第8話 屋敷のハウスキーパーさん
「お邪魔します」
「みんなー! たっだいまー!」
天井に咲いていたのは、金細工で編まれた
足元には、散った灯の花弁のような深紅の絨毯が敷き詰められていた。
奥の暗がりには、誰も座らぬ長机と、時の重みに打たれた木椅子たちが、誰かの帰りを静かに待つように佇んでいる。
広くも空虚な空間は、豪華絢爛とは程遠く、どこか錆びついたような哀愁が漂っていた。
「わたくしはロールズ殿に先ほどの件を伝えて参ります。あとはハウスキーパーたちの指示に従ってください」
そう言うとレンは、二階へと続く階段を上り、やがて屋敷の薄暗がりに消えていった。
◆
「シュリュッセル、ハウスキーパーとは何のことですか?」
「屋敷の家事を代行してる人たちのリーダー、ってとこかなー……って、いつの間に?」
ふと前方を見ると、尼そぎをした黒髪の少女が仁王立ちしていた。
花模様があしらわれた橙色の服を着ており、それはどことなく、私の祖国の着物にも似ている。
「シュリュッセル、遅か。何しとったん?」
「助手を拾ってきた」
「……どげんしたって?」
「右、コイツを拾ってきた」
その言葉に、少女はちらりと私を一瞥する。
少し驚いたような表情を見せたが、すぐにシュリュッセルの方へと視線を戻した。
「シュリュッセル、アウトー!」
と、彼女はジト目で右手を縦に立てる。
……なんだそれは。
「いや、セーフよ。私のストライクゾーンにはちゃんと収まってるわ」
シュリュッセルは腕を組み、ふふんと鼻を鳴らした。
「ばってん、ゾーン内に来ても打たんと、アウトばい」
「こいつ、明らかに異邦人。やけん、その奇妙さにバットを当てるのも一苦労たい」
そう言って、少女は失礼にも私に指を指す。
「そうかしら.....? あたしには全部ストレートにしか見えないわ」
「すみません。それは、どこかの遊戯の例えでしょうか?」
私には不可解な比喩語であり、思わず口に出してしまった。
「ああ、知らんか。ウチらは、とある国の奇怪な競技に例えとるとよ」
「奇怪って失礼ね。言葉に責任を持つべきよ」
なら、お前も『拾ってきた』なんて言うなよ.....。
「アンタの趣味は毎度、変わっとるばい」
「てか、あなたが始めた会話じゃない。とにもかくにも、ミチカゲの実力を見てから判断してちょうだい」
と、シュリュッセルは私の肩に軽く手を置いた。
「はあー……もうよか。ロールズさんに叱られてしまえ!」
少女はしかめっ面でシュリュッセルを睨んだ。
「逆よ。きっと褒められるわ。『偉いですよ、優秀な探偵さん』って」
そっぽを向いたシュリュッセルが、睨まれると脊髄反射で睨み返す。
「たく……この程度で勘弁しちゃる」
「ふふん」
いや、全然褒められてないだろ……。
シュリュッセルはまるで裸の王様のように、誇らしげに鼻を鳴らす。
「二人とも、夕食があるけん来い。片付け終わらんと、ウチ寝られんのよ」
ごめんよ……。
それにしても、この世界に“遭難”してからわずか一日で、夕食を二回もいただけるとは。
……いや、予想できるのは私くらいのものか。
「ごめんなさい……私のせいで、色々とご迷惑をおかけします」
「分かればよか」
少女は手にしたトレイを小脇に抱え直すと、ふっと息をついた。
「自己紹介がまだやったね……ここでの名前はアカルナ。ウチが例のハウスキーパーばい」
アカルナはスミレの花のように、ぎこちなく笑った。
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