第8話  屋敷のハウスキーパーさん

「お邪魔します」

「みんなー! たっだいまー!」


天井に咲いていたのは、金細工で編まれた蝋燭之花シャンデリア

足元には、散った灯の花弁のような深紅の絨毯が敷き詰められていた。


奥の暗がりには、誰も座らぬ長机と、時の重みに打たれた木椅子たちが、誰かの帰りを静かに待つように佇んでいる。


広くも空虚な空間は、豪華絢爛とは程遠く、どこか錆びついたような哀愁が漂っていた。




「わたくしはロールズ殿に先ほどの件を伝えて参ります。あとはハウスキーパーたちの指示に従ってください」


そう言うとレンは、二階へと続く階段を上り、やがて屋敷の薄暗がりに消えていった。





「シュリュッセル、ハウスキーパーとは何のことですか?」


「屋敷の家事を代行してる人たちのリーダー、ってとこかなー……って、いつの間に?」


ふと前方を見ると、尼そぎをした黒髪の少女が仁王立ちしていた。

花模様があしらわれた橙色の服を着ており、それはどことなく、私の祖国の着物にも似ている。


「シュリュッセル、遅か。何しとったん?」


「助手を拾ってきた」


「……どげんしたって?」


「右、コイツを拾ってきた」


その言葉に、少女はちらりと私を一瞥する。

少し驚いたような表情を見せたが、すぐにシュリュッセルの方へと視線を戻した。


「シュリュッセル、アウトー!」


と、彼女はジト目で右手を縦に立てる。


……なんだそれは。


「いや、セーフよ。私のストライクゾーンにはちゃんと収まってるわ」


シュリュッセルは腕を組み、ふふんと鼻を鳴らした。


「ばってん、ゾーン内に来ても打たんと、アウトばい」


「こいつ、明らかに異邦人。やけん、その奇妙さにバットを当てるのも一苦労たい」


そう言って、少女は失礼にも私に指を指す。


「そうかしら.....? あたしには全部ストレートにしか見えないわ」


「すみません。それは、どこかの遊戯の例えでしょうか?」


私には不可解な比喩語であり、思わず口に出してしまった。


「ああ、知らんか。ウチらは、とある国の奇怪な競技に例えとるとよ」


「奇怪って失礼ね。言葉に責任を持つべきよ」


なら、お前も『拾ってきた』なんて言うなよ.....。


「アンタの趣味は毎度、変わっとるばい」


「てか、あなたが始めた会話じゃない。とにもかくにも、ミチカゲの実力を見てから判断してちょうだい」


と、シュリュッセルは私の肩に軽く手を置いた。


「はあー……もうよか。ロールズさんに叱られてしまえ!」


少女はしかめっ面でシュリュッセルを睨んだ。


「逆よ。きっと褒められるわ。『偉いですよ、優秀な探偵さん』って」


そっぽを向いたシュリュッセルが、睨まれると脊髄反射で睨み返す。


「たく……この程度で勘弁しちゃる」


「ふふん」


いや、全然褒められてないだろ……。

シュリュッセルはまるで裸の王様のように、誇らしげに鼻を鳴らす。


「二人とも、夕食があるけん来い。片付け終わらんと、ウチ寝られんのよ」


ごめんよ……。


それにしても、この世界に“遭難”してからわずか一日で、夕食を二回もいただけるとは。


……いや、予想できるのは私くらいのものか。


「ごめんなさい……私のせいで、色々とご迷惑をおかけします」


「分かればよか」


少女は手にしたトレイを小脇に抱え直すと、ふっと息をついた。


「自己紹介がまだやったね……ここでの名前はアカルナ。ウチが例のハウスキーパーばい」


アカルナはスミレの花のように、ぎこちなく笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る