急いで仕事に戻らなければと、言い聞かせ、いつまでも娘の可愛らしい姿を、堪能したいけれども、それも過ぎると、父親としても、総統としても失格の気がし、どっちつかずの人間にだけは、なりたくはないのだと、ぼんやりとテレビにある利佳の輝く姿を、真っ黒にするモコンに、苦笑いし、仕事に戻るのが億劫だと、一瞬強く思い、ため息を吐く彼は、残念そうに、落ち込む姿を、映し出してる机を見下ろしき。


  「またどうかされたのでしょうか?」悩みを、深まる秘書の酷く心配し、不安そうな声を自分に向け、顔を覗き込む姿に、げんなりになる瞳を、向く初老の男性は、軽く唇を噤、虚しい吐息を零す。


  「性的暴力件ですか?」いとも簡単な一言の中に、秘められる民衆の悲しみや、いくつかの家庭が、このまま破綻するのかも、上手く知れないと言うのに、言葉にし、飄々とした感じに、ため息を吐くのも嫌になり、これといって特効薬を、作り出せない現状と、秘書の話に顎が胸に向け、引かれる初老の男性。


  「人身売買ですか?」弱る自分に、追い打ちを仕掛ける秘書の、心臓を押し潰す言葉に、右手で軽く目尻に溜まる疲れを、解す初老の男性。「それともドラッグ?」なかなか言葉に、返事を向けない初老の男性の、やたらと疲れることだけを感じさせ、背中を回転椅子にもたれかかり、上手く背筋を伸ばせない姿に、ぱちくりする秘書は、気だるそうな彼をこのままぶっ潰してたらなと思い、内心に純粋なる憎悪を隠し、ぽつりと声を上げる、「銃とか?」

  

  自分を重圧で、押し潰す、眉間に黒い黒子が生えた秘書に、揺るぎない眼差しを向く初老の男性は、総統である以上、民衆が遭う問題の何一つにも、目を背くことはないのだと、秘書に言い聞かせたいけれど、綺麗事をほざくところで、実質的に変わる物は、なに一つもないのだと、悔やみ、何度も鼻翼に力を入れ、両手を強く掴む初老の男性は、秘書の眼の奥にある姿を睨めつけ、態度に驚かされ、額を後ろに向け、退かす秘書の顔に迷わずに言う、「全部だ。」


  「ほぉ…」無邪気な子供の如く、叱られた潤む初老の男性の瞳に、秘められる真摯なる思いに、感動され、可笑しく、彼と言う世界の裏にある、残酷なルールのもとでは、あまりにもちっぽけで、脆過ぎる現在に、苦笑いする秘書は、残念そうに何度も首を横に振り、自分らは別に神様でも無ければ、人の奥に潜む邪念を、揉み消せる力も持たない以上、それを根本的に変えるのは、無理なんだと、我儘な子供の初老の男性に、言い聞かせてみたい彼は、ぽつりと渇く唇を開ける、「そりゃあ重たい顔にもなりますわ。」


  酷く他人事の口調で、適当に表した表情に、コメントを残す秘書の様に、目を半開きさせ、両手で顔面を擦って、現実逃避してみる初老の男性は、悔やむように、強めに両手に力を入れ、その行動を取ってはいけないのだと、誰もが世界に自信を、持てなくとしても、人々を導く立場まで、のし上がって来た以上、嫌だろうと、好いようもと、感情とは関係なく、人々を一番平穏な日々を、暮らする状態に、仕上げる責務があるのだと、強く思う初老の男性、「そんな飄々としられないもんだろうよ。」


  初老の男性の叱られた子供みたいに、駄々を捏ねる姿に、口元が目一杯くすぐられる秘書は、ぼんやりと弱る目線を、濃い邪念に脅かされしコーヒーを入れた、白いベースをし、淡い青色を帯びるコップに向く、「しょうがないじゃないですか、」切実なる一言に、刺激され、眉毛を跳ね上げ、恨むように、眉間に皺寄せる初老の男性の態度に笑う秘書は、如何にか責任感の強い彼を、慰めてやらないとなと、適当に忠実なるしもべの演技でも、噛ます、「人間なんですから、その問題は今までも、」


  話に困らされ、歯を噛み締め、無邪気なる子供の彼の、既に自身が紡ぐ話を理解する姿に、苦笑いする秘書、「解決して行けなかったんだし。」


  秘書が現状を、素直に受け入れに行く話に、悔やむ感情を強いられ、何度も鼻翼に力を入れ、悔しく歯を食いしばり、今までが解決ができない問題は、今になっても解決できないのが、当たり前にも気がし、せめて、自身の終焉が訪れるまで、問題が完璧に解決する切口を、作り出しきたいのだと、強く願う初老の男性。

  

  「むしろあなたが就任したことで、」丁寧に左手を軽く、初老の男性の肩に置く秘書は、驚かされ、繊細なる眉毛を跳ね上げ、きょとんとする眼差しを見せる彼に笑う、「少しくらいは治まってるのですから。」


  秘書がどうしようもないことで、悔やむ自分を慰めに、来るのに、心がくすぐられ、決して困難に、屈服してはいけないのだと、普通の人なら困難に頭を下げるのが、当たり前だけれども、人類の将来を背負う自分には、例え頭が困難に潰されたとも、決して困難に頭を下げてはならないのだと、懸命に思い初老の男性、「少し治まったところで、」


  零した厳かなる口調に、戸惑う、漠然と小首を傾げる秘書の姿を見上げ、向きになる子供のように、何度も鼻翼に力を入れる初老の男性は、極めて当たり前に言う、「苦しめられる人々が必ずしも現れる。」彼に投げる酷く当たり前の話に絶句され、あんぐり口を開ける秘書の、困惑気味になる瞳にある自分を、見据える初老の男性は、迷わずに右手の人差し指を立てる、「分かりますかね。」

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