第10話 ごはんと笑顔と、贈り物



───畑仕事を終えた頃には、夜の帳がすっかり降りていた。

二人はひんやりとした空気を感じながら、足早に部屋へと戻っていく。


部屋に戻ると、ほんのり香ばしい匂いが鼻をくすぐった。


「ルゥごめん~!遅くなっちゃった!お腹すいたよね~!!」


「も~、あんたたちがのんびりしてるから、ちゃちゃっとスープ作ってたのよ~」


なんと、ルゥが台所でくつくつと野菜スープを煮込んでいた。

エプロン姿も板について、なかなか様になっている。


「えっ!?ルゥって料理できたの!?」


「ま、あんたほどじゃないけど…多少はね?」


ふふんと鼻高々なルゥ。どうやら“できる女”アピールのつもりらしい。


「そっか~、ルゥありがとう~!」


セレノアが素直にお礼を言うと、途端にルゥの口元がにやり。


「私を省いて二人で仲良く楽しそうだったのでね~~?」


ニヤニヤと楽しそうなルゥの視線。

この晩御飯、どうやら味つけは“ちょっと濃いめ”になりそうだ。


「み…見てたの?」


声のトーンがいつもよりひときわ低いユイノ。

顔には、恥ずかしさと怒りと戸惑いが絶妙なバランスで渦を巻いていた。


「さぁ~?何のことかしら~?」


ルゥはとぼけた顔でニヤニヤ。

その反応に、ついにユイノの堪忍袋の緒がぷつん。


「も~~~っ!!」


ぷんすかしながらも、ユイノはルゥのお古のエプロンをつけて料理を始める。


──怒っていても手が止まらないあたり、やっぱり真面目だ。

その背中をルゥは、どこか楽しそうに見つめていた。





「じゃじゃ〜ん!!」


さっきまでの怒りはどこへやら。

ユイノは満面の笑みで、料理をテーブルに並べた。


「本日のメニューは……香草グリル肉のサンライトベリーソース添え!春雫はるしずくラディとすみれ根菜の彩りサラダ!それから、もふ麦パンにルゥの特製・陽だまりスープ!」


「わ〜!!おいしそ〜う!!」

「ほんとね〜、あたしもお腹ぺっこぺこ~!早く食べよっ!」


「ふふっ、じゃあ……いただきます!」


夢中で頬張る二人の姿を見ながら、ユイノの胸にじんわりとした温かさが広がっていく。


──誰かのために作るご飯って、やっぱりちょっと違う。


「美味しい」って思ってくれたらいいな。

「元気になってほしい」って願いながら選んだ食材たち。

そんなふうに、誰かを想って作る料理は、いつのまにか自分の心も温めてくれる。


この二日間でそのことを、あらためて知った気がした。




「ん〜っ!なんか、食べただけで疲れが取れた気がするわ〜!」


「ルゥも?僕もなんだか…力が湧いてきた気がするよ!」


「えっ、それって…もしかして!」


ユイノがスキル表を念じると、淡く光る画面に〈料理の才覚+1〉の文字が浮かび上がった。


「やっぱり!料理スキルが1上がってる!」


「いいね〜!これはもう、どんどん作ってもらわなきゃ〜!」


とセレノアが目を輝かせている。


「それ…ただユイノの料理が食べたいだけでしょ〜!」


「いや…それは……ははは」


三人の笑い声が、夜の風に乗って窓からふわりと流れていく。


──誰かと一緒に食べるご飯って、やっぱり特別。

ユイノはまた一つ、大切なことを思い出していた。



───食後、ユイノが片付けを終えたタイミングで、ふとつぶやいた。


「……そういえば、お風呂入りたい……」


ぽそりと漏れた言葉は、満腹でちょっぴり眠気も感じていた空気を、ふんわりと動かす。


「あら~?行く~?私は"チカラ"のおかげで体が汚れないからあんまり必要ないけど」


ルゥがスープのお椀を手にしながら頷く。

セレノアの手前、"神気"という言葉は出せないのだ。


「ルゥは不思議な力を持ってるんだね?でも僕も入れるなら入りたいな。あったかいお風呂って、やっぱり癒されるし」


セレノアの言葉に、ユイノは少し考える。


「そうだ、ファノア村って確か……お風呂屋さんあったよね?えっと……」


「“星湯亭せいとうてい”でしょ。村の外れにある、でっかい岩風呂があるとこ~」


ルゥが指でくるくると空をさしながら言った。


「そこ行こうよ!」


ユイノがぱっと顔を輝かせると、ルゥは面倒くさそうに見せかけて、でもちょっと嬉しそうに立ち上がった。


「はいはい。じゃあさっさと着替え持って出発するわよ~。今日も頑張ったごほうびってことで!」


「あ…でも私、パジャマないんだった…今日服屋さんにも行こうと思ってたのに~!!」


今朝の恥ずかしい事件を思い出し、少し赤くなるユイノ。


「あ…それなんだけど…」


セレノアが言い出しづらそうにつぶやく。


「今日、お昼寝する前に街まで行ってきたんだ……ユイノ、寝るときの服がないって言ってたでしょ?これからお世話になるし、せめてこれだけはと思って。受け取ってくれる?」


「え…い、いいの?…あ、ありがとう…!」


男性からプレゼントをもらうのは初めてで、戸惑いながらもユイノはそっと包みを受け取った。

中には、ふんわりとした薄ピンク色のパジャマ。手触りも心地よく、これならきっといい夢が見られそうだ。


「ふぅん~、いいわね~。でも……あたしのこと、忘れてるみたいだけど? ルゥはお邪魔だったかしら?」


顔をぷくっと膨らませてご機嫌斜めのルゥに、セレノアは慌てて笑いかける。


「ごめんごめん!もちろん、ルゥにもあるから!」


そう言うと、セレノアは小さな包みを差し出した。


「はい…これ!」


包みを開くと、そこには「星屑の髪飾り」が収められていた。

繊細な銀糸で編まれた星形のモチーフに、小さな光を宿す石が散りばめられ、動くたびにきらりと輝く。


「えっ…!?…ふぅん~?…なかなかセンスいいじゃない? ありがと」


ルゥは驚いたように髪飾りを見つめてから、くすっと笑った。


「それじゃ、行きましょうか~!」


「そうだね!行くなら早めがいいかも。夜は星空が湯船に映って、すごく綺麗なんだってさ」


「うわ〜〜!それ絶対見たい!!」


こうして三人は、静かな夜道を歩いて“星湯亭”へ向かうことになった。


──満腹のあとに、温かいお風呂と星空。

それはまるで、心のご褒美みたいな時間だった。











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